第10話

文字数 1,578文字

ロボサムライ駆ける■第11回★主水は、関東の最高クラス霊能師 落合レイモンをたずねるため、彼の霊治療をうけるための人々が待つ屋敷の前に向かう。

ロボサムライ駆ける■第三章 霊能師■第11回★■第三章 霊能師(1)

■新東京、霊能士、落合レイモン屋敷

 落合レイモン、現存する霊能師の中では、最高クラスといわれている。彼の霊治療をうけるための人々で、屋敷の前に列ができていた。
彼の屋敷、いや御殿と言った方がいいだろう。そこには桂離宮をまねた豪奢な造りの日本家屋と、古来の神宮建築をベースにしたあたらしい神宮建築である。
 その二つの建物を左右に配した山水画を思わせる日本庭園が広がっていた。この建物及び敷地は、すべて東日本の政財界の大物からの寄付金によってなりたっているといわれている。
 下手をすると、徳川公の東京城よりも金がかかっているのではないかと、噂されていた。その門前に主水は立っていた。
 特別な出入り口から、主水は座敷に通される。
「お待ちください、主水殿。レイモン様は薬浴の時間なのじゃ。しばらくお待ちいただきたい」
レイモンの使い番のものが答えた。
「薬浴と申しますと」
「わからぬか。レイモン様は、種々の薬を混ぜた、プールの中で泳いでおられるのじゃ。そうすれば体の節々から薬が体に回り、気持ちがよいと申されてのう」
「それは毎日でござりますか」
「いや、毎日三回じゃ」
 やがて、主水の前に、くずれかけた巨体を揺さぶるように、四十才くらいの男が現れる。ブヨブヨの体からは湯気が上がっていた。強烈な薬の匂いが主水の鼻に届いていた。成分は主水に分析できないくらいに多い。
薄い浴衣着に羽織りを着ていて、体がすいてみえる。目や鼻はあるかないかくらいだ。未熟児だったといううわさもある落合レイモンだった。
そのため、顔の表情がとても読み取りにくい。
背後には敏捷そうな若い男が一人。その男は二〇才くらいで、総髪できれいな錦羽織りをきていた。こちらは書き上げたように目鼻だちがはつきりしている。少し暗いが美男子の類いに入るだろう。一九〇センチはあるだろう。
「ロボザムライ、早乙女主水めにございます。今度、徳川公より、落合レイモン様上京の旅に随行せよと命があり、ご挨拶にあがりました。以後お見知りおきを」
 主水は丁寧に挨拶をする。
「ほほう、貴公が、今東京エリアで噂のロボザムライ主水か。力強い味方を、公もつけてくれたものじゃ。おお、そうじゃ、紹介しておこう。これは俺の小姓、夜叉丸じゃ。以後よろしく頼むぞ」
 落合レイモンはその体に拘わらず甲高い女性のような声だった。
 レイモンは体を動かすたび、じゃりじゃりと音がする。主水がよく見ると、何十本ものコードがレイモンの背中に張り付いている。
「レイモン様、失礼とは存じますが、そのコードは一体」
「ああ、これかの」
 レイモンは気軽にその質問に答えようとした。
「無礼者め。レイモンさまを何と心得おる」
 護衛の夜叉丸が表情を激変して怒り、背中の鉾を抜こうとする。
「よいよい、夜叉丸。わざわざ徳川公が遣わしてくれた護衛ロボットじゃ。すべてをお教えしておかねばのう、主水」
 ゆったりとレイモンは言う。
「ははっ、できますれば」
「私の体は、常時薬を注入しておかねばならぬのよ。大義じゃがのう」
 言いながら、レイモンは薄い羽織りを脱ぐ。
何と二人分の大きさと思っていたレイモンの体は、半分にも満たぬ。残りはいろいろな液胞が組合わされた水槽が幾重にも重なって、レイモンの背中に張り付いていた。
「さて、主水殿」
 レイモンは、霊能師の特徴である頭の真ん中のこぶを、主水の方に近づけ、右手を差し出していた。
「手を貸してたもれ」
 レイモンはくぐもって言った。
続く20240531改訂

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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