第5話

文字数 2,148文字


 ピッ……ピッ……ピッ……。


 病室に機器の音が規則的に響く。
 凛花は、ベッドの上で沢山の管を通された状態で生命を維持していた。

「凛花ちゃん……」

 その様子に美優が凛花の名前を漏らす。声は涙声になっていた。颯希は途中で買ってきたお見舞い用の花束をベッドの横にあるサイドテーブルに置く。そして、颯希たちは椅子に座った。

「凛花ちゃん、初めまして。中学生パトロール隊員の結城颯希です」
「……同じく隊員の斎藤静也です」

 颯希と静也は聞こえないと分かっているので、そっと静かに声を掛ける。

「あのね、凛花ちゃん。颯希ちゃんはね、すごく凛花ちゃんに似ている子なんだよ。明るくて元気で正義感が強くて……。ね?凛花ちゃんととっても似ているでしょう?」

 美優が涙声で必死に問いかける。反応はない。でも、諦めずに颯希たちは必死で凛花に話しかけた。

 目が覚めることを祈りながら……。


 ――――ガラっ!


 その時、病室の扉が開いて女性が入ってきた。その女性はどこかやつれているような表情をしているように見える。

「美優……ちゃん?」

 女性が美優の顔を見て驚くような表情をする。

「おばさん!」

 女性の顔を見て、美優も驚きの声をあげる。そして、颯希たちを紹介し、突然お見舞いに来たことを謝る。

「……わざわざお見舞いに来てくれてありがとう。そう、颯希ちゃんは凛花に似ているのね。お義母さんから聞いているわ。最近、凛花にとても良く似ている子に会ったって……。あなたがその颯希ちゃんなのね……」

 凛花の母親はそう言うと、穏やかに微笑む。そして、颯希と静也がパトロール中に由美子と道明に出会い、凛花の事件のことを聞き、目が覚めて欲しくてお見舞いに来たことを説明した。

「……そういうことだったのね。今も犯人は捕まっていないっていうのは警察から聞いているわ。全力で捜査しているけど、情報が少なすぎてなかなか進展がないって……」

 凛花の母親はそう言うと、悲しそうな顔をしながら愛しい我が子の頭を撫でる。

「……あの、それで不躾な質問かもしれませんが、何か事件のヒントになるようなことは思い当たりませんか?」

 颯希が事件解決の手掛かりが見つけられないかと思い、意を決して聞いてみる。

「そうねぇ……。警察にも聞かれたけど本当に何で凛花がこんな目に遭ったのか本当に分からないのよ……」

 母親に聞いても、やはり事件のヒントになるようなことは掴めない。母親は凛花の頭を優しく撫でながらゆっくりと言葉を紡いだ。

「この子は本当にいい子で自慢の子なのよ……。正義感が強い子で、いじめられている子を助けたこともあるくらい勇敢で優しい子なの……。それにね………」

 凛花の頭を撫でながらその眼には涙を溜めているように見える……。本当にわが子を可愛がっているのだろう。凛花の話を、嬉しそうに……悲しそうに……語り続ける。

「……なんでこの子がこんな目に合わなきゃいけないの?って今でも思ってるわ。凛花をこんな目に合わせた犯人が憎くて……憎くて……、殺してやりたいくらいだわ……」

 最後の方の言葉は怒りが滲み出ていた。それくらい犯人が憎くて仕方ないのだろう。無理もないことだった。

「今でもね、とても後悔しているの……。もし、塾に凛花を迎えに行っていたら、こんなことにならずに済んだんじゃないのかって……」

 凛花の事件が起こってから、母親は日に日にやつれていき、毎日泣いているのだろう……。目のすぐ下には涙の痕がこびり付いている。最愛のわが子がこんな状態になり、毎日お見舞いに来ては手を握って目が覚めるのをずっと待っているようだった。


 面会時間が終わり、颯希たちは病院を後にした。


 帰り道、三人は一緒に道を歩きながら話している。

「……凛花ちゃん、早く目を覚ますといいのです」
「うん……。また、前みたいに凛花ちゃんとお喋りしたいな……」
 
 少し暗い表情で颯希と美優が声を出す。

 そこへ、静也が二人を元気付けるように声をあげた。

「そんな顔していたら目を覚ますものも目を覚まさなくなるぞ!絶対目覚めるって信じようぜ!!」

 颯希と美優に喝を入れるように静也が声をあげて言う。

「……そうですよね!絶対に目覚めるのです!」
「……うん!そうだね!私たちまで暗い顔をしていたら駄目だよね!」
「その意気だ!」

 静也に励まされて颯希と美優が元気を取り戻す。

「さすがなのです!静也くん!あっぱれ座布団一枚ですね!」
「漫才じゃねぇよ!」
「良かったら小道具用の扇子を用意しましょうか?」
「いらんわ!!」

 相変わらずの二人のやり取りに美優も笑顔で微笑んでいる。


 その時だった。


 バッ――――!!


 急に颯希が後ろを振り返った。

「颯希ちゃん?どうしたの?」

 颯希の行動に美優が心配そうに声を掛ける。

「ううぅん……。何でもないのです……。気のせいだったみたいなのです……」

 颯希の言葉に美優ははてなマークを頭に浮かべる。


 静也は颯希の様子に何かを考えていた……。


 理恵が遠くの影からじっと、颯希たちをじっと眺めている。

 その瞳には憎しみが溢れかえっている……。
 
 そして、颯希が振り返る瞬間、理恵はその場を離れ、人ごみに紛れて去っていく。



 この時、颯希は自分に黒い影が忍び寄っていることに気付いていなかった……。

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