第2話 第1章

文字数 1,985文字

「大仏様が、大仏様が、こちらへ動いて来るぞ」
「ああ、ありがたいことじゃ」

 都市にいる人々は、空母上の大仏を見て大騒ぎとなっていた。海岸のほうへ人々は繰り出していた。人もロボットも。
「ありがたい、大仏様じゃ」

 大仏が、空母ライオンの甲板上に、座を組んでいる。ロセンデールのライオン丸であった。その上には天女が竪琴をもって演奏している。先刻のロセンデールの歌姫たちが服装を変えて違う歌を奏でているのだ。演出効果バツグンである。

「ふふう、見てごらんなさい、クルトフくん。大仏とやらは、日本人によく効くシンボルですねえ」
「タイのバンコクで手に入れたのも、この効果があれば安い買い物でしたな」

「それに、この大仏のもう一つの目的を知れば、水野くんたちも驚くに違いありませんねえ」

大阪港に接岸した空母ライオンに、人々が群がり集まって来るのだった。大阪は、いや、近畿エリアはまさに平野であった。かつて存在していた山並みは、霊戦争のおり消滅している。

「これ、斎藤、落ち度があってはなりませぬぞ、あの方には」
二メートルの大身の水野は、ネズミのような小男、斎藤にいった。 二人とも日本の礼服である裃に身を固めている。上下二本の刀をさし、草鞋ばき。当然頭は丁髷を結っている。この二人だけでなく、一般人も、和服、丁髷である。人間だけでなく、ロボットも同様の風体だつた。

「わかっております、水野様。あの卿の取り扱いいかんでは、我々の手に日本が…」
「しっ、斎藤。それは禁句じゃ。誰が聞いておるやもしれん」
「が、水野様。わざわざあのロセンデールとか申す新生ドイツ帝国の手の者を、日本に入れる意味がありましたでしょうか」

「何を今頃申しておる。足毛布あしもふ博士の強制ロボット動員策でも、あの場所がみつからんのだぞ。ヨーロッパ随一の心柱しんばしら発見の著名人であるロセンデール卿を招くのは当たり前だろうが」
「が、心柱を発見された各国、いずれもルドルフ大帝の支配下に入ったと聞き及びます」斎藤は不安げに言った。

「お主も心配症じゃのう。支配下に入った各国はヨーロッパぞ。東洋の一国である我々には関係ないわ。よいか、これからの時代で俺は織田信長、お主は豊臣秀吉じゃ」
水野は、織田信長。斎藤は、豊臣秀吉そっりの顔をしていた。

「が、水野様。東京には本当の徳川公がおわしますぞ」
「本当に心配症の奴じゃのう。心柱さえ見つかれば、そのようなこと取るに足りぬ」
 大笑いする、水野。西日本都市連合議長である。
 自らの未来が、鮮やかに脳裏に浮かび上がっているのだろう。

 一方、斎藤は大阪市長だが、顔色は優れなかった。ともかく、秀吉も信長も外国の力を借りはしなかった。と斎藤は思った。
「それ、ロセンデールが現れよった。斎藤、笑顔じゃ、笑顔」
 ロセンデールが、ケープをひるがえせて降りて来た。あとには鷲顔クルトフ、ジャガ芋顔シュトルフが続いている。
「これは、これは、ロセンデール卿、遠い道程、お疲れ様でございます」
「水野さん、日本はとても美しい国ですね。とても欲しくなりました」
 憂いを秘めたロセンデールは、簡単に言ってのける。
「えーっ」
「いえ、冗談ですよ、外交辞令ですよ。それはおわあkりでしょう」
 にこやかにほほ笑みながら、ロセンデールは言った。
「では、早速、現況をお伺いしましょうか」
「化野あだしのと呼ばれる地下エリアが、我々の掘削機械やロボットの侵入を防いでおります」
 水野は汗を吹きつついった。先程のロセンデールの言葉が心に残っているのである。疑いが少しずつ水野の心にひろがっていく。
「と、いうことは、それより先は、あきらかに心柱、そして古代都市というわけですねえ」
「そういう可能性がかなり高かろうと思われます」
「我々が、日本じゅうから、多くの霊能師を持ってきても、その化野エリアを突破できまないのです」
 斎藤がいった。
「この方はいったいどなたですか。水野さんの小姓ですか」
「いえ、紹介するのが遅れました。大阪市長、斎藤光三郎です」
「斎藤です。以後お見知りおきを」
 斎藤は怒りを隠しながらいった。
水野さんだから、私はお土産を持ってきたのです」
 ロセンデールは、水野とその閣僚連中に向かって胸を張った。
「あの大仏です」
「何ですと、あの大仏」
「が、あの大仏は、空母の上に置かれております。それを化野までどうやって」
「心配ご無用です」
「まさか、運搬機械が必要とか、おっしゃるわけではありますまいな」
「あの大仏、実は戦闘用ロボットなのです」
 ロセンデールは嬉しそうに言った。
「何ですと
「我々が、タイランドの軍隊と戦ったおりの戦利品なのです。賠償金がわりに受け取った訳です」
 聖騎士団長シュトルフが誇らしげに語った。
「あのロボットならば、あの化野の霊を打ち破れると」
「無論、そう考えております」ロセンデールが言った。

続く2016改訂
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