第4話

文字数 2,913文字

 次の日、いつものようにお昼休みにみんなでお昼ご飯を食べるのに中庭にやってきた。静也たちはすでに到着しており、颯希たちが来たところでお弁当を食べ始める。みんなでワイワイと仲良くおしゃべりしながらお弁当タイムが終わる。そして……、


「え……凛花ちゃん?」

 颯希は聞こうかどうか迷ったが、思い切って美優に凛花のことを聞いてみた。由美子から話を聞いたことを説明していく。犯人を捕まえるために、もしかしたらヒントになるようなことがないかを聞いてみた。

「その……、辛くなるかもしれないのですが、何か思い当たることはないですか?もしかしたら犯人を捕まえる手掛かりになるかもしれないと思いまして……」

 颯希の言葉に美優はしばらく考える。

「んー……、特に思いつかないかな?……ふふっ、凛花ちゃんも颯希ちゃんと同じで正義感が強い子なんだよ。学校のいじめとかも許せない子でね、中学でもいじめられていた子に声を掛けたりして励ましていたみたいなんだ」

 美優が嬉しそうに話す。その表情は凛花に対する尊敬の念が溢れ出ている。

「ふふっ、だからね、颯希ちゃんって凛花ちゃんと似ているところがあるから颯希ちゃんを見ているととても嬉しくなるの」

 優しく微笑みながら美優が語る。

「みゅーちゃん……」
「颯希ちゃんは大好きな友達だよ!」

 美優の言葉に颯希が美優に抱き付く。美優は微笑みながら颯希の頭を撫でる。周りがその様子を微笑ましそうに眺めていた。

「平和よねぇ~」
「そうだな~」

 美優に抱き付きながら颯希が言葉を綴る。

「みゅーちゃんは大切で大好きな友達なのです!」



 理恵は暗がりの部屋でパソコンを見つめていた。今の時代、ネットで何でも手に入れることができる。キャンプ用品のネット通販を見ながら探している用品を調べる。ある商品に目を付ける。そして、購入のボタンをクリックする。その後で「毒」という項目で調べる。でも、毒の種類によっては購入が不可能なものが多い。闇サイトで販売されているのを見つけるが、値段が高すぎて買えない。理恵は市販のもので毒が作れないかを調べた。

 その時だった。


 ――――ドンドンドン!!


 部屋のドアが強い力で叩かれる。

「理恵!また学校を休むつもりなの?!学費もタダじゃないんだからちゃんと行きなさい!」

 理恵の母親がすごい剣幕でドアの外から大声を発する。

「今の時代、高校出とかないと何処にも就職できないわよ!最終学歴が中卒なんてみっともないわ!聞いているの?!」

 母親が、ドアの外で怒鳴る。理恵は耳をふさぎながら指を立てて耳を掻き毟る。

「うるさい……うるさい……」

 唇を噛み締めながら小さな声で呻くように言葉を吐く。

「……なんであんたの世間体のために行きたくない学校に行かなきゃならないのよ……」

 そう呻くように呟きながら、耳を掻き毟り続けた……。


 理恵の母親は昔から世間体を気にする人だった。結婚相手に父親を選んだのも、父親の学歴と仕事内容だったら世間体を考えると悪くないという理由で選んだ。良き妻を演じ、娘にも大学まで出てもらい近所にも自慢できるような良い仕事先に就職させて「絵に描いたような家族」を作ろうとしている。だが、それはただの母親の自己満足のためだけであって、娘のことは「世間体のための道具」だった。そして、その言葉が本当だという出来事が起きる。
 理恵がまだ小学校高学年辺りの時だった。ある日、学校から帰って来た理恵は「自分がいじめられている」ということを母親に伝えた。しかし、そのことを聞いた母親からはとんでもない返事が返ってきた。


「子供のするいじめでしょう?そんなことより、宿題して明日の予習もしておきなさい。

で人生棒に振らないでよ」


 その返事を聞いて、理恵はその時に母親に強い憎しみを感じた。話を聞いてくれるどころか、「たかがいじめ」という言葉に強いショックと怒りを覚え、その日から学校を休む日も出てくるようになる。そして、学校を休む度に母親からは罵声を浴びせられた。

「たかがいじめで学校を休むなんて近所の笑いものじゃない!この恥さらし!ちゃんと学校に行きなさい!」

 理恵はその罵声を避けるため、嫌々学校に行く。でも、また休んでしまう。その繰り返しだった。
 中学も行ったり行かなかったりで成績はどんどん下がっていき、高校は誰でも入れるような偏差値がかなり低い高校しか行けなかった。最初、理恵は「高校には行きたくない!」と言ったのだが、母親がそれを許さなかったのだ。

「何言っているのよ!高校は行ってもらうからね!中卒なんてカッコ悪くて世間に出す顔が無くなるわ!たかがいじめなんかでお母さんに恥をかかせないで頂戴!」

 そう言われて、強制的に高校に行かなければならないことになり、理恵は渋々高校に進学することになった。しかし、その高校も行ったり行かなかったりで、家に学校から注意指導の連絡が来ることもある。父親に相談ができればよいのだが、父親は愛人の家に入り浸り、家に寄り付くことがほとんどなくなっていった。母親はそのことに関して、近所の人たちには「仕事で出張が多いのよ」と説明しているらしい。父親がなぜ愛人を作り、家にあまり寄り付かなくなった理由を理恵は何となく「母親が原因だろう」と思っていた。父親は母親が「世間体のために自分と結婚した」ということに気付いていており、離婚を言い出したこともあったが、母親がそれを許さなかった。

「離婚なんて、世間様にみっともなくてできないわ!絶対離婚はしませんからね!」

 その日を境に父親はほとんど家には寄り付かなくなっていき、最近はずっと家に帰ってきていない。母親は父親がそんな状況でも世間体のために離婚はしない。でも、近所の人が父親を見かけた時に母親じゃない女性と仲良く歩いていたというのを目撃し、密かに「浮気しているんじゃないの?」噂されている。母親はそのことに関して、「見間違いよ」と説明しているらしいが、内心は穏やかじゃなかった。


「お父さんの浮気が噂されて、あんたまで不登校なんてなったらお母さん立場がないじゃない!聞いているの?!」

 母親の罵声が止まない……。

 理恵は耳を塞ぎながら、心で呪いの言葉を囁く。


(お母さんなんて、いなくなっちゃえばいいんだ……)



 学校が終わり、颯希と静也、それに美優を入れて三人は学校を出た。

「……じゃあ、早速お見舞いに行ってみるのです!もしかしたら、目を覚ますかもしれません!」

 なぜ、そんな話になったのか……。

 先程の昼休みに巻き戻る。

「……じゃあ、凛花ちゃんはまだ目を覚ましてないんだね」

 颯希が美優に凛花が目を覚まさないことを伝えると、美優は悲しそうな表情をする。その表情を見て、颯希が声をあげた。

「凛花ちゃんのお見舞いに行きましょう!」

 その言葉に美優たちは驚くような声をあげる。でも、颯希が早く目を覚まして欲しくてじっとしていられないことを話すと、美優も「私も行く」と言い出した。そして、話の流れで今日の帰りに颯希、静也、美優の三人でお見舞いに行こうという流れになったのだった。



 病院に着くと、凛花がいる病室のドアをそっと開けた……。


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