第3話 軽き魂は扉を渡り歩く
文字数 2,026文字
医療スキル:自身や他人の身体に
エネルギーを与える
治療や、破裂させたりできる
作用させるには
素手による接触が必要
+++++++++++++
まずは探偵を殺せ。
犯人勝利の鉄則だ。
オンラインゲーム『ミスサイティドミステリー』は探偵サバイバルゲームである。
生存者の内、最も多くの事件を解決した者、あるいはより多くの人間を殺して捕まらなかった者が勝者となるため、推理よりも戦闘力が重要だった。
リアリティラインはところどころファジーで、この世界には魂があると言っていい。
入れ替わりだってある。
端末を操作している人間がかわるだけの話だが。
ぼくは元の身体、というか元の席に戻って自分の治療をした。
ぼくが持っているスキルは医療だ。
治療というより、身体に力を与える魔法と考えた方がいい。
野獣がはじめて犯行に応用し、それを見抜いたのが閻羅 だった。
ぼくは冷や汗をかきながら死体を見下ろしていた。
野獣の遺体に変化はない。変装の場合は死ぬと勝手に元に戻る。
魔法だと言われるのもかくありなむ。
「共闘か?」
ぼくの問いかけに閻羅は首をひねった。
「最低1人はそう。今は野獣さんの身体をつかってる。でもそれが本拠地 さんとは限らない。そもそも本物は招待されてない可能性だってある」
「それだと本物は怒りそうだけど、共闘するタイプとも思えないしな」
「最悪、フリーになった野獣さんの魂が他の協力者になり変わったり、部屋を訪ねて行って無理やりかわることだってありえないわけじゃない」
「次手合わせしたら確実に死ぬな……」
想定していたよりも厄介な状況だ。
今回の特別ファイトはリアルタイムモード、つまり現実と同じ時間経過でさらにはプレイヤー外にも公開されている。視聴者はすべてのプレイヤー画面を観戦出来るので、犯人がまるわかりだ。
ゲーム画面はプレイヤー視点である。コマンドは見えないので、トリックの詳細がわからないこともあるが、流石に犯人がわかるのだ。
目を瞑ると画面は暗くなり、ここぞという場面で視線を逸らしたり、目を細めたり激しく動かしたりして決定的瞬間を隠すことは可能だが、やっぱり犯人はわかる。
そのためプレイヤーは事前に外部との連絡手段、主にスマホを運営者に預けていた。
ーーそう、会場があるのだ。
東京カルミホテル45階。プレイヤーはそれぞれ部屋を割り当てられていた。部屋には固定されたデスクトップパソコンとヘッドセット。
よってプレイしながらよその部屋に行くことはできない。
他の部屋も同じであるという保証はないが。
ぼくと閻羅は同室なので入れ替わりができる。
ほかに相部屋の参加者はいない。
いち早くチェックインしてエレベーターホールで見張っていたので間違いだろう。
主催者とホテルの従業員である潮尾 以外は部屋の位置が屋敷の部屋割りと同じらしかった。
自称野獣は痩身で背が高い女性。自称本拠地は10代後半の少女だった。
戦闘力を重視する場合機敏で筋肉量のちょうどいい男性のアバターを選ぶことが多い。
閻羅は攻撃を回避しやすいように俊敏な青年アバターを選んでいるし、ぼくはパワー強めの男性アバターだ。
さて、目の前の証拠をどうするか。姓牙淵たちに正当防衛だと認めてもらわなくては。
「大丈夫ですか!?」
丸メガネの内田が駆けつけた。
その手にはピストル。
閻羅が笑顔をみせる。
「助かったよ」
「彼の探偵殺しは有名ですからね。後をつけていたのです!」
閻羅は首を左右に振った。
「いいよ。バレた」
その言葉でぼくは理解した。内田は閻羅の協力者だ。いつのまに。
ぼくは腕を組んだ。組めなかったけど。
閻羅は返り血を気にしながら言った。
「それじゃ、自称野獣さんとこ行こうか」
「魂が戻ってたら嫌だな」
どうか成仏していますように。
屋敷に戻ったぼくらを待っていたのは人だかりだった。
野獣の部屋の前。
部屋の奥で野獣は死んでいた。
下半身を中心に粉微塵に吹き飛ばされて死んでいる。
そばにある椅子は粉々で、布団は飛ばされ、床がへこんでいた。
顔が潰れているのでまだ野獣である確証はないが、ほかに消えた人間はいない。
すると全 が証言した。
「私、見たんです……」
閻羅が訊く。
「なにを?」
「カウンター……。1時間くらい前、14になって、それから13に」
その後自称本拠地と野獣が死んで今は11だ。プレイヤーの人数は画面右上に表示されている。
「減ったのは何時?」
「たしか1時半……」
半崎が姓牙淵 を見やった。
「それって、島の外から人が来たってことですよね?」
笑う姓牙淵。
「私は12人招待していますわ」
うなずく閻羅。
「そうだね。12人の才人って、お昼も言ってた。自分自身と潮尾さんを含めていないんだ」
なんてことだ。
参加者はもう一人いた。
だが、ここに見知らぬ顔はいない 。
つまり入れ替わっているということ。
変装スキルをもっているか、最初から相手と同じ設定にしているか。
他に情報はなし。
ただそいつは、間違いなく探偵ではないだろう。
エネルギーを与える
治療や、破裂させたりできる
作用させるには
素手による接触が必要
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まずは探偵を殺せ。
犯人勝利の鉄則だ。
オンラインゲーム『ミスサイティドミステリー』は探偵サバイバルゲームである。
生存者の内、最も多くの事件を解決した者、あるいはより多くの人間を殺して捕まらなかった者が勝者となるため、推理よりも戦闘力が重要だった。
リアリティラインはところどころファジーで、この世界には魂があると言っていい。
入れ替わりだってある。
端末を操作している人間がかわるだけの話だが。
ぼくは元の身体、というか元の席に戻って自分の治療をした。
ぼくが持っているスキルは医療だ。
治療というより、身体に力を与える魔法と考えた方がいい。
野獣がはじめて犯行に応用し、それを見抜いたのが
ぼくは冷や汗をかきながら死体を見下ろしていた。
野獣の遺体に変化はない。変装の場合は死ぬと勝手に元に戻る。
魔法だと言われるのもかくありなむ。
「共闘か?」
ぼくの問いかけに閻羅は首をひねった。
「最低1人はそう。今は野獣さんの身体をつかってる。でもそれが
「それだと本物は怒りそうだけど、共闘するタイプとも思えないしな」
「最悪、フリーになった野獣さんの魂が他の協力者になり変わったり、部屋を訪ねて行って無理やりかわることだってありえないわけじゃない」
「次手合わせしたら確実に死ぬな……」
想定していたよりも厄介な状況だ。
今回の特別ファイトはリアルタイムモード、つまり現実と同じ時間経過でさらにはプレイヤー外にも公開されている。視聴者はすべてのプレイヤー画面を観戦出来るので、犯人がまるわかりだ。
ゲーム画面はプレイヤー視点である。コマンドは見えないので、トリックの詳細がわからないこともあるが、流石に犯人がわかるのだ。
目を瞑ると画面は暗くなり、ここぞという場面で視線を逸らしたり、目を細めたり激しく動かしたりして決定的瞬間を隠すことは可能だが、やっぱり犯人はわかる。
そのためプレイヤーは事前に外部との連絡手段、主にスマホを運営者に預けていた。
ーーそう、会場があるのだ。
東京カルミホテル45階。プレイヤーはそれぞれ部屋を割り当てられていた。部屋には固定されたデスクトップパソコンとヘッドセット。
よってプレイしながらよその部屋に行くことはできない。
他の部屋も同じであるという保証はないが。
ぼくと閻羅は同室なので入れ替わりができる。
ほかに相部屋の参加者はいない。
いち早くチェックインしてエレベーターホールで見張っていたので間違いだろう。
主催者とホテルの従業員である
自称野獣は痩身で背が高い女性。自称本拠地は10代後半の少女だった。
戦闘力を重視する場合機敏で筋肉量のちょうどいい男性のアバターを選ぶことが多い。
閻羅は攻撃を回避しやすいように俊敏な青年アバターを選んでいるし、ぼくはパワー強めの男性アバターだ。
さて、目の前の証拠をどうするか。姓牙淵たちに正当防衛だと認めてもらわなくては。
「大丈夫ですか!?」
丸メガネの内田が駆けつけた。
その手にはピストル。
閻羅が笑顔をみせる。
「助かったよ」
「彼の探偵殺しは有名ですからね。後をつけていたのです!」
閻羅は首を左右に振った。
「いいよ。バレた」
その言葉でぼくは理解した。内田は閻羅の協力者だ。いつのまに。
ぼくは腕を組んだ。組めなかったけど。
閻羅は返り血を気にしながら言った。
「それじゃ、自称野獣さんとこ行こうか」
「魂が戻ってたら嫌だな」
どうか成仏していますように。
屋敷に戻ったぼくらを待っていたのは人だかりだった。
野獣の部屋の前。
部屋の奥で野獣は死んでいた。
下半身を中心に粉微塵に吹き飛ばされて死んでいる。
そばにある椅子は粉々で、布団は飛ばされ、床がへこんでいた。
顔が潰れているのでまだ野獣である確証はないが、ほかに消えた人間はいない。
すると
「私、見たんです……」
閻羅が訊く。
「なにを?」
「カウンター……。1時間くらい前、14になって、それから13に」
その後自称本拠地と野獣が死んで今は11だ。プレイヤーの人数は画面右上に表示されている。
「減ったのは何時?」
「たしか1時半……」
半崎が
「それって、島の外から人が来たってことですよね?」
笑う姓牙淵。
「私は12人招待していますわ」
うなずく閻羅。
「そうだね。12人の才人って、お昼も言ってた。自分自身と潮尾さんを含めていないんだ」
なんてことだ。
参加者はもう一人いた。
だが、
つまり入れ替わっているということ。
変装スキルをもっているか、最初から相手と同じ設定にしているか。
他に情報はなし。
ただそいつは、間違いなく探偵ではないだろう。