第34話

文字数 2,163文字


ロボサムライ駆ける
■第32回徳川空軍の飛行船は、早乙女モンドを助けるために妻マリアを載せて出撃するが、西日本のロボ忍者が、巨大な「たこ」に載って接近、妨害工作を行う
ロボサムライ駆ける■第32回 ■第四章 剣闘士(5-1)

■徳川空軍飛行船内部
「姐さん、よい眺めですぜ。さすが徳川様の空軍飛行船てわけだ」
 鉄が飛行船の窓から眺めている。
「まあ、鉄、いい年をした大人ロボットが、それほどよくはしゃげるものですねえ。飛行船に乗ったというくらいでねえ」
「だって、姐さん、私しゃこう見えても、ロボット生涯で空を飛んだのは初めてなんですよ」
「さようですか、よく高所恐怖症じゃなかったことですね。それに私たちは、これから物見遊山に行く訳じゃないのですよ。西日本のロボットと、ひょっとしたら戦わなきゃいけないんですからねえ」
「戦いですって。ああ、胸が高鳴りまさあ。おまけに姐さんの前で、いい格好ができるなんて、最高じゃありませんか」
「鉄さん、あなた、ひょっとして、私に惚れてる訳じゃないでしょうね」
「ね、姐さん。何を言い出すんですか。姐さんがだんなの内儀だってのはよくわかっていまさあ。ははあっ」
 と笑いでごまかす鉄。
「そうですか。それならいいんですけれど。あなたのはしゃぎの一因は、私と旅行できるからではないかと考えましてね」
「そりゃないですぜ、姐さん」
 内心ドキッとする鉄。といいながらも、顔を赤らめる鉄であった。
「大変です」
 ドアをノックして、徳川空軍の佐久間大尉が入って来る。
 空軍の軍服は空色のモンペ服の上に陣羽織を羽織っている。肩章には階級が示されている。また、背中には三つ葉葵が白で染め抜かれていた。
 佐久間は面長で彫りの深い顔をしていた。どうやら徳川公廣の親戚筋らしい。
「どうかいたしましたか、佐久間大尉」
「現在、本船は西日本と東日本の境界近くまで飛行してきておりますが、敵が現れました」
 佐久間は顔を高潮させていた。
「敵だって、そいつはいけねえや」
 鉄が起き上がり、片腕をまくりあげた。
「気の早い人ですね。空のうえで殴り合う訳じゃないんだから、なんですか、その腕まくりは」
「すみません、つい、地の上の戦いと間違いまして」
 鉄はぼりぼりと頭をかいていた。
「ともかく、お二人とも飛行船操縦室のモニターをご覧ください。どうぞこちらへ」
 佐久間は二人を案内する。二人は佐久間に従い、通路を歩む。
「鉄さん、うれしいでしょう。飛行船のコックピットを見せてくれるんですからね」
「そりゃ、うれしいでさ。願ったり叶ったりとはこのことだ」
「鉄さん…」
 いいながら、急にマリアは立ち止まり、鉄の顔を見た。
「何ですか、姐さん」
 何事かと期待してマリアを見返す。
「では戦いが始まったら、あなたの男っぷりてものを見せていただけるのでしょうね」
「がってんしょうちのすけでえ」
 佐久間大尉は鉄の様子を見て首を竦めた。
こいつはだいじょうぶかという顔付きである。
「どうぞ、こちらです」
ドアを明けた。コックピットに入る。たくさんの徳川軍の空軍兵士が働いている。
「うわっ、思っていた以上に広いや。ねえ、姐さん」
 鉄が突拍子もない声を張り上げて、片手で額を打った。
「うるさいですわねえ、私はヨーロッパから日本へ来たとき、小型気球に乗ったり、飛行船に乗ったりして、うんざりしているのです」
「どうぞ、ご覧ください。あれが敵の姿です」
 佐久間大尉が操作卓の上にあるモニターを指し示した。
「何だ、ありゃ」
「どうやらタコのようです」
 佐久間の間の抜けた返事である。
「タコだって、タコってのは海の底にいりゃいいものおよ」
 鉄は強がっていた。
軽量で張力のある高密度繊維で編み上げられたタコが、境界線上にずらっと揚げられていた。西日本都市連合があげているタコだ。上空からの侵入を防ぐためらしい。
「姐さん、何かタコの下に見えますぜ」
「何かの重しでしょうね。見せていただけますか、佐久間大尉」
 その物体に飛行船の監視カメラがズームした。
「これはひどいですねえ…」
 思わず顔の表情が強張るマリアだった。
「こいつはあんまりだ」
 鉄も表情が変わった。
 国境から逃げようとしたロボットの首が、各々のタコの飾りにつけられているのだった。
「数枚のタコには、どうやらロボットが乗っているようです。しかもロボ忍です」
 佐久間大尉が告げた。
「おもしろいじゃないですか」
「たぶん、あやつらは、この飛行船の気球部分に爆発物を飛ばすつもりでしょう」
 佐久間が述べた。
「それじゃ、あやつらに、火器じゃなく、火気厳禁と言ってやらなきゃなりませんねえ」
「鉄さん、あなた…何を。私の火の怒りが爆発しますわよ」
 鉄をたしなめるマリア。
が、しゃれを言った鉄に、コックピットの全員から、空軍全体の冷たい視線が投げ付けられた。
「へい、どうもすみません」
 縮こまる鉄。
「さあ、ここが正念場ですよ、鉄さん。あなたに働いて貰いましょう」
 鉄にとっては目が覚めるような言葉だった。「ええ、姐さん、私が何を」
「こちらもタコを飛ばすのですよ」
 にっこりしながら言うマリア。
「それで、まさか…」
 悪い予感が鉄の頭をかすめる。眼を白黒させる。
(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
32回
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