第4話 13人目には魔女を
文字数 3,054文字
天気スキル:あらゆる天候を引き起こせる
室内も例外ではない
直接人の頭に雷を落とすこと
はできない。
+++++++++++
全 が奏でる不穏なメロディとともに夕食をとることになった。窓の外は嵐だ。
おそらく、全は天気スキルをもっている。
天気を自由に設定できる天気スキルは密室や証拠隠滅などに使えるだけだなく、屋内でも使えた。
おかしいと思わないのか?
なぜか屋内で雷を落としたり雨雲で水責めできた。
さすがに直接人の頭に雷や巨大な雹を落とすことはできないが、熱波で死亡推定時刻を撹乱したり、雪による密室を作ったり、強烈な日差しで火災にも活用できる設計なのだ。
雷が鳴り始め、歌まで聞こえた。
「るーるるっるーるばーんー」
商品名をねじ込んでくる宣伝。
参ったな。止める人間をさっき殺したばかりだそ。
かまわず姓牙淵 は言う。
「本拠地 様が返り討ちにあってお亡くなりになられました。そして野獣様が何者かの手によって命を落としました。身元はかろうじて形を保っていた左の小指の指紋から内田様に鑑定していただきましたわ」
科学スキルは様々な鑑定機を召喚できる能力だ。何個でも召喚できるし、使用後も残る。
だからどうしてこう、魔術的にするのか。
指紋検証セットを片手にピースしながら内田は説明した。
「爆弾並みの威力でしたけど、断面からして医療スキル殺しでしょうねー。となると変装スキルは持っていないってことになります。単独犯ならば、ですが。犯人は返り血で大変だったと思います。アイテムとして漂白剤をもっているか、レインコートの類を隠すか捨てるか焼くかしているはずです。それにしても足跡や身体が血飛沫を受けて生まれる空白がないのは気になりますね」
形ばかりのため息を吐いて、姓牙淵は見回した。
「主人として、昼食から事件発覚までの間の皆様の行動についてたずねなければなりません。昼食を終えたのは13時頃です。14頃に野獣様の部屋にシーツ交換に向かった潮尾がご遺体を発見いたしました。では、よろしいかしら?」
各々うなずき、前回同様術中 から証言する。
「私は部屋にいました。1人です。夜中は危険なので、昼間のうちに仮眠しました」
11時の位置には誰も居ない。全を一瞥してから半崎 が口を開いた。
「俺は1人で島の東側を散歩してましたよ。船着場も通ったけど、誰も見てないですね」
ピアノを弾きながら、全は首を傾げた。
「私は1人で部屋にいて、たしか13時半くらいに宣伝さんがいらしたので一緒にセッションを」
訪問宣伝してたのかよ。気をつけよう。
化狐 は意外にもアリバイがあった。
「自分はここで姓牙淵さんと話してましたよ。ファンなんでつい」
「楽しかったわ」と姓牙淵が応じた。
次は華満 だ。
「私はお花を摘んでおりました。銃声が聴こえるまでずっと」
島の西側に居たということだ。ぼくは言う。
「13時すぎにぼくたちより少し先を歩いて花畑の方に行くのを見ました」
内田が手をあげる。
「次は俺ですねー。俺は本拠地さんの尾行をしてましたよ! そこで見たんです! 本拠地さんが深湯甕 くんたちを襲うところを!」
つづいてぴしっと宣伝の手があがる。
「私は生き残らなくてはなりません!潮尾 様がお掃除やシーツ交換をしてくださっている間、ルルバンの魅力をご説明し、その後全様の元へ。ありがたいことに全様はルルーー」
「もう結構よ」
ぴしゃりと姓牙淵。
閻羅 がのんびり言った。
「僕たちは滝のあたりで本拠地さんに襲われて内田さんに助けてもらったよ」
化狐がちょっといいかなと声をかけた。
「野暮で悪いが。潮尾さんはこの先入れ替わり相手と顔を合わせるわけだよね?」
事件解決のタイムリミットは残り3日と数十時間。清掃を拒むこともできるが、それはそれで犯人だとしれる。
プレイする際、皆が部屋に縛られている状態だ。
実際に給仕や掃除をする瀬尾だけがワゴンにパソコンを載せてリアルの部屋にも出入りする。
潮尾はきっぱりと宣言した。
「私が知るのは、お屋敷にご招待したお客様のことだけです」
現実世界のことは口外しない。
ホテルの従業員ならば個人情報をもらさないのは当然。
しかし、彼女は本物 の探偵だった。
深湯甕家が運営する探偵社からホテルに送り込まれたのは1年前に遡る。
はじめて開催されたリアルタイムフェスの招待を断った閻羅は、すぐにスパイを送り込んで準備を整えた。今回は満を持しての参戦だ。
目論見どおり今年も同じ会場での開催が決まり、潮尾も大役を射止めた。
代々大企業の経営者から嫁をもらう深湯甕の資産はかなりのもので、閻羅は金に糸目をつけずに捜査ができる。
操作といってもいいほど、あらゆる手を使う。
主催者側も織り込み済みなのだろう。フリースタイルに集まるのはトリッキーなものをなによりも愛する連中だ。
アリバイ確認が終わって、雑談が始まる。
殺す相手に対して因縁を持つ者はたいしていないだろうが、勝ちたい、商品が欲しいという欲望は十分な動機だ。
前回のフェス勝者、半崎に内田が訊ねた。
「聞いてもいいですかね? 前回優勝してスキルを増やしましたよね? 占いっていうのも半崎さんの案ですか?」
参加者がある程度わかる対閻羅フェスとかしている今回と違って、第一回目のリアルタイムフェスは誰もが正体を隠し、13人中4人が探偵だった。
科学スキルの持ち主がいなかっため、半崎は毒殺に終始し見事優勝している。
気負う様子もなく、ディフェンディングチャンピオンは首肯した。
「そうっすよ。基本的に俺は料理以外を使わないんですけど。もっと探偵の力になるスキルがあった方が盛り上がるかなって」
使用頻度の多いスキルである料理スキルを常用する半崎には、スキルを見抜かれる占いは厄介なはずだが、勝率のいい半崎は難度を上げることを選んだのだ。
変えたいと望む者もいれば、変化を拒む者もいる。
内田はみんなに向かって問いかけた。
「みなさんは優勝したら何を頼みます? ちなみに私は科学スキルをもっと強化したいですね!」
宣伝がこれでもかと手をあげる。
「コマーシャルを入れたいです!」
華満は呟くように答えた。
「私はもっと綺麗にしたいです。綺麗な殺人は誰にも咎められないもの」
宝石生成スキルやお花栽培スキルでも足すつもりだろうか。
このゲームの場合、それでも凶器や毒が作れそうだな。
全が答える。
「私はプレイヤー以外に劇伴をつける参加者の枠も設けてもらいたいですね。どうしてもフリースタイルは音楽が単調になりがちなので」
化狐は首を捻る。
「考えてこなかったな。打ち上げが目当てなんで」
前回、商品を受け取りに行った半崎以外は飲み会に行ったそうだ。
第二回では半数ほどメンバーが変わっているが、顔見知りとなり今回共闘している者がいてもおかしくはない。
術中は語る。
「私は変えるつもりがありません。このゲームの肝はプレイヤーであって、新奇性を求めて仕組みに手を入れ続ければ、楽しさが磨かれるどころか減ってしまうと思っています」
閻羅は笑う。
「僕も変える気はないかな」
黙っていたら、姓牙淵がぼくに水を向けた。
「あなたは?」
みんなの視線がぼくに向けられる。仕方ないので適当なことを言った。
「証拠を集めやすくしたいですね。スキルの存在が曖昧なので」
体力に関係するので仮想のご飯も消費した。
事件が起こると分かりきっているため、毎回内田が薬物検査キットで安全を確かめてくれる。
まったくおかしな集まりだ。
夕食会が終わり、部屋に戻ろうとしたぼくたちは化狐に引き止められた。
「少し話さないか?」
室内も例外ではない
直接人の頭に雷を落とすこと
はできない。
+++++++++++
おそらく、全は天気スキルをもっている。
天気を自由に設定できる天気スキルは密室や証拠隠滅などに使えるだけだなく、屋内でも使えた。
おかしいと思わないのか?
なぜか屋内で雷を落としたり雨雲で水責めできた。
さすがに直接人の頭に雷や巨大な雹を落とすことはできないが、熱波で死亡推定時刻を撹乱したり、雪による密室を作ったり、強烈な日差しで火災にも活用できる設計なのだ。
雷が鳴り始め、歌まで聞こえた。
「るーるるっるーるばーんー」
商品名をねじ込んでくる宣伝。
参ったな。止める人間をさっき殺したばかりだそ。
かまわず
「
科学スキルは様々な鑑定機を召喚できる能力だ。何個でも召喚できるし、使用後も残る。
だからどうしてこう、魔術的にするのか。
指紋検証セットを片手にピースしながら内田は説明した。
「爆弾並みの威力でしたけど、断面からして医療スキル殺しでしょうねー。となると変装スキルは持っていないってことになります。単独犯ならば、ですが。犯人は返り血で大変だったと思います。アイテムとして漂白剤をもっているか、レインコートの類を隠すか捨てるか焼くかしているはずです。それにしても足跡や身体が血飛沫を受けて生まれる空白がないのは気になりますね」
形ばかりのため息を吐いて、姓牙淵は見回した。
「主人として、昼食から事件発覚までの間の皆様の行動についてたずねなければなりません。昼食を終えたのは13時頃です。14頃に野獣様の部屋にシーツ交換に向かった潮尾がご遺体を発見いたしました。では、よろしいかしら?」
各々うなずき、前回同様
「私は部屋にいました。1人です。夜中は危険なので、昼間のうちに仮眠しました」
11時の位置には誰も居ない。全を一瞥してから
「俺は1人で島の東側を散歩してましたよ。船着場も通ったけど、誰も見てないですね」
ピアノを弾きながら、全は首を傾げた。
「私は1人で部屋にいて、たしか13時半くらいに宣伝さんがいらしたので一緒にセッションを」
訪問宣伝してたのかよ。気をつけよう。
「自分はここで姓牙淵さんと話してましたよ。ファンなんでつい」
「楽しかったわ」と姓牙淵が応じた。
次は
「私はお花を摘んでおりました。銃声が聴こえるまでずっと」
島の西側に居たということだ。ぼくは言う。
「13時すぎにぼくたちより少し先を歩いて花畑の方に行くのを見ました」
内田が手をあげる。
「次は俺ですねー。俺は本拠地さんの尾行をしてましたよ! そこで見たんです! 本拠地さんが
つづいてぴしっと宣伝の手があがる。
「私は生き残らなくてはなりません!
「もう結構よ」
ぴしゃりと姓牙淵。
「僕たちは滝のあたりで本拠地さんに襲われて内田さんに助けてもらったよ」
化狐がちょっといいかなと声をかけた。
「野暮で悪いが。潮尾さんはこの先入れ替わり相手と顔を合わせるわけだよね?」
事件解決のタイムリミットは残り3日と数十時間。清掃を拒むこともできるが、それはそれで犯人だとしれる。
プレイする際、皆が部屋に縛られている状態だ。
実際に給仕や掃除をする瀬尾だけがワゴンにパソコンを載せてリアルの部屋にも出入りする。
潮尾はきっぱりと宣言した。
「私が知るのは、お屋敷にご招待したお客様のことだけです」
現実世界のことは口外しない。
ホテルの従業員ならば個人情報をもらさないのは当然。
しかし、彼女は
深湯甕家が運営する探偵社からホテルに送り込まれたのは1年前に遡る。
はじめて開催されたリアルタイムフェスの招待を断った閻羅は、すぐにスパイを送り込んで準備を整えた。今回は満を持しての参戦だ。
目論見どおり今年も同じ会場での開催が決まり、潮尾も大役を射止めた。
代々大企業の経営者から嫁をもらう深湯甕の資産はかなりのもので、閻羅は金に糸目をつけずに捜査ができる。
操作といってもいいほど、あらゆる手を使う。
主催者側も織り込み済みなのだろう。フリースタイルに集まるのはトリッキーなものをなによりも愛する連中だ。
アリバイ確認が終わって、雑談が始まる。
殺す相手に対して因縁を持つ者はたいしていないだろうが、勝ちたい、商品が欲しいという欲望は十分な動機だ。
前回のフェス勝者、半崎に内田が訊ねた。
「聞いてもいいですかね? 前回優勝してスキルを増やしましたよね? 占いっていうのも半崎さんの案ですか?」
参加者がある程度わかる対閻羅フェスとかしている今回と違って、第一回目のリアルタイムフェスは誰もが正体を隠し、13人中4人が探偵だった。
科学スキルの持ち主がいなかっため、半崎は毒殺に終始し見事優勝している。
気負う様子もなく、ディフェンディングチャンピオンは首肯した。
「そうっすよ。基本的に俺は料理以外を使わないんですけど。もっと探偵の力になるスキルがあった方が盛り上がるかなって」
使用頻度の多いスキルである料理スキルを常用する半崎には、スキルを見抜かれる占いは厄介なはずだが、勝率のいい半崎は難度を上げることを選んだのだ。
変えたいと望む者もいれば、変化を拒む者もいる。
内田はみんなに向かって問いかけた。
「みなさんは優勝したら何を頼みます? ちなみに私は科学スキルをもっと強化したいですね!」
宣伝がこれでもかと手をあげる。
「コマーシャルを入れたいです!」
華満は呟くように答えた。
「私はもっと綺麗にしたいです。綺麗な殺人は誰にも咎められないもの」
宝石生成スキルやお花栽培スキルでも足すつもりだろうか。
このゲームの場合、それでも凶器や毒が作れそうだな。
全が答える。
「私はプレイヤー以外に劇伴をつける参加者の枠も設けてもらいたいですね。どうしてもフリースタイルは音楽が単調になりがちなので」
化狐は首を捻る。
「考えてこなかったな。打ち上げが目当てなんで」
前回、商品を受け取りに行った半崎以外は飲み会に行ったそうだ。
第二回では半数ほどメンバーが変わっているが、顔見知りとなり今回共闘している者がいてもおかしくはない。
術中は語る。
「私は変えるつもりがありません。このゲームの肝はプレイヤーであって、新奇性を求めて仕組みに手を入れ続ければ、楽しさが磨かれるどころか減ってしまうと思っています」
閻羅は笑う。
「僕も変える気はないかな」
黙っていたら、姓牙淵がぼくに水を向けた。
「あなたは?」
みんなの視線がぼくに向けられる。仕方ないので適当なことを言った。
「証拠を集めやすくしたいですね。スキルの存在が曖昧なので」
体力に関係するので仮想のご飯も消費した。
事件が起こると分かりきっているため、毎回内田が薬物検査キットで安全を確かめてくれる。
まったくおかしな集まりだ。
夕食会が終わり、部屋に戻ろうとしたぼくたちは化狐に引き止められた。
「少し話さないか?」