第9話

文字数 2,408文字


「いらっしゃい。雄太くん、颯希ちゃん」

 家に来た颯希と雄太を拓哉は家に招き入れると、リビングに通した。昨日も感じたが、拓哉の顔は精神的に参っているのか、どこかやつれている表情をしている。その表情を見て、颯希が言葉を発した。

「お疲れのところ、連日申し訳ありません。少しお聞きしたいことがあったのでお伺いさせていただきました」

 颯希が丁寧に申し訳ないことを謝る。拓哉はその様子に「大丈夫」と言って手を横に振る。そして、颯希から何かいつもと変わったことがなかったかを聞かれてしばらく考える。

「そうだね……。特に思い当たることはないな……」

「どんな些細な事でもいいので、いつもと違うことがあれば良かったら教えてください。些細なことがもしかしたらヒントになるかもしれないのです」

「そうだな……。強いて言うならアルバム……かな?」

「「アルバム?」」

 颯希と雄太の声が重なる。

「あぁ。私も静也も割と片づけはちゃんとする方でね。元あった場所に片付けるようにしているんだよ」

「じゃあ、そのアルバムが元の場所に戻されていなかったということですか?」

「うん、物入れのところに積まれてたんだ。おかしいなとは思ったが今は状況が状況だから、特に気に留めることもないと思って元の場所に片づけておいたんだよ」

「アルバム……」

 颯希はそのアルバムが気になった。もしかしたらそこにヒントがあるかもしれない。見せてもらっていいものかどうか悩むところだ。でも、拓哉もたかがアルバムだからという感じで特に気に留めていない。

「まぁ、静也とはよくそのアルバムを見ながらよく語り合っていたよ。静也の子供の頃とかの写真を見ては二人で思い出話を話していた……」

 拓哉がどこか懐かしい瞳で語る。その様子で拓哉が静也をどれだけ大切にしているかが伝わってくる。

「また、あんな風に仲良く過ごせたらと本当に思うよ……。静也は私の大切な身内だ……。本当の親子みたいにまた楽しく過ごせる日に戻って欲しいと願うばかりだよ……」

「拓哉さん……」


 あの後、颯希と雄太は静也の家を後にした。途中で雄太ともさよならをして、家に帰り着くと、颯希は透の部屋に行った。

「アルバム?」

 颯希は今日のアルバムのことを話す。

「うん、そのアルバムにヒントがあるんじゃないかと思うのです……。でも、拓哉さんは特に気に留めた様子はなかったのですよ。お兄ちゃん、何かヒントありますか?」

 透はしばらく考えた。

「例えばだけど……」

「何?」

「大体定番で行くと、そのアルバムに何かが挟まっていたりするよな。もし、捨てることができない隠したいものだったら写真の裏とかに隠すとかも考えられる。そこら辺はどうなんだ?」

「うーん……。話を聞いただけで、アルバムを見せてもらったわけじゃないから何とも言えないのです……」

「じゃあ、そのアルバムを見せてもらえれば何かひも解くカギが見つかるかもしれないな」

「……分かりました。拓哉さんに聞いてみるのです」


 その頃、雄太は部屋で来斗と電話をしていた。

「今日、結城さんと静也君の家に行ってきたよ」
「何かあったのか?」
「んー、なんか結城さんが聞きたいことがあるとかで拓哉さんに会いに行ったんだ」
「聞きたいこと?」
「うん。なんかいつもと違うことがなかったか……って言ってたよ」
「それで、何か分かったのか?」
「まぁ、たいした収穫じゃないけど、拓哉さんの話だとアルバムがいつもと違うところにあったって言ってたくらいかな?」
「あぁ………、確かに静也から話を聞いたことあるな。よくアルバムを見ながら拓哉さんと昔話をするって……」
「結城さん、なんだかそのアルバムが気になっているみたいだね。そこに何かヒントがあるかもって言ってたよ」
「アルバムねぇ……」

 その後、二言三言言葉を交わして電話が終わった。


 颯希は思案していた。

 もし、そのアルバムに何かが挟んであってそれを見て静也があんな風になったのかもしれない。

 それが何かは分からないが、アルバムだから写真なのかもしれない。なにかいわくつきの写真の可能性は十分ある。

 でも、よく静也と拓哉はアルバムを見ながら語り合っていたという。

「……はぁ、考えても何も分からないのです……」

 颯希はため息をついた。そして、一旦その思考を止めて今日の学校で習った授業の復習をしようと鞄から教科書を取り出した。


 夜になり、静也が家に戻ると玄関には男性物の靴があった。見たことのない靴だから拓哉のものではない。耳を澄ますと、リビングから声が聞こえた。
 静也は見つからないようにリビングの近くまで足を忍ばせる。

 影から見つからないようにリビングを覗くと拓哉と担任の先生が話していた。

「斎藤さん、本当に何があったのか分からないのですか?」
「すみません……。前にもお伝えした通り、何の前触れもなく突然あんな風になってしまったんです。理由を聞いても何も話してくれません……」
「そうですか……。こちらからも何とか話を聞いてみるように努力しますので、少しでも気付いたことがあればご連絡ください」
「分かりました」

 担任の先生はそう言うと腰を上げる。静也はまずいと思い、忍び足で急いで自分の部屋に戻ると、中から鍵をかけた。

 担任の先生が帰り、拓哉は玄関で静也の靴を見つけた。そして、静也の部屋に行くとそっと声を掛ける。

「帰ってたのか?静也……、いったい何があったんだ?頼む……、話してくれ……。このままでは私はどうしたらいいか分からない……。静也は私の生きがいでもあるんだ……。お願いだ……。何があったか話してくれ……」

 拓哉が悲痛な声で言葉を綴る。でも、中からは何も返事がない。拓哉はしばらくその場で静也が何か答えてくれるのを待ったが、何も返答はなかった。

 拓哉は諦めてその場を離れた……。


 その頃、颯希はそのアルバムが引っ掛かって頭から離れない。
 
 そして、あることを思いついた。
 

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