第1話

文字数 2,984文字

~プロローグ~

「私たちと一緒に十二年前の放火事件を調べてみない?♪」

「「え?」」

 突然の月子の言葉に颯希と静也が虚を突かれた表情で同時に声を出す。

 お昼休みにいつものように颯希たちが過ごしていると、なぜかその場に月子と月弥も同席し、「お願いがある」という言葉に何かを聞いたらそういう返事が返ってきた。

「放火事件……??」

 月子の言葉に静也が聞き返す。

「そうよ♪ママが小説を書くのにその事件を調べたいとのことなんだけど、その話を聞いて私と月弥で調べるって言ったのよ♪私たちにもいい勉強になるしね♪」

 ミステリー作家とミステリー脚本家を目指している二人にとって、時には調べることも必要だと言い、自分たちの将来に役立たせたいという。

「ですが、そんな前の事件でしたらもう解決しているのではないのでしょうか?」

 確かにそんな前の事件なら解決されていてもおかしくない。それこそ、当時の新聞を見ればわかるはずだ。

「それがさ、その事件は未解決のままお蔵入りになったみたいなんだ」

 颯希の言葉に月弥がそう話す。

「だから、その事件はお蔵入りのままなんだよ。まぁ、被害者がいたわけじゃないけど、どうせなら真実を見つけようと思ってさ♪」

 月弥が声を弾ませながら言う。

「どうする?颯希」

 静也が颯希に意見を求める。

「そうですね……。確かに解決していないのでしたら真相を突き止めたいところですね」

「でしょう?♪決まり……ネ♪」


 こうして、颯希と静也は月子と月弥と共に十二年前の放火事件を調べることにした。



「……分かりました。調べてみます……」

 同じころ、南警察署では颯希の父親である結城署長が木津と呉野にある極秘任務を指示した。


 しかし、これらがあんな事態になるとは誰も予想できずに……。



1.

「まず、当時の新聞を調べてみましょう!」

 学校が終わり、颯希たちは図書館に出向いた。町の中にあるそれなりに大きさのある図書館は、人が割と利用している。月子と月弥はいつもならお迎えが来るが、月子が電話をしてお迎えを断り、四人で図書館に訪れる。

 颯希たちは当時の新聞を調べるために図書館にあるパソコンを起動した。そして、十二年前の夏に起きた放火事件を調べていく。情報が十二年前の夏としか分からないので正確な日にちが定かではない。ざっと七月最初辺りから新聞を順番に見ていった。

 一つ一つ新聞を確認しながら記事を読んでいく。しかし、お目当ての記事はなかなか見つからない。

「やっぱり、記事にもならなかったくらい小さな事件なのかしらね……」

 探している記事がなかなか見つからないことに月子が落胆の声を出す。

「……新聞には載らなかったとしても、ネット記事にはもしかしたら何かしら上げられているんじゃないか?」

「その可能性はありますね!そちらで調べてみましょう!」

 静也の言葉に颯希がネット記事の方を確認する。

 検索で「放火・十二年前・未解決」といったキーワードを入れて検索をかける。

 すると、放火に関するいくつかの記事が出てきた。それを一つ一つ確認していく。すると、一つの記事に目が留まった。


『海がある静かな町で放火事件発生!!』


 記事の見出しにはそう書かれており、何処で放火が起こったかを読んでみると「桜台町」と書かれていた。

「「「……これだ!!」」」

 目当ての記事が見つかり颯希たちが声を出す。

 更に記事を読み進めて正確な日を調べていく。


『八月十一日。桜台町で夜の八時頃、放火が発生した。場所は小高い丘の上にある廃屋になった空き家。誰かが火をつけたものだと思われる。普段、あまり人通りがない場所のため、目撃者はいない。周りに民家も無かったことから被害は特に無いとのこと。警察は「放火事件」として捜査を開始』


 記事にはそう書かれていた。そして、その事件についてさらに深堀していく。しかし、それ以上は何も記事がなかった。日にちは分かったが、それ以上の手掛かりは見つけられない。

「……お父さんが何かを知っているかもしれないので帰ったら聞いてみますね」

 颯希がこれ以上の手掛かりが見つからないことに落胆し、誠なら何かを知っているのではないかと思い、話を聞いてみることを提案する。月子もそれに同意し、言葉を綴った。

「そうね、お願いするわ。……ところで、この近くに美味しいカフェがあるんだけど行ってみない?今回のことに協力してくれるお礼にお金は私が持つわよ♪」


 月子の言葉に颯希と静也は「分かった」と言い、みんなでそのカフェに足を運ぶことになった。
 
「そのカフェは夫婦で経営しているのだけど、とっても美味しいのよ♪店の雰囲気も温かみがある感じね♪店自体はそんなに大きくないのだけど、ケーキも一つ一つ凝っているのよねぇ~♪紅茶もいろんな種類があってね♪紅茶もケーキも最高に美味しいのよ♪」

 月子が「ほうっ」という表情でそのカフェの魅力を語る。

「そうなのですね!何という名前のカフェなのですか?」

 月子の話に颯希が興味津々で聞く。

「『カフェ ボヌール』よ♪ボヌールってフランス語なんだけど、日本語に訳すと「幸せ」って意味なのよ♪なんか、娘さんがいて幸せになって欲しいからそういう名前にしたんですって♪」

「なんだか素敵ですね!楽しみなのです!」

 月子の話を聞いて颯希のワクワク感が溢れ出す。

「ここよ♪」

 月子がそのカフェの前で立ち止まり、指を差す。そこは一軒家のようなカフェだった。月子が先頭に立ち、カフェの扉を開ける。

「いらっしゃいませ!……って、あら、いらっしゃい、月子ちゃん」

 四十代くらいの女性が月子の顔を見て嬉しそうな声を出す。

「こんにちは、有子(ゆうこ)さん。今日はお友達を連れてきたのよ♪」

「はじめまして、坂井 有子(さかい ゆうこ)です」

 有子が柔らかくお辞儀をする。

「初めまして!中学生パトロール隊員の結城颯希です!」
「同じく、隊員の斎藤静也です!」

「……あのさ、お茶しに来ただけだよ?」

 カフェに来ているというのに颯希たちはなぜか敬礼のポーズで挨拶をする二人に月弥が思わず突っ込みを入れる。その様子に有子がくすくすと笑っている。

「楽しいお友達ね」

 有子がそう微笑みながら言うと、メニューをテーブルに置いてオーダーを聞く。颯希と静也はなにが良いのか分からなかったので、月子に任せることにした。

 しばらくして、紅茶とケーキが運ばれてきて、颯希の目がキラキラと輝く。

「おぉ~……!!本当に美味しそうなのです!!」

 颯希がキラキラ光線を放ちながら、そのケーキを頬張る。

 そして、静也たちもケーキを食べ始め、しばらくは楽しくみんなで談笑していた。


 まさか、このカフェがある事件に関係しているとは誰も予想しておらず、この後に怒涛の展開が待っているという事を颯希たちは気付いていなかった……。



「……木津さん、こちらの事件ですがやはり絡んでいるみたいですね」

「怪しいとは思っていたが、やっぱりか……」

 呉野の言葉に木津が苦々しく返事をする。

「他の怪しい事件も調べてみましょう……」

「そうだな……」

 そう言って、過去の事件を一つ一つ調べていく。その量は膨大な数だが、もしこのことが本当だとすれば放っておくわけにもいかない。

「途方の暮れる作業になりそうですね……」

 呉野が膨大な資料の前に深くため息を吐く。


 こうして、木津と呉野は極秘捜査に取り掛かっていった。

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