第14話 ミス、そしてミス

文字数 1,913文字

 目:検査キットを所持していない場合
   目を調べることで生死がわかる

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冷戦期、アメリカが超能力を研究していたのは有名な話だ。
ありそうでなかった超能力。
事の顛末はもっと知られてもいい。

ぼくは言い返した。

「慎重なだけですよ。あなたと違って」

本拠地(ほんきょぢ)はおおげさに首をかしげた。

「君の方がよっぽど深湯甕(くがえ)らしいな? 世間の思う深湯甕そのものだ。なぜだ? 手飼いの猟犬ならば主人の横でうるさくはしないだろうに。うむ、なるほどな。君は深湯甕、いや深湯甕の成り損ないだ。術中の言う半端者なんだろう? 君らは有名人だからな。血の濃い者ならば刈耳(かるみ)を避ける。よって参加などあり得ない。君が私の姿を確認したように。私も君の年恰好を知ることになったわけだが。一族内で当てはまる少年はただ1人。2代にわたって他家の人間を迎えた稀有な存在。深湯甕同士でない家は面白いくらいに1人っ子ばかりだ。はっ、もっとも深湯甕から遠く、もっとも危険な深湯甕。君は深湯甕踏絵(ふみえ)くんだ。違うか?」

「もっとも危険?」

危険だって。
危険でいいのか? いいのならーー

すぐに閻羅が止めにはいる。
現実で。

腕を引っ張られている。
ぼくはようやく自分が怒っていることに気がついた。本拠地よりも前、術中がはからずもぼくを半端者と表現した時から。

ぼくは笑ってみせる。

「確かにぼくは深湯甕踏絵です。えーっと。なんでしたっけ? スーパーナチュラル? それをゲームで証明するんですか? 仮に何千回当てたとして、本人だけがプレイしているとは限らないでしょう? 特殊な仕様ですからね。構造的な問題もあるかもしれませんし」

本拠地はいよいよ首をかしげた。

「誰がそんな事を言った?」

お前だよ。いや、言ってないのか?

「あれ……。とにかく他人の勘に頼るのはやめましょう……。外したことはないですが、すべてを解決してきたわけではないので」

術中(すべなか)がくすりと笑った。

「なぜだと思います? 超直感を持ちながら、逃した犯人がいる」

ぼくは即答する。

「証拠がなかったからですよ。スキルのせいでめちゃくちゃだ」

「いいえ。逮捕する気がおきなかったんですよ」

「見逃すなんてーー」

コツッと足音がした。

身構えるとそこには潮尾(うしおび)がいた。

「潮尾の三つ子の妹、潮尾です」

本拠地が叫んだ。

「6人だぞ!」

人数が増えていない(・・・・・・・・・)

その意味を理解するより早く、銃声が轟く。

かろうじて身体が動いたおかげで、銃弾が潮尾1号に当たる。

変身スキルだ。

くそっ!

閻羅(えんら)! 知ってたんだろ!」

閻羅は天徒(あまと)が生きていることに気づいていた。
しかし黙っていた。

閻羅は裏のない笑顔で言う。

「フミくんなら、事件を防げるよ」

簡単に言うなよな!

ーーああ、最悪のやつあたりだ。
ぼくの落ち度じゃないか!
初歩的なミス。
現実よりも死体のふりは容易い。
内田に任せきりにしていたぼくは、死亡確認をおこたった。

ぼくは潮尾1号を盾にする。

本拠地が閻羅を襲うんじゃないか。
そんな考えがよぎってさらに焦る。たが本拠地は閻羅の後ろに隠れて弾を避けていた。

絶対に信用できないが先に天徒だ。

ぼくには犯人を見抜く力もなければ、探偵たちのような推理力も、警察のような捜査力もない。
だからせめて、番犬として役に立とうと決めていた。

このゲームはあきれるほど格闘に特化しているから、現実のスキルが役に立つ。

ぼくは潮尾1号を捨てて、左に飛んで壁を蹴った。遅れて右に身体を捩った天徒の右腕を絡め取りながら片腕1本で引き倒す。
取り落とした拳銃を蹴飛ばし、腕を捻りあげて制圧しかけたところで、変装。

否、変身だ。

プロレスラー並みの筋肉。倍増した体積とパワーに吹き飛ばされる。

ーーもう、いいよな?

ぼくは振り回される拳をかいくぐって左膝に触れた。
医療スキルで壊す。

ゲームはいい。
痛みがないから。

左膝が壊れて傾く身体。

幸いなことに、変身しても怪我は治らない。

回り込んで右膝に触れる。

「ぎゃあっ!」

野太い声を上げながら、天徒は倒れた。

拳銃を拾い上げて本拠地が言う。

「その調子で術中もつかまえてくれたまえ」

ぼくは右手を突き出した。

「拳銃を渡してください」

本拠地は肩をすくめた。

「これは君のものかね?」

「違いますけど」

「主人公のつもりか? 私からすれば君も犯人たりえる」

睨み合いが続く。
術中が見ている手前、不用意に動くこともできない。

コツッと、今度こそ本物のメイドがやってきた。

「潮尾の三つ子の妹、潮尾です」

本拠地は視線を潮尾に移し憎たらしく笑っている。

「ここは公平(フェア)に運営の手先に預けるとしよう」

そう言って本拠地は拳銃を差し出し、受け取った潮尾はそのまま拳銃を構えた。

すっとぼくへ向く銃口。

「フミくん!」

飛び込む閻羅。

そして銃口が火を吹いた。


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登場人物紹介

姓牙淵 無黒/かばねがふち むくろ

ゲーム主催者。

術中 百中 / すべなか ひゃくちゅう

シナリオライター

野獣 / やじゅう(フォーヴ)

殺人鬼

医療スキルの達人

半裂 ささら / はんざき ささら

殺し屋

料理スキルを好んで使う

全 音符 / まった のーと

作曲家

ダイニングメッセージの名人

化狐 / ばっこ

翻弄する人

狐ポーズで有名な容疑者

花満 花蘂 / はなみつ はなしべ

死体アーティスト

内田 菊苗 / うちだ きくなえ

サイエンティスト

相棒役が得意

宣伝 第一 / せんでん だいいち

広告の一形態


本拠地 唯 / ほんきょぢ ゆい

探偵

自分以外の探偵を認めず排除する

潮尾 / うしおび

メイド

本業は探偵

深湯甕 閻羅 / ふかえ えんら

悪名高い警察一家の跡取り

権力と資産を背景に警察力を発揮する

山田 / やまだ (深湯 踏絵 / くがえ ふみえ )

閻羅のはとこ

刈耳 尊扉 / かるみ とうと

ミスサイティドミステリーの発案者

閻羅の母

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