第7話

文字数 2,509文字


「えっ……?」

 小春の口から出た言葉に颯希が思わず聞き返す。

「小春ちゃん、どういうこと?」

 颯希の問いに小春はまだぼんやりとしており、自分が何を言ったのか分かっていない感じだった。その様子に静也が口を挟む。

「夢を見ただけじゃないのか?」

 その言葉に颯希が小春に問いかける。

「パパが死んじゃう夢を見たのですか?」

 その時だった。

「買ってきたよ!小春の好きなイチゴミルク!」

 茂明が紙パックのイチゴミルクを小春の目の前に掲げる。

「イチゴミルクだ~!!」

 イチゴミルクを見て、ぼんやりしていた頭が晴れてきたのだろうか……。キラキラとした目でイチゴミルクの紙パックに釘付けになる。ストローを差してもらい、嬉しそうにイチゴミルクを飲む。

 イチゴミルクを飲み終わり、颯希が眠気から完全に冷めた小春にもう一度聞く。

「小春ちゃん、パパが死んじゃう夢を見たのですか?」

「えっ!!」

 颯希の言葉に茂明が驚きの声を上げる。

「えっと、えっとね、こ……怖い夢を見たの!ゆ……夢でパパが死んじゃう夢を見たの!」

 小春がどこか焦るように言葉を発する。

「……そうなんですね。怖かったね、よしよし……」

 颯希が優しく小春の頭を撫でる。

「今日はもう帰るね!ママが心配しているかもしれないから!」

 小春はそう言うと、「バイバイ!」と言って足早に公園を去っていった。

 引き留める暇もなく、去っていった小春を颯希たちは呆然としながらその場でしばらく立ち尽くしていた。

「……小春ちゃん、絶対に何かを隠していますよね?」

「あぁ。なんかとんでもない理由がありそうだな……」

 颯希と静也がさっきの小春の様子で何かを知っているのではないかと感じる。そして、小春はそれを隠そうとしているのではないか……。

 その時だった。
 颯希が茂明にある事を聞くのを忘れていて、茂明に尋ねる。

「そういえば、なんで別々に暮らしているのですか?」

 颯希の問いに茂明は表情を暗くして、話し始めた。

「実は――――」

 茂明がなぜ別々に暮らしているのかを話す。

 颯希と静也はその理由に驚きを隠せない。

「――――本当にバカなことをしたと思っている。そして、なんであんな言葉を言ったのだと反省もしている……」

 茂明の話が終わり、しばらくの間沈黙が流れる。

「俺はまだ子供だけどさ、その言葉が酷いもんだってことくらいわかるよ……。ていうか、そんな事を言う大人がいることに驚いたぜ」

 同じ男として茂明の行動と言葉が許せないのか、静也がどこか苛立ちを含みながら言葉を綴る。

「そうですね……。確かにその言葉は良くないですね……」

 颯希もその言葉にどこか怒りを感じている。

「あぁ……。分かっている……。俺はなんて酷い事を言ったのだと反省している……。あの後、その言葉が会社でも問題視されて俺はクビになった……。俺は最低の人間だ……。恵美子と小春に謝りたい……。そして、もう一度三人で暮らしたいんだ……」

「自分勝手な言い分だな……」

 茂明の言葉に静也が怒気を含んだ声で言う。

「一つ気がかりなことがあるのですが……」

 颯希の言葉に静也と茂明が颯希の方に顔を向ける。

「ママの方に新しい恋人がいる可能性もあり得るのではないでしょうか?」

「「えっ……!!」」

 颯希の言葉に静也と茂明が同時に声を上げる。

 確かにあり得てもおかしくない話だった。もしかしたら、新しい恋人ができて小春の存在が邪魔になっている可能性もある。

「……確かにそれはあり得る話だな。ああいう事を言う旦那は切り捨てて他の男を選んでいても不思議じゃない」

「可能性と言うだけで確信はありませんが、もし、新しい恋人ができてその恋人が小春ちゃんのことを受け入れていないということも考えられます」

「再婚のためには小春が邪魔になっているということか……」

「それに、小春ちゃんの『パパが死んじゃう』という言葉は、もしかして新しい恋人が小春ちゃんのママと一緒にいるために邪魔な茂明さんを殺そうとしているのではないのでしょうか?」

「は……?」

 颯希の言葉に静也が素っとん狂な声を上げる。

「いや、いくらなんでもそれは無いと思うぞ?」
「でも、ミステリーやサスペンスでは定番なのですよ?」
「それはドラマや小説の話だろ!」
「よくある話じゃないですか!」
「テレビの見過ぎだよ!」
「そうでもないと思いますが?!」
「こんなことで事件が起こってたら世の中事件だらけだわ!」
「憎しみや邪魔者を排除するために殺人が起きるということはよくある展開ですよ?!」
「だからってまだ相手がいるかどうかも分からないのに飛躍しすぎだろ!」
「じゃあ、張り込んで相手を見つけましょう!」


「……へ?」


 颯希と静也のある意味白熱したコントのようなものは、颯希の提案が出て、少し間を置いてから静也の口から間抜けな声が出たところで終了した。その間、茂明は二人のコントのようなものに口を挟めず、あんぐりと口を開けたまま放心していた。

「張り……込み?」

 颯希の言葉がうまく理解できないのか、静也が聞き返す。

「はい!アパートの近くで張り込みをして新しい恋人を突き止めましょう!!そして、事件を未然に防ぐのです!!」

 颯希の中では『殺人事件』と言う考えが思い浮かんでいるらしく、その考えに突っ走っている。

「恵美子に男が……」

「「……え?」」

 茂明の存在を忘れていた颯希と静也が茂明の言葉に反応する。

「す……すみません!存在を忘れていました!」

 颯希が慌てて謝罪の言葉を発する。

「いや……、恵美子に限って男がいるなんてことは……」
 
 茂明が「信じられない」とでも言いたげな顔で言う。

「でもさ、ああいう事を言う旦那を今でも好きでいる可能性は低いんじゃないか?」

 静也が茂明の言葉に淡々と言葉を吐く。

 静也の言葉はもっともだった。一般的に考えてあんな事を言う茂明に恵美子が今でも好きでいる可能性はほぼ無いだろう。もし、それでも恵美子が今でも茂明を好きなのだとしたら、それは恵美子がとても一途な人だということだ。だが、大半の女性はそのセリフに相手に嫌気が差してもおかしくない。



「小春ちゃんを救うためにも明日から張り込みを開始しましょう!!」

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