第2話

文字数 1,755文字

 あの後、颯希は少年が投げ捨てたタバコを公園に設置してあるごみ箱に捨てて、帰路に着いた。

 帰り道、頭の中は少年のことで一杯だった。タバコを吸っているのは十中八九誰かへの当てつけだろう……。少年はヤンキーになりたくてなったわけではなく、「何か理由があるのではないか?」と考えてしまう。もし本当だとしたら苦しい気持ちで一杯になる自分がいた。「何か自分に出来る事はないかな?」と、考えながら歩いていると家に着いた。

「ただいまー」

「おかえり。パトロールはどうだった?」

 家に帰ると、佳澄が颯希を出迎える。

「んー……。なんていうかなーってことがあったのです……」

「そうなの?お父さんが帰ってきたら話聞いて貰う?」

「んー……。大丈夫!まずは自分でどうしたらいいか考えてみるよ!」

 颯希はちょっと悩んだが、まずは自分で何とか解決できないか考えてみることにした。

 夕食が終わり、今日のパトロール日記を書きながら、あの少年に何があったか考える。当てつけだとしたら、「未成年でタバコを吸って困るのは家族じゃないだろうか?」という考えが頭をよぎる。

「あの子……、なんとかしてあげたいな……」

 颯希がポツリと呟く。でも、具体的にどうすればよいかが分からない。

 明日は学校のこともあり、頭の中でどうしたらいいか考えながら学校に行くための準備をした。



 一方、少年は夜の街を彷徨っていたが、この近辺は夜に時間を潰せる場所がまず無いことに気付き、家に帰った。

静也(しずや)!こんな時間に何処に行ってたんだ!心配したんだぞ!」

 玄関を開けると、父親である拓哉(たくや)が奥から出てきた。

「……うるせーよ。あんたに関係ないだろ」

 静也と呼ばれた少年は低い声で怒気を含みながらそう言うと、拓哉の横を通り過ぎ自室に入っていった。

「静也……」

 静也が父親である拓哉に「あんた」と言われても、拓哉は強く否定できない。


 なぜなら、拓哉は静也の実の父親ではないからだった……。


 静也は部屋に入ると、内側から鍵をかけた。拓哉のことだから、また部屋に来て「何があったか話してくれ」と言われるのが分かっているからだ。でも、静也は口を閉ざし、何も話さない。毎日のように部屋に来る拓哉に静也は嫌気がさしてきて鍵を閉めるようになった。それでも拓哉は部屋の外から声を掛けたが、やはり静也は何も話さない。そして、ドアの前に食事を置くと、一声かけて立ち去っていく。そんな日々が繰り返されていた。


 ―――カチャン!!


 部屋の前で音が響く。おそらく拓哉が夕飯を運んできたのだろう。

「……静也、話をしてくれないか?いったい何があったんだ?」

 拓哉が部屋の外から声を掛ける。だが、やはり静也は何も言わない。

「……夕飯を置いておくから、食べてくれよ。静也の好きなもの、作ったからな……」

 そう拓哉は言葉をかけると、部屋の前から去っていった。

 しばらくしてから、静也がドアを開けるといつものように食事がドアの前に置かれていた。どの料理にもきちんとラップがかかっている。静也はそれを部屋に入れた。

 料理はまだ温かかった。栄養も考えているのか、メインにサラダも付いている。メインを見て静也は苦しそうな表情をした。なぜなら、メインであるハンバーグとエビフライは静也がまだ幼い頃、拓哉が初めて作ってくれた時に一番美味しかった料理で、それからは拓哉に「また作って!」とよくおねだりしていた、静也の中で一番好きなメニューだったからだ。

 静也はラップを剥がすと、ハンバーグを口に含んだ。美味しさと同時に苦しさや悲しみも溢れてくる……。目に大粒の涙を溜め、泣きながらハンバーグやエビフライを噛み締める。

「美味い……。めっちゃ美味いよ……。でも……なんで……?なんであんなことしたんだよぉ……」

 嗚咽を漏らしながら、食事をかき込んでいく……。

「どうして……、どうして……」

 静也の心の中はぐちゃぐちゃだった。なぜ、拓哉があんなことをしたのか、そのことがあったから自分のことを引き取ったんじゃないかと疑問が次々と浮かんでくる……。

 聞こうにも怖くて聞けない……。

 あれが真実だったとしたらこれからどうやって接していけばいいかが分からない……。


 グルグル……。


 グルグル……。


 どうしていいか分からないまま、夜が更けていく……。


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