第4話

文字数 2,033文字

 男はそう小さく呟きながら虚ろな目で天井を見上げている。

「……いっそのこと死んでしまった方が楽なのかな」

 そう呟き、目を閉じる。

 ――――ピコン!

 ベッドの脇に置いてあるタブレットが鳴り響く。男はそのタブレットを開き、通知を確認した。

『食事よ』

 そこにはただそれだけしか書かれていなかった。男がのろのろと起き上がり、部屋の外に置いてある食事を取りに行く。

 タブレットに届いたメッセージは母親からだった。昼食を部屋の前に置いといたので食べるようにという事だろう。直接的な会話は殆どない。母親は用事があるときのみ、メッセージを送り、メッセージでやり取りをする。男はそんな日々を送っていた。

 男は部屋の外にあるお皿に盛られたサンドイッチを部屋に入れてそれを黙々と食べる。そして、食べ終わると皿を外に出し、また部屋に戻っていく。

「……今日はどういう会話をしているのかな?」

 男がタブレットからあるサイトにアクセスしてそのサイトのある部屋を覗く。

 最近になって見付けたあるサイトのチャットルームが気になり、男はその部屋でどういう内容が会話されているのかを見ていた。

 そのチャットルームでは参加者が二名でチャットを繰り広げている。参加者の名前は「ユウ」と「ユリ」。そのやり取りを見ていくと、二人とも心に傷を負っているのが分かり、男は「自分と同じ」と感じた。それから、たまにそのサイトを覗いて二人の会話を見ているのだった。

「……僕も参加してみようかな」

 男がポツリと呟く。

 そして、ユーザー登録を行った。



「……じゃあ、男か女かもわからないという事ですか?」

「あぁ、そうじゃ。フードを深く被っておって、分かるのはまだ若い方じゃないかという事くらいだな」

 颯希たちが現場の近くの住宅街に聞き込みに行くと、その事件を覚えていたかなり年配のお爺さんがそう答えた。どうやら、その日、お爺さんはその場所から来たであろう方向から走り去っていった人を見たらしい。そして、そのすぐ後で火事が起こったのでその人が火をつけたんじゃないかと思った。警察にも話し、警察もその証言をもとに捜査をしたが、途中でその捜査が打ち切りになり、事件は未解決のままとなっている。

「あの日は一時的に強い風も吹いてな。その火事が災厄にならないかとちょっと心配になったくらいじゃよ。まぁ、被害は無かったから安心したがな……」

 そう言って、お爺さんがため息を吐く。

「そうだな。一歩間違えれば大火災に発展していたかもな……」

 お爺さんの話を聞いて静也がそう言葉を綴る。

「じゃあ、次はその現場に行ってみようよ♪」

 月弥がいつもの調子で言う。

 こうして、今度は火事が起こった場所に行ってみることになった。



『新しい参加者が入りました』

 悠里がそのメッセージを見てサイトを確認する。すると、新しく「レイ」と名乗るユーザーがチャットルームに参加したというお知らせを受け取った。そして、そのユーザーを仲間に加える。

『はじめまして、レイさん。ユウと言います。よろしくお願いします』

 悠里が丁寧に相手にメッセージを送る。すると、相手から返事がすぐに来た。

『ありがとうございます。突然すみません。こちらこそよろしくお願いします』

 「レイ」と名乗るユーザーが丁寧にメッセージを綴る。しばらくすると友理奈も加わり、三人で会話を行う。

ユリ『はじめまして、レイさん。ユリと言います』

レイ『初めましてユリさん。よろしくお願いします』

ユウ『レイさんも心に傷を負っているのですか?』

 悠里のメッセージにレイこと、神谷崎 玲(こうやざき れい)の手が止まる。監禁状態にある事を話していいのかを迷う。

 しばらく考え、監禁状態である事は伏せることにし、メッセージを送る。

レイ『はい。心に大きな傷を負っていて、家から出られなくなっています』

 そうメッセージを送ると、悠里と友理奈からメッセージが届く。

ユリ『それは辛いですね。私も家から出られないです』

ユウ『俺もある意味同じ。用事があるとき以外は外に出たくない』

 心の傷を舐め合うようなやり取りが続く。


 こうして、三人のメッセージのやり取りが始まった。

 これが、まさかあの展開になるとは誰も予想できずに……。



「……ふう。かなり歩きますね……」

 颯希がじんわりと汗を搔きながら火事のあった小高い丘の雑木林を歩く。

「大丈夫か?何なら鞄持つぜ?」

 静也が心配して颯希にそう声を掛ける。

「大丈夫です。ありがとうございます」

 静也の優しさに感謝しながら颯希は静也に荷物を持たせるのは申し訳ないと感じ、やんわりと断る。

「月子、大丈夫?」

 月弥が隣を歩く月子を心配して声を掛ける。

「な……なんとかね……。こんな道、歩いたことないから……」

 息を切らしながらそう答える。

「辛かったら抱っこしてあげるから言ってね」

「あ……ありがと……」

 その時だった。


 ――――ワンワンワン!!


 何処からか犬の鳴き声が聞こえて、颯希たちがその近くまで行く。


「あ……あれは?!」

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