第7話第二章 新東京

文字数 1,906文字

ロボサムライ駆ける■第7回■魚が、船の前後から襲った瞬間、「徳川公国」直参ロボット侍、早乙女主水の刀が走る。サイボーグ魚のなますが山積みに。
ロボサムライ駆ける■第7回■
作 飛鳥京香

思い出にふける二人のもとへ騒音が駆け込んできた。

河舟に埠頭から、クレーンが懸かる。
「御膳ごぜん、御膳」
 クレーンの上をかける音が、本人よりさきにきた。
おまけにその者が履いていた鉄ゲタが先に飛んで来た。東京島「徳川公国」のロボット侍,
早乙女主水さおとめもんどの頭にコチンと命中する。
「こらっ、鉄」
 鉄ゲタを避けられなかった主水は自分にも怒ってい
る。
「あらっ、これりゃあ、すみません。ごぜん、そんな
にのんびり釣りをしている時じゃありませんぜ」
 いなせな江戸時代の町人姿のその男は、人工汗を吹き出していた。特殊手ぬぐいで汗を拭く。そして、絞り上げた。船の床は水浸しだ。
「鉄、まあ、落ち着け。魚が逃げる」
「これが落ち着いていられますかってんだー。ラブ・ミー・テンダー」
 と鉄は、大慌てである。
「何事なのだ、鉄」
たたずまいを整えて、もんどは尋ねた。
「それがね、ごぜん、えっー…と…。あれ、いけね、慌て過ぎて忘れちまった。ちょっと、まっておくんなせえよ」この男、びゅんびゅんの鉄。性格を一言でいうと、
慌て者である。主水もんどのために働いている。いわゆる情報収集者だ。考え込む鉄の眼に先刻から垂れている主水の釣り糸が眼に入る。
「それより、ごぜん、引いてますぜ」
「何だと、それを早くいわんか」
 ところがこの魚がくせ者である。
 主水の竿をぐっとひっぱる。かなりの力だ。普通の
魚ではない。大物である。慌てて主水、「おい、マリア、鉄、わしの体をもってくれ。水にひっ
ぱりこまれそうだ」
「魚を放しなさいませ。そのほうが簡単じゃございません」
「そうでさあ、ごぜん、そのほうが早いや」
「な、何を言う。この竿は徳川公からいただいた由緒ある竿…」
 と言ってる間に竿から勢いがすっと抜ける。
 今度は魚の方が飛び上がってくる。口を切っ先のようにと
がらせて、主水の体を狙ってきた。といってもキスを
求めているのではない。かみ砕こうというのだ。
「あぶない。ノーキッス」
 体を伏せる主水。その上を魚が飛び去る。
「えーっ、ありゃ、あの魚はきすじゃありませんぜ。でもごぜんもすきがないなあ」
その状態でも、ダシャレを忘れない鉄である。
 魚はまるでロケットだ。船を飛び出して再び水の中へ。

「あの魚、ひょっとして」
 主水が疑いの眼差しでいう。
「何だってんですかい」
 キョトンとして鉄。
「サイボーグ魚」マリアがつぶやいた。
 サイボーグ魚は、霊戦争後、出現した新しいタイプ
のロボット魚類だ。非常に頭がよく、攻撃性も抜群で
ある。各国とも攻撃兵器として開発しているのだ。……」
 目玉が飛び出しそうである。
その時、海面から十メートルはある、その巨大な
魚が浮かび上がる。それを見てのけ反る主水。
「うおっ」
「ごぜん、あっしはぎょっとしたねえ」
 小ぶりなシャレで応酬する二人。
 そいつは魚に見えたが、背鰭のところが開く。中か
ら、坊主頭で紺の作務着を着た三十がらみの男が出て
来て、腕組みをする。
「さすがは主水、サイ魚を切り刻んだか」
 男は無念そうに船上の主水を睨む。
 サイボーグ魚。略してサイ魚である。
「サイ魚法師、久しぶりだなあ。お前が絡んでいるの
か」
 主水がキッと男を睨んでいた。
「ふふん、主水、ほんの挨拶がわりだ」
 サイ魚法師は、頭をずるっと撫でて、主水を見返し
た。
「挨拶ありがたくちょうだいいたす。が、法師、それ
だけであらわれてきたのではあるまい」
 主水、ムラマサは構えたままだ。
「そうだ。これからの道行で、いずれ雌雄を決しなけ
ればならんからな。また、そこなお内儀にも挨拶がて
らだ。外国ロボットとはいえ、なかなか見目麗しい女
性ではないか」
 サイ魚法師は、こころなしか、うらやましそうな顔
をした。
「あら、どうもありがとうございます、サイ魚法師さ
んとやら」
 マリアがやんわり受け流した。
「このやろう、おべんちゃらをいいやがって。俺もい
いいたいじゃないか」
 鉄は着物の袖をまくりあげていた。どうやら興奮し
ている。
「あら、鉄さん、その言葉はどういう意味ですか」
「いや、姉さん、そう悪くとっちゃいけあせんぜ。た
んなるお世辞だい」
 鉄はマリアに睨まれ、真っ赤な顔をした。
「お世辞はよしてくれ、法師」
「あら、あなたなにをおっしゃるの。せっかく、サイ
魚法師さんが、あたくしを誉めてくれたんじゃありま
せんか」
「だまっておれ、これは男どうしの話しあいだ」
 ムッとする主水。
続く
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

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