第18話 New game!
文字数 2,358文字
⭐︎⭐︎⭐︎ 山田 Win !⭐︎⭐︎⭐︎
+
「はーみんがいるから大丈夫だよ。お母さんによろしくね!」
なんとか理由を見つけて帰りたかった。
が、閻羅 に土産を持たされてしまった。
なんでぬいぐるみ?
現実の潮尾 が迎えにきて、ぼくは1人インペリアルスイートルームに連れて行かれる。
VIPが会議をしそうなテーブル。そこでは刈耳 が微笑んでいた。
ドレス姿の刈耳とパーカーにジーンズのぼく。
閻羅にはドレスを用意していたんだけど、ぼくがまさかの優勝。
刈耳にすれば予定通りなのだろう。
「久しぶりね。訊きたいことがたくさんあるんじゃなくて?」
「えっと……」
なくはないが、帰りたい気持ちの方が強い。
席に着くと晩餐の給仕が始まった。
前菜から。Oh……。
「オンラインゲームはいいわね。スタンフォード監獄実験に近しいことが被験者の合意のもと、実施できるのだもの」
そうなの?
「……本拠地 さんが実験だって言ってましたね」
「あなたは閻羅のことが好き?」
「ええ」
ぼくは急いで平らげる。なんか量が多いな。
「血が繋がっているから? それとも、閻羅と結婚すれば本家となり、子どもも深湯甕 らしくなるから?」
深湯甕同士の結婚にとやかく言う人間がいる。ぼくは不思議でならない。
「恋愛に執着するようになったのは近代に入ってからじゃないですか? 家族愛ほど尊いものはないのに」
口唇愛撫期に何を吸ったんだか知らないが、下痢みたいな渇愛 を撒き散らしている奴らに遠慮することなんかないんだ。
「強がらなくてもいいのに。もっと素直におなりなさい。あなたは家族愛で動く人間ではないでしょう?」
何個も反論が浮かぶが、こうして刈耳と対面していることが何よりの証拠だ。
「家族愛にしたいと思っていますよ」
刈耳は優雅ににんじんのラペを味わっている。
「それなら、もっと普通の感覚を知るべきね。今まで何人のお友達が転校したか覚えているかしら?」
「はい? さあ。ぼくはみんなほど記憶力が良くはないので」
「閻羅の周りでは33人。これって普通じゃないのよ」
「問題が起きる前に支援をえられる場所に転校しただけですよ」
深湯甕の能力と探偵たちの仕事が合わさった結果だ。問題が起きるよりも、みんなにとって幸せなことだと思う。
ぼくはスープを飲み終えた。
ふふっと刈耳は笑う。
「他人の行く末を見る力は尋常じゃないのよね」
「結婚相手を間違えることもあるようですが」
「あら、失礼ね。当主様が間違うわけないわ。深湯甕の人間が迷うのはいつだって家族からんだ時。私は一族の危機にいち早く対応したまでよ」
「危機? ああ、バッシングのことですか?」
当主冥罰 と刈耳の結婚が決まる頃は深湯甕一族への非難が高まった時期だ。
だいたいわかってきたぞ。
深湯甕家が冤罪事件の元凶と断罪するキャンペーンを焚き付けた人物がいて、そいつは深湯甕の遠い親戚。深湯甕の力を持っているものはゲームを通して判別できると。
刈耳は肩をすくめた。
「それはほんの序の口よ。考えてみて。罪を犯しても罰せられないとしたら?」
「ちょっと待ってください。なぜ犯罪を準備していると考えるんです?」
「深湯甕の力は犯罪にも有利に働くわ」
「納得できませんね。同列ではない。犯行を見抜く力であって、証拠を消せるような能力ではないのですから」
「家族愛のことよ。逮捕されないもの」
「……娘を切りつけた人が言うと説得力がありますね」
ゆっくりと睫毛 が瞬く。
「ご存知ないのかしら? 刈耳家は深湯甕家から出たの。能力に厳格だから、力が足りない者は本家を助ける支族になるのよ。あなたが警官になれないように」
世間ではひたすら家族に甘いと思われているけれど、力のあり方には厳しさもある。推理力の低いぼくは贔屓 や忖度 を呼ぶ恐れが大きくなるために、警察官になるなと言い付けられている。
次期当主である閻羅も母親の犯罪を隠匿する可能性が強いので警察官にはなれない。
「あなたはともかく、どうして深湯甕の遠縁が犯罪者になると?」
「犯罪者にはならないわ。言ったでしょう? 捕まらないもの。ゲームのように、安全な場所から楽しめる。そうして試すのよ」
「下手したら共倒れですよ。意味がわからない」
「それが役目だからよ。能力の保存ではなく、進化のために支族は働くの」
「進化って。いやーー」
「警察官になっている暇はないのよ。今に犯罪計画を携えて神奈川県に集まってくるわ」
嫌な感じが身体を駆け巡る。
脳裏に浮かぶのは花畑に横たわる閻羅の姿。
「もしかして、その犯罪のターゲットは閻羅になるんですか?」
「心配しないで。支族のほとんどは仲間よ。今日招待したプレイヤーはみな閻羅の味方になるわ」
ぼくは首を左右に振っていた。
「信用できるんですか? 知能犯であるとするなら、すでに潜り込んで打ち上げに参加しているかもしれない!」
「それは素晴らしいわ。究極の仕事は本家になり変わること。当主が支族をあるべきポジションに従えることができないほどその人物が本家の血を上回る能力を示すなら、成り代わられて当然なのよ」
声が震えた。
「なんてことを……!」
ぼくには絶対に口にできない考えだ。
これが他人であるという現実。
「受け入れられないというのなら、すべての計画を潰してごらんなさい」
熱くなる頭。
落ちつけ。ぼくは番犬。
事実なら、過去にも同様のことがあったはずだ。
調べてからでないと信じることなどできないが、もしも計画が存在したら?
遅れをとるよりも、取り越し苦労だったと笑える方がいい。
深湯甕の遠い親戚が犯罪者になられては厄介だ。
一方で、深湯甕相手でも逮捕に動けるくらい血の薄い者が味方になるなら貴重な戦力だ。
より多くの仲間を集めるためにどうすればいいのか。
答えはぼくでもわかる。
「一族総出で迎え撃ってみせますよ」
商品を決めたぼくはゆったりとソテーを口に運んだ。
+
「はーみんがいるから大丈夫だよ。お母さんによろしくね!」
なんとか理由を見つけて帰りたかった。
が、
なんでぬいぐるみ?
現実の
VIPが会議をしそうなテーブル。そこでは
ドレス姿の刈耳とパーカーにジーンズのぼく。
閻羅にはドレスを用意していたんだけど、ぼくがまさかの優勝。
刈耳にすれば予定通りなのだろう。
「久しぶりね。訊きたいことがたくさんあるんじゃなくて?」
「えっと……」
なくはないが、帰りたい気持ちの方が強い。
席に着くと晩餐の給仕が始まった。
前菜から。Oh……。
「オンラインゲームはいいわね。スタンフォード監獄実験に近しいことが被験者の合意のもと、実施できるのだもの」
そうなの?
「……
「あなたは閻羅のことが好き?」
「ええ」
ぼくは急いで平らげる。なんか量が多いな。
「血が繋がっているから? それとも、閻羅と結婚すれば本家となり、子どもも
深湯甕同士の結婚にとやかく言う人間がいる。ぼくは不思議でならない。
「恋愛に執着するようになったのは近代に入ってからじゃないですか? 家族愛ほど尊いものはないのに」
口唇愛撫期に何を吸ったんだか知らないが、下痢みたいな
「強がらなくてもいいのに。もっと素直におなりなさい。あなたは家族愛で動く人間ではないでしょう?」
何個も反論が浮かぶが、こうして刈耳と対面していることが何よりの証拠だ。
「家族愛にしたいと思っていますよ」
刈耳は優雅ににんじんのラペを味わっている。
「それなら、もっと普通の感覚を知るべきね。今まで何人のお友達が転校したか覚えているかしら?」
「はい? さあ。ぼくはみんなほど記憶力が良くはないので」
「閻羅の周りでは33人。これって普通じゃないのよ」
「問題が起きる前に支援をえられる場所に転校しただけですよ」
深湯甕の能力と探偵たちの仕事が合わさった結果だ。問題が起きるよりも、みんなにとって幸せなことだと思う。
ぼくはスープを飲み終えた。
ふふっと刈耳は笑う。
「他人の行く末を見る力は尋常じゃないのよね」
「結婚相手を間違えることもあるようですが」
「あら、失礼ね。当主様が間違うわけないわ。深湯甕の人間が迷うのはいつだって家族からんだ時。私は一族の危機にいち早く対応したまでよ」
「危機? ああ、バッシングのことですか?」
当主
だいたいわかってきたぞ。
深湯甕家が冤罪事件の元凶と断罪するキャンペーンを焚き付けた人物がいて、そいつは深湯甕の遠い親戚。深湯甕の力を持っているものはゲームを通して判別できると。
刈耳は肩をすくめた。
「それはほんの序の口よ。考えてみて。罪を犯しても罰せられないとしたら?」
「ちょっと待ってください。なぜ犯罪を準備していると考えるんです?」
「深湯甕の力は犯罪にも有利に働くわ」
「納得できませんね。同列ではない。犯行を見抜く力であって、証拠を消せるような能力ではないのですから」
「家族愛のことよ。逮捕されないもの」
「……娘を切りつけた人が言うと説得力がありますね」
ゆっくりと
「ご存知ないのかしら? 刈耳家は深湯甕家から出たの。能力に厳格だから、力が足りない者は本家を助ける支族になるのよ。あなたが警官になれないように」
世間ではひたすら家族に甘いと思われているけれど、力のあり方には厳しさもある。推理力の低いぼくは
次期当主である閻羅も母親の犯罪を隠匿する可能性が強いので警察官にはなれない。
「あなたはともかく、どうして深湯甕の遠縁が犯罪者になると?」
「犯罪者にはならないわ。言ったでしょう? 捕まらないもの。ゲームのように、安全な場所から楽しめる。そうして試すのよ」
「下手したら共倒れですよ。意味がわからない」
「それが役目だからよ。能力の保存ではなく、進化のために支族は働くの」
「進化って。いやーー」
「警察官になっている暇はないのよ。今に犯罪計画を携えて神奈川県に集まってくるわ」
嫌な感じが身体を駆け巡る。
脳裏に浮かぶのは花畑に横たわる閻羅の姿。
「もしかして、その犯罪のターゲットは閻羅になるんですか?」
「心配しないで。支族のほとんどは仲間よ。今日招待したプレイヤーはみな閻羅の味方になるわ」
ぼくは首を左右に振っていた。
「信用できるんですか? 知能犯であるとするなら、すでに潜り込んで打ち上げに参加しているかもしれない!」
「それは素晴らしいわ。究極の仕事は本家になり変わること。当主が支族をあるべきポジションに従えることができないほどその人物が本家の血を上回る能力を示すなら、成り代わられて当然なのよ」
声が震えた。
「なんてことを……!」
ぼくには絶対に口にできない考えだ。
これが他人であるという現実。
「受け入れられないというのなら、すべての計画を潰してごらんなさい」
熱くなる頭。
落ちつけ。ぼくは番犬。
事実なら、過去にも同様のことがあったはずだ。
調べてからでないと信じることなどできないが、もしも計画が存在したら?
遅れをとるよりも、取り越し苦労だったと笑える方がいい。
深湯甕の遠い親戚が犯罪者になられては厄介だ。
一方で、深湯甕相手でも逮捕に動けるくらい血の薄い者が味方になるなら貴重な戦力だ。
より多くの仲間を集めるためにどうすればいいのか。
答えはぼくでもわかる。
「一族総出で迎え撃ってみせますよ」
商品を決めたぼくはゆったりとソテーを口に運んだ。