第6話

文字数 2,624文字

 颯希は家に帰ると、透の部屋に行った。透にお見舞いにいった時のことや、なぜ犯人に狙われたのか理由が分からないことを話す。学校でも問題がなく明るい子だったことを話していく。そして、いじめられている子を助けた話もした。

 その時だった。透がいじめられていた子を助けた話を聞いて声を出す。

「……もしかして、その子が関係しているんじゃないか?」

「どういうことですか?」

 透の意図が分からなくて颯希が疑問の声をあげる。透はゆっくりと話しだした。

「まぁ、大半はいじめられている子がいじめた子に復讐するために事件を起こすことがよくあるパターンだけど、別のケースも考えられる。もしかしたら、そのいじめられていた子を助けたことによって逆に恨まれているかもしれないっていうことだよ」

「えっと……、助けてくれたのになんで恨まれるのですか?」

「これは俺の考察だけど、助けてもらったことにより更に酷いいじめを受けたケース。もう一つは……」

 透がもう一つのケースを話す。颯希はその内容に驚きを隠せない。

「そんな……」

「まぁ、これはあくまで俺の考察だから本当かどうかは分からない。もしかしたら、ただの通り魔の可能性だって十分あるわけだからな」

 透の言葉に颯希は悲しい表情になる。

 透の二つ目の考えられるケースが今回の事件を引き起こしたのだとしたら、なんて悲しい事件なのだろう……。それが本当だとしたら、犯人は今でも苦しんでいるということになる。

(もしそうだとしたら、助けてあげたいのです……)

 颯希が心の中で呟く。

 悲しい気持ちになり、颯希はなんとかして事件を解明したいと強く願った。



 理恵は近所のコンビニに来ていた。ネットで注文した荷物を近所のコンビニに指定してあったからだ。なぜ、自宅に届けてもらうのではなくコンビニを指定したかというと、理由は簡単だった。

 家に理恵宛で荷物が届いた場合、今の状況では母親に勝手に開封される恐れがある。これを勝手に開封されたら何を言われるか分からない。なので、安全を考えてコンビニを指定配達場所に設定した。

 コンビニで荷物を受け取ると、理恵はそれを持っていた鞄に忍ばせる。しかし、箱のままで家に持って帰ると、母親に何を注文したのか問いただされる可能性がある。理恵はちょっと考えると、コンビニ近くにある公園に行った。

 公園に着くと、箱を開けて中身のものを確認する。その「もの」を鞄に入れると、自分の名前と住所が書いてあるラベルを剥がし、公園にあるトイレに流す。箱は潰して設置してあるごみ箱に捨てる。

 こうやって、あたかも自分に宅配物がなかったように隠ぺい工作を行っていった。


 理恵が夜の七時頃に家に着くと、家の中は真っ暗だった。母親が夜の仕事に行ったのだろう。キッチンには夕飯用であるカップラーメンが机に置かれている。

 実は、父親からの仕送りは止まっていた。前は家に帰らなくても仕送りをしていたのだが、最近はその仕送りが減っていき、最終的には仕送りが無くなっていった。そのことで母親が父親に電話して問い詰めているのを聞いたことがある。

「なんでお金を振り込まないのよ!あなたは私たちを見捨てる気なの?!」

「……は?私のせい?愛人作って出ていったのはあなたでしょう?!」

「……とにかく!今すぐにお金を振り込んで頂戴!じゃないと世間様に面子が立たないわ!私に恥をかかせないでよね!」

 その時、未だにこんな状態になっても世間体を気にする母親に理恵は吐き気が込み上げてきた。

(世間体、世間体って言ってただ単に自分が馬鹿にされるのが嫌なだけじゃない!)

 恐らく、父親もそんな母親の性格に嫌気がさして家を出ていったのだろう。近所には長期の出張と説明しているが、多分、近所の人も父親が家を出ていったということにうすうす感づいているはずだ。夜に派手な格好をして出掛けて行き夜中に帰ってくる。その時間帯に出かけて夜中に帰ってくるのは水商売関係くらいのものだ。

(あんな母親、死んでしまえばいいんだ……)

 心の中で呪いながら、カップラーメンを食べ終えると部屋に戻っていく。そして、パソコンを開くと、あるサイトを開く。そのサイトにはこう書かれていた。


『市販のもので作る毒の作り方』



 日曜日になり、颯希はパトロールのために静也と待ち合わせている公園に行った。
 公園に着くと先に静也が到着している。静也も今日は制服だった。颯希が「パトロールするなら正装!」と言い出し、静也は最初、反対したのだが、颯希が悲しそうな顔で「ダメ?」と言ったので、渋々了承する羽目になったのだった。拓哉にもこれからのパトロールで制服を着ていくことになったことを伝えると、拓哉はちょっと頬を染める。

「いやぁ~、制服デートかぁ~。初々しいねぇ~♪」
「だからデートじゃねぇって言ってるだろ!」
「結婚式の服装は制服をモチーフにしたタキシードとドレスっていうのも良いかもしれないね♪」
「するかよ!!」
「結婚式が楽しみだねぇ~♪」
「いい加減にしろぉぉぉ~!!」

 という、拓哉の妄想が広がり静也は顔を真っ赤にしながら抗議するという親子漫才のような光景が繰り広げられており、最終的には静也が拓哉にハリセンをお見舞いして親子漫才は終了した。


「おはよう、静也くん」
「おはよー、颯希。……何かあったのか?」 

 颯希の様子がいつもと違うことに気付き、静也が声を掛ける。

「そ……そんなことないのですよ!さぁ!今日も町のためにパトロール頑張りましょう!」

 颯希が笑顔で言うが、その表情はどこか影があるように見える。

「……今日のパトロール、中止するか?」
「だ……大丈夫なのですよ!さぁ!行きましょう!」

 颯希が先頭を切って歩きだす。
 いつものように清掃活動を行いながら、町をパトロールしていく。

 その時、颯希が急に後ろを振り返った。

「またなのです……」

 強い憎しみの視線を感じ、振り向くが、通行人はいるものの知っている人はいない。

「颯希、もしかしてまた視線を感じたのか……?」

 静也が心配そうに声を出す。

「はい……、気のせいだとは思うのですが、最近時々視線を感じるのですよ。その、なんというか、憎しみのような感じの視線で、気のせいだとは思っているのですが、その頻度が多いので気にはなっているのです……」

「憎しみの視線、ねぇ……」

 颯希の言葉に静也が呟くように答える。


 その後は、特にその視線を感じることなく、パトロールは終了した。


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