第14話
文字数 1,641文字
「何を話しているか聞こえねぇな……」
静也が二人の会話を聞き取ろうとしているが、少し離れているせいで聞こえないことに苛立ちを感じながら言葉を吐く。
「この角度では恵美子さんの顔は見えないですね……」
颯希が恵美子の様子が分からないことに異論を唱える。
「仕方ないだろ……。公園のどの場所で話するか分からなかったんだからな」
透が颯希を窘めるように言葉を綴る。
「でもまぁ、今のところ心配するような感じのことは起きそうにないね。どうする?まだ張り込む?」
哲司が「大丈夫じゃないか?」と言う感じで言う。
「まだ、分かりません……。とりあえず、終わるまでは張り込みを続けましょう……」
颯希が油断は禁物ともいう感じで張り込みを続けることを促す。
「でも、母親の方も怒鳴っている感じではなそうだな」
透がそう言いながら、どこか腑に落ちない表情をする。そして、更に言葉を綴る。
「確かに、終わるまで見届けたほうが良いかもしれない……」
恵美子の様子に何か違和感を覚えるのか、透も颯希と同じ事を言う。
普通に考えれば、この場合、恵美子が叫びながら茂明を罵ってもおかしくない。しかし、恵美子が取り乱している様子は見受けられない。
むしろ、落ち着き過ぎている……。
颯希たちが張り込みながら様子を伺っていると、茂明が袋から何かを取り出した。颯希たちは一瞬身構えるが、袋から出てきた箱を見て颯希が声を上げる。
「あれ……、私と静也くんが貰ったチョコレートじゃないでしょうか?」
颯希の言葉に静也がそのものをじっと見据える。
「……確かにあの時と同じ箱だな。恵美子さんにあげるために持ってきたってことか?」
「なんの箱だい?」
哲司がその箱のことを颯希に問う。
「恵美子さんが好きなメーカーのチョコレートなんだそうです。恵美子さん、嬉しいことがあると、そのチョコを食べるのが幸せだって聞いています」
「それでチョコを持ってきたってわけか……」
颯希の言葉に透が応える。
「茂明さんとしてはもう一度やり直したいという気持ちが強いです。だから、許して貰うためでもあるのではないのでしょうか?」
「そうかもな……。後は恵美子さんがそれに応じるか応じないかだけだし……」
颯希の言葉に静也が応える。
茂明はまた三人で一緒に暮らすことを望んでいる。後はそれを恵美子が受け入れるか受け入れないか、それだけだ。でも、工藤の話では恵美子は今でも茂明を愛しているという。なら、望みは高いのかもしれない。小春も心の中ではきっと三人でまた暮らしたいと思っているはずだし、そうなれば小春を苦しみから抜けださせることができるかもしれない。
そう、期待をして隠れながら二人を見守る。
「恵美……子……?」
恵美子がナイフを茂明に向ける。突然の出来事に、茂明は一瞬理解ができずに固まっていた。
「茂明さん……死んでください……。心配しなくても私や小春もすぐに後を追うわ……。空の上で家族みんなで幸せになりましょう……」
恵美子が涙を流しながら言葉を綴る。
「恵美子……、何を言って……」
茂明が状況を飲み込めずに、その場で固まったまま動かない。
「なんか様子がおかしくないか?」
透が何か違和感に気付き、声を出す。
「恵美子さん、ポケットから何かを出しましたよね?」
恵美子がポケットから何かを出したのは分かったが、颯希たちの距離からは何を出したのかは分からなかった。
「なんか、茂明さん、固まってないか?」
静也が茂明の様子に疑問を抱く。
「まさか……、状況からして、何か危険なものを向けているんじゃないのか?!」
透が二人の様子からそう推察する。
「行きましょう!!」
颯希の声で全員が二人の元に駆け寄る。
近付くにつれて二人の会話が聞こえてきた。
「私の我が儘、聞いてくれるのでしょう?……なら、死んでください……」
そこへ……。
ピィィィィィーーーー!!
けたたましく音が鳴り響き、音に驚いた茂明と恵美子は音がした方向に顔を向ける。
「やめてください!!恵美子さん!!」