幕間講義 4 改正児童福祉法四条~六条 及び 民法820条・822条 (中)

文字数 6,759文字


直実:そこで今回の蒼依さんの家出の話だけど、正直今回は愛美ちゃんの親御様が上手く
   まとめたなって思う
穂高:そこで話が終わってしまうとあれだから、もう一度その立ち回りを見ていこうかと
   思うの
直実:それではまず一つ目。愛美ちゃんの親友を家で“保護”した際の行動だな
愛美:お母さんの行動
直実:この辺りは同じ女の子同士、朱寿の方が上手く説明してくれると思う
朱寿:ナオくん……蒼さんが家出してきた時、まずは何も言わずに迅速に家の中に招き入れて
   保護したって言う事とちゃんと該当者の話を聞いた上で、子供たちの意向を最大限くみ
   取った上で親御さんに連絡したって所なんだよ
雪野:それって前回の講義でしっかり話した“子供の最善の利益”の話でしょうか?
穂高:いえ。それもあるでしょうけど、私はこっちを意識したと思うの。その根拠がこれよ

【児童相談所運営指針 5章 1節】
1.一時保護の目的は何か
 一時保護の

(※2)は【子どもの生命の安全を確保すること】(※2)である。単に生命の危険にとどまらず、現在の環境におくことが子どものウェルビーイング(❝子どもの権利の尊重・自己実現❞)(※3)にとって明らかに看過できないと判断されるときは、まず一時保護を行うべきである。
 一時保護を行い、子どもの安全を確保した方が、子どもへの危険を心配することなく虐待を行っている保護者への調査や指導を進めることができ、また、【一時的に子どもから離れること】(※4)で、

(※5)ことができたり、

(※6)動機付けにつながる場合もある。
 【子どもの観察や意見聴取】(※7)においても、一時保護による安全な生活環境下におくことで、より本質的な情報収集を行うことが期待できる。
 以上の目的から必要とされる場合は、まず一時保護を行い、虐待の事実・根拠はそれから立証するという方が子どもの❝最善の利益の確保❞(※8)につながりやすい。

―――――――――――上記運営指針に対する、当物語の補足分―――――――――
(※2)172話 Cパート で意識した行動
(※3)177話の❝単元まとめ❞タイトル
(※4)当講義舞台裏表記(真ん中辺り)
(※5)173話 Cパートに関しては 愛美の父親
(※6)174話 Cパートから 蒼依の両親との話し合いから始め
(※7)173話 Cパート 三人での朝の会話 より
(※8)児童福祉法に関する小見出し(単元)全てで意識
―――――――上記運営指針に対する、当物語の補足分―――ここまで――――――

蒼依:これって……愛ちゃんのおばさんが私の話を聞くために、場所と時間を用意してくれた
   そのままだよ
朱寿:そうなんだよ。もしそのまま慌てて愛さんのおばさまが蒼さんのご自宅に連絡して
   しまってたら、大げんかになっただろうし、蒼さんも逃げるように更に家出をしたかも
   知れないんだよ
実祝:でも結局は蒼依の家に連絡した
蒼依:あの時私は、すぐに連れ帰されると思ったんだから
愛美:大丈夫だって。あの時も言ったけれど蒼ちゃんを帰す気は無かったよ
朱寿:そうなんだよ。その愛さんの気持ちを上手く汲んで“いつも遊びに来てくれてる延長”
   として捉えたんだよ。それにこの初動を間違えると、もし蒼さんの親御さんが警察へ
   連絡した時、それこそ略取と捉えかねなかったんだよ
直実:そう。だから愛美ちゃんの親友の身柄が安全だと言うのをまずは伝えて、その上で
   親同士の話に持って行った。
直実:上記児童相談所運営指針を意識しながら、実際作中で愛美ちゃんが知る事はなかった
   やり取りの一つを見て欲しいんだけど、

―――――――――――――――劇中舞台裏やり取り――――――――――――――

 時間も時間な上に、内容も内容であるから男性からの電話だと、相手もびっくりするだろうからと、夫婦二人で話し合った結果、母親の智恵が愛美の親友でもある防家に連絡を入れる。
『すみません。岡本ですけど、防様のお宅でしょうか?』
『はい。そうですけど。すみません。今少し立て込んでおりまして、時間も時間ですし後日おうかがいさせて頂いても良いでしょうか?』
 ただし先方はやっぱり自分の娘がいなくなってしまって心の余裕が無いのか、その可能性に全く至る様子は無い。
『すみません。おそらくその件だと思うのですが、ただいま娘さんである防蒼依さんが“遊びに”来ております』
『! 蒼依?! 蒼依がそこにいるんですか!?』
 だから少しでも早く安心頂く為に、娘さんを

とお伝えすると、その反応が劇的に変わる。
『はい。ですので犯罪に巻き込まれるとかそう言った心配は無用ですので、まずはご安心――』
『――すぐに迎えに行きますので、家の場所をお教え頂いても良いでしょうか?』
 母親の智恵の背中ではいつもは頼りないお父さんが、やっぱり頼りなくそわそわしていて電話口では今にも飛び込んできそうな勢いでまくし立てられる。
『今夜に関しては、娘の愛美が付いてしっかり話を聞くと思いますので、今日の所はご遠慮下さい。もちろん大切な娘さんに粗相が無いようにこちらでしっかりと取りはからいますので、一度気持ちを切り替えて明日改めてお話をされてはいかがでしょうか』
『粗相って……そう言えばお宅には娘さんの他にも、年頃の弟もおられたとか娘からお伺いしておりますけど、万一間違いなどありましたら――』
『――その点は愛美がおります故、ご心配なさらなくても大丈夫です。それよりも落ち着いて話をされないとまた別のお友達の家に遊びに行ってしまうかも知れませんよ?』
『な?! お預かり頂けたのは感謝しますけど、私たちを脅すんですか?』
 我が子の事だからなのか、ともすれば相手に失礼になる程、神経質にまで言葉がきつくなる防家の母親。
『脅しじゃありません。親には言えない子供の気持ちもあるはずですので、そう言うのは同年代の友達や人間に話した方が話しやすいし、その方が考えもまとまるからと言うだけですよ』
「智恵……相手の親御様はどんな感じなんだ?」
 智恵が電話口で防家の母親を説得してると、後ろから電話が気になった父親がその様子をうかがってくる。
『私たちだって、家族で喧嘩した際に同じような気持ちを持った事はあると思うんです。その時の気持ちを思い出しては頂けないでしょうか』
 ただ智恵は背後にいるお父さんには気を払わずに、電話口で話す同じ母親に集中する。
『それに娘さんも相当思ってる事もあるみたいですし、今のままだとお互いに喧嘩だけ進んで更に態度も頑なになるかと思いますし、今の状態では

親の気持ちは届きませんよ』
 同じ母親として、同じ女として、娘の気持ちを考えて最も愛美が喜んでくれるであろう選択肢へと持って行こうと言葉を重ねる智恵。
『娘さんといつまでも喧嘩してたいわけじゃ無いと思うんです。一日だって娘を心配しない親なんていませんよ。私どもの家にも愛美がいるんですから、お気持ちはお察しします。だからこそ、遊びに来てくれた蒼依さんは大切にお預かりさせて頂きます』
 万一愛美が家出なんて事になったら……その時の自分の気持ちをそのまま言葉に乗せて、相手の親の説得を進める。
『……分かりました。取り敢えず私どもも一度話し合って、改めて明日おうかがいさせて頂くという形でよろしいでしょうか』
『はい。それでお願いします。それではまた明日ご連絡をさせて頂きました時に、改めてこちらの家の場所をお伝えします』
 その結果、愛美の喜ぶ回答を得られた母親の智恵は、ホッと胸をなで下ろす。
『それはまた明日までよろしくお願いします』

―――――――――――劇中舞台裏やり取り―――ここまで―――――――――――

直実:こう言うやり取りがあったんだ
優珠:すごいわね。一度も愛美先輩のお義母さんは“保護”も“預かる”ともゆってないわね
直実:いや。預かるとは言ってるけどな
愛美:でも私が蒼ちゃんのお話を聞くって言ってくれていたんだ
朱寿:そうなんだよ。愛さんには電話で説明したんだけど、あくまで愛さんのおばさまは、
   愛さんのお友達が遊びに来た。その体を貫き通してるんだよ
穂高:その上で、子供の気持ちを最大限意識した話を、防さんの親御さんとされていたのよね
蒼依:……
直実:それでもおばさんとの説明の際にはやむなく“保護”と言う言葉を使ったけど、最終的
   には愛美ちゃんの気持ちを優先させたのは変わりないよ
優希:どうしたの愛美さん?
愛美:何か……私が思っている以上に、私を考えてくれているんだなって……
朱寿:そうなんだよ。今回はたまたま、愛さんの知らないおばさまのお気持ちが分かったとは
   思うけど、いつもこれくらいは愛さんを第一に考えてくれてるんだよ
実祝:ん。だから愛美は厳しくても最後には優しい
咲夜:そう……だね。あたしもそれはもう何度も実感してる
雪野:……岡本さんの優しさ。ですか……
兄妹:……
直実:そしてこの愛美ちゃんのご夫妻はここからもすごいんだけど、とにかく愛美ちゃんと
   子供さんだけを考えた動きと言動を通してるんだ
朱寿:その次のポイントはここなんだよ
穂高:そう。まずはしっかりと子供の意思を尊重する為に、子供の気持ち。この場合は特に
   防さんの気持ちを聞く事に焦点を当てた。始めにこの確認をしておいたから、以降は
   一貫して岡本さんと防さんの主張を後押し出来たのよね
蒼依:そう……ですね。愛ちゃんのおばさんがすごく優しくて、追い込まれてただけに私の
   心はとても救われました
直実:しかも、防さんが腕を捕まれた時、すぐに反応した愛美ちゃんと、別の角度から愛美
   ちゃんの気持ちをすくい上げた親御さん
朱寿:そうなんだよ。愛さんのご家族はみんな優しさに溢れてるから、その全てが相手のため、
   思いやりなんだよ
慶久:……俺が学校に行ってる間にそんなやり取りがあったんだな
蒼依:そうだよ。だからおばさんも愛ちゃんもちゃんと優しく接してくれないと、私は複雑かな
中条:……結局、みんな愛先輩の優しさに助けられてるんですね
彩風:中条さん……それ。アタシもだよ
九重:違うでしょ? うちも含めたみんながそうなんじゃないの?
咲夜:本当にそう思うよ
直実:その上封筒――多分中身は謝礼だと思うけど――に手を触れようともしなかった愛美
   ちゃんのご両親
優珠:この辺りは本当にさすがだと思ったわよ
朱寿:多分だけど愛さんのおばさまは、その封筒を受け取ると愛さんと蒼さんが悲しむのも
   分かってたと思うんだよ
蒼依:私もそこはそう思います。そもそもあの封筒を出された時点で私はもう気まずさで一杯
   だったんです
実祝:蒼依には悪いけどあの場面は、あたしもびっくりした。もし愛美が家に遊びに来て
   くれた時、茶封筒なんて出されたらショックで寝込む
愛美:大丈夫だよ。私と実祝さんはもう仲直りも済ませた大切な友達なんだから
実祝:愛美……
彩風:あたしも早くあの中に入りたい……
慶久:結局いつものねーちゃんじゃねーか
優珠:でもあの場面で愛美先輩のお義母さんの気持ちに切り込めたのは、わたしもびっくり
   したわよ
佳奈:ああ言うんはやっぱり仲がええ親友やから言える言うんもあったやろうな
朱寿:……
直実:そしてもう一つ最後に大きなポイントなんだけど、“子供の最善の利益”を追求した
   結果、愛美ちゃんの親御さんは何一つ防さんを強制する事無く、無事に家に帰るまで
   その自己決定に任せて、あくまで子供の判断にて解決した点なんだ
穂高:確かにあそこまで子供の意思を尊重した上で、最終的には防さん自ら家に帰るって
   解決に持ち込んだのはすごいと思う
佳奈:せやなぁ。ウチの親やったらええ加減にしとかな、そのうちしばかれて連れ帰されて
   終わりやろうな
咲夜:あたしの家だってよく似たようなもんだよ。そもそも遅くまで遊んでただけでも電話が
   かかってくるくらいなのに
朱寿:そうなんだよ。だからわたしも大丈夫だと判断して安心して

『だったら尚更、愛さんや愛さんのご家族の方が親友さんに酷い事や、乱暴、騙すなんてするわけないんだから、どう解釈したって誘拐とか未成年略取とかには当たらないんだよ』

朱寿:この台詞を言い切れたんだよ
直実:そう。最近後を絶たないしつけを盾にした虐待と暴力の話だな
穂高:今回の幕間講義の最終テーマ、民法の820・822条の懲戒権ね

直実:そうです。今回、最後の注目ポイントとしてさっき朱寿が引用してくれた電話口での
   会話だけど、

【改正児童福祉法】【児童虐待防止法 十六条】
第三十三条の十 この法律で、被措置児童等虐待とは、小規模住居型児童養育事業に従事
        する者、里親若しくはその同居人、乳児院、児童養護施設、障害児入所
        施設、児童心理治療施設若しくは児童自立支援施設の長、その職員その他の
        従業者、指定発達支援医療機関の管理者その他の従業者、第十二条の四に
        規定する児童を一時保護する施設を設けている児童相談所の所長、当該施設
        の職員その他の従業者又は第三十三条第一項若しくは第二項の委託を受けて
        児童の一時保護を行う業務に従事する者(以下「施設職員

」と総称する。)
        が、委託された児童、入所する児童又は一時保護が行われた児童(以下
        「被措置児童等」という。)について行う次に掲げる行為をいう。

一 被措置児童等の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 被措置児童等にわいせつな行為をすること又は被措置児童等をしてわいせつな行為を
  させること。
三 被措置児童等の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、同居人
  若しくは生活を共にする他の児童による前二号又は次号に掲げる行為の放置その他の施設
  職員等としての養育又は業務を著しく怠ること。
四 被措置児童等に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の被措置児童等に著しい
  心理的外傷を与える言動を行うこと。

直実:朱寿はこの全項目の可能性を完全排除したかった訳なんだ
朱寿:でもわたしは安心して確認する事が出来たんだよ
穂高:っとその前に補足だけしとくと、上記二つの条文に目を通してくれた人がいたら気付い
   てるとは思うけど、この“号”の中身に関しては二つの法律で全く同じなのよ
優珠:つまりそれだけ“虐待”の定義がしっかりしてるゆうことね
直実:ありがとうございます――そして今回の話で焦点になったのは、この“一号”の部分だな
朱寿:今回の場合に限り、その前後の文脈と親御さん同士の会話なんかからいずれも暴力や
   虐待には当たらないと判断出来たんだよ
雪野:それってさっきも仰ってましたように、皆さんが優しさに溢れてるからでしょうか
彩風:冬ちゃん……
朱寿:そうなんだよ。だから愛さんのおばさまも最終的には“しつけ”の範囲内で収めようと
   したんだよ
優珠:でも最近はしつけを盾にした暴力や虐待なんて当たり前じゃない
中条:つまりヤる事だけやって、後の責任は取れないって……これは男女両方の意識の問題だな
蒼依:……
雪野:中条さん。でも男性の力で無理矢理とかだった場合、女性の力では抵抗出来ないん
   じゃなでしょうか? それでも女性にも責任があると仰るんですか?
愛美:蒼ちゃん……
穂高:防さん、岡本さん……
彩風:冬ちゃん……
倉本:この問題は難しいな。もちろん今雪野が言ったような場面だったら、男側に弁解の余地
   がないが……
直実:今回の事件を通してみんなの意識が高まってるのはとても素晴らしい事だけど、今回の
   愛美ちゃんの親友の話はあくまで“一号”に焦点を当てた話とするから、我慢してな
雪野:分かりました……すみません
直実:良いよ。そう言う意識ってものすごく大事だから、もしどうしてもなら次回の講義の
   際に少し時間を割くようにするから
中条:本当にスマートな男性……
女性:(な! 中条さんがデレたー?!)

朱寿:それでこの懲戒権なんだけど、繊細な二文だから一度考えて欲しいんだよ

【民法】
820条 (監護及び教育の権利義務)
   親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

822条 (懲戒)
   親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒
   することができる。

―――――――――――――――――後編へ―――――――――――――――――

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