第11話

文字数 1,759文字

ロボサムライ駆ける■第12回 霊能師、落合レイモンは、徳川公国ロボザムライ、早乙女主水(もんど)の頭脳の中に侵入し、徳川公の目的を読み取る。

ロボサムライ駆ける■第12回 第三章 霊能師(1)


■霊能士、落合レイモンの屋敷

「何をおっしゃいます。おそれおおうございます」
 いやなこった。と主水は思う。
「主水殿手を貸せともうしておるのじゃ、はようせい」
 レイモンはいらだっていた。
 レイモンの方に、主水の右手が勝手に動いていく。
「うわっ、どうしたことだ。手が…」
レイモンの手に主水の右手がくっついてはなれない。
「何をなさいます、レイモン様」
 恐るべき力が主水の腕に加わってくる。電流が二人の間に流れている。
「さすがロボザムライ、記憶が電磁処理だけに読み取りやすいわ。ふふん」主水の持つ電脳情報が手を通じて流れていく。
「お、おやめください」
 あがらう主水。が、手を離すことはできない。
 主水の体にレイモンの体から発せられた電流が走っていた。
微弱ではあるが、主水の体のメインコンピューターが出力低下を起こしている。自らの命令のまま、動かないのだ。
 ロボザムライの頭脳記憶の中に、レイモンの何かが侵入してきた。ロボの記憶データは膨大過ぎる。レイモンのそれは必要な情報を、主水の記憶の森から奪い取るようであった。
「くくっ、徳川公もくせ者よな」
 一瞬、空白が主水の頭を襲う。レイモンの前に倒れている主水に、
「気を失いよったか、この機械人形。やくたいもない。わしの護衛としては、どのようなものかのう、夜叉丸」
「レイモン様、こやつはやはり力仕事に」
 夜叉丸が尋ねた。
「そうじゃな、へんに情報を与えると我々の仕事の邪魔をするやもしれん」
「ところで、御前、また、お薬の時間でござる」
 夜叉丸がいった。夜叉丸はレイモンの薬飲のタイムテーブルを持っているのだ。後ろには薬品が詰まった収納庫が控えている。前の主水より、薬の方が大事だった。
「うーむ、この時間はどの薬じゃったかの」
 金庫の棚の薬をかき回すレイモンであった。ふと、夜叉丸の方を振り返り、
「よいか、夜叉丸。やつがれの薬、忘れず西日本に持って行くのだぞ。薬は生命の源じゃからのう」
 レイモンの最大の関心事は、薬である。
「承知しております。して、御前。この主水なるロボット侍の処置は」
「主に任せる。とりあえず帰してやれ。気を失ったことなど、忘れておるであろう。そう電脳の処理はしてある」
「ふっふっふっ」
 軽く含み笑いをする落合レイモンであった。
    ◆
 何とか旗本公国マンションにたどり着いた主水は、確かに、落合レイモンの家での事を忘れていた。
「旦那、どうでしたい。お上の御用は」
屋敷にはすでに、鉄が上がりこんでいた。
「うむ、ご壮健であられた。しかし、鉄、おまえも良く宅にくるのう。まったく」
「よろしいじゃござんせんか。姐さんもよろこんでいることですし」
「どなたが喜んでいるんですか、鉄さん、あなた……」
「へい、何でござんしょ」
「感情のラインが、いかれているのじゃないのかしら。一度ドクターにチェックしてもらいなさいませ」
「そりゃ、姐さん。ないですよ。私がいるおかげで、早乙女家にいつも笑顔がたえないってものでしょ。ねえ旦那」
「旦那じゃねえや。用がすんだら早く帰れ」
「そう、邪険にしちゃ、いけあせんぜ。そいでお上の御用向は」
「しばらく、東京を留守にいたす」
「どこかにご出張ですか」
「西日本に下向いたす」
「西日本ですって、そりゃ大変だ。旦那、まさかロボット奴隷になりにいくんじゃ」
「ばかもの、なぜわざわざ私が奴隷にならねばならんのだ」
「いや、どれいでもすきにしてとか」
「鉄。ばかもの。貴様が奴隷になれい」
「でも、あなた、京都では、足毛布博士にお会いになるのでございましょう」マリアが話しの話題を変えた。
「その足毛布博士よな……」
 いいながらマンションから東京の風景をみる主水であった。どうしょうかなと思い悩んでいるのである。生みの親である足毛布博士の顔が夜空に浮かんだ。
「ちちうえ……」
思わず叫んでいた。
なぜちちうえという言葉が口から飛びだしたのか。主水は自分でも不思議に思った。
続く20240531改訂

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

11回
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