第13話

文字数 1,977文字


 ――――ザシャァァァァ。

 音を立てて、理恵と静也が地面に倒れる。

 理恵は慌てて起き上がると、ナイフを掴んでその場から逃げ出した。

「待ちやがれ!!……っ!!」

 静也が追いかけようと立ち上がり走ろうとしたが、倒れた拍子に足をひねったのか、その場から動けない。
 ここで理恵を逃がすわけにいかない。颯希が理恵を追うために駆けだした時だった。


「確保!!」


 哲さんと警察官が理恵を捉えて、その場に伏せ倒す。
 そして、手に持っているナイフを取り上げると警察官が叫ぶ。

「桃田理恵!殺人未遂の現行犯で逮捕する!!」

 理恵はそのままパトカーで連行されていった。

「颯希ちゃん!静也くん!大丈夫かい?!」

 哲司が駆け寄り、颯希に声を掛ける。颯希は大丈夫だが、静也は足を少し捻ったため、病院で検査を行うことになる。
 颯希は、事情を聞くために警察官と一緒に南警察署に行くことになった。


「颯希!無事だったんだね!」

 南警察署に着くと、署長である誠が慌てて颯希に駆け寄る。そして、誠も同席して今回の経緯を説明した。


 静也と別れる直前、颯希は理恵の視線に気づき、静也にある事をお願いした。


「静也くん、私が囮になってあの子を人気のない場所に惹きつけるから、その後を気付かれないように付けてきて欲しいのです。多分、あの子の狙いは私だと思いますから……」

「でも、危険すぎるだろ!」

「犯人を捕まるため……。このままではあの子は救われません……。それに、凛花ちゃんが目覚めたとなると、また凛花ちゃんの命を狙う可能性もあるのです……」

 颯希は深呼吸を行うと、力強い瞳で言った。

「お願いします……。協力してください」

 颯希の言葉に静也は「これ以上は何を言っても聞かないだろう」と、観念して颯希の作戦に協力することにした。そして、静也にその時に渡したメモは哲司の携帯番号だった。「哲さんに連絡して」という颯希の意図を読み取り、静也が哲司を呼んだ。そして、その近くで理恵のことをマークしていた警察官と哲司と静也が合流し、哲司から颯希の囮作戦を聞いて犯行を起こす直前に逮捕ということになった。しかし、近くに身を潜めて様子を伺っていると、理恵が急に刃物を振りかざしたので止めようとしたら、突然静也が飛び出していき、理恵に体当たり。そして、その場を去ろうとしていた理恵を現行犯で逮捕した……というのが、今回の一連の流れだった。


 事の内容の説明が終わり、誠が声を出す。

「なんて危険なことを……。無茶のことは止めてくれと言ったじゃないか……」

「ごめんなさい……」

 誠に心配をかけたことを颯希が素直に謝る。

「哲司と木津(きづ)警部補が捕まえてくれたから良かったけど、一歩間違えれば命の危険もあったんだよ?頼むから、お父さんの心臓が縮むような真似はしないでくれ……」

 誠は話を聞いて余程心配になったのだろう。両手を顔に当ててさめざめと泣いている。

 あの後、静也は軽く捻っただけで、特に問題はないということが分かり、数日間は自宅療養を言い渡されたらしい。颯希はその報告に安堵する。静也を危険なことに巻き込み、挙句、怪我を負わせてしまった。

(今回のことは、静也くんにちゃんとお詫びとお礼をしましょう……)


 理恵は警察の事情聴取に素直に答えているらしく、凛花を襲ったことも、母親に毒を持ったことも自供しているということだった。自宅を家宅捜索したところ、理恵の部屋にあるパソコンから『毒の作り方』が検索されていたことやネットでキャンプ用のナイフを購入したことが分かった。

 そして、颯希をなぜ襲おうとしたのか、その経緯を聞いたところ、その理由に取り調べを行った刑事は呆然とした。

「ヒーローになりたかったのよ……」

「ヒーロー?」

 理恵の言葉の意味がよく分からなくて、刑事がその言葉を繰り返す。

「そうよ、ヒーローになりたかったのよ……。私みたいな子を蔑み、手を差し伸べるふりをして心の中で見下しているような偽善者のような子は私たちのような子には鬱陶しいのよ!家族に愛されて周りに愛されて……。その上、私のような子を哀れに思って声を掛けて……。そんな子たちは私たちにとって「悪」なのよ!だから、あの子もきっと、凛花ちゃんみたいに哀れな子に声を掛けてる偽善者だから私のような子を救うためにあの子を裁きたかったのよ!!」

 その理由で凛花も襲ったという。凶器は大きめの石で頭を強打したということだった。母親に関しては、自分の苦しみを味わってもらうためにもがき苦しみながら死んでもらおうと思い、その方法として毒殺を考え、ネットで毒の作り方を調べてその毒を焼酎に混ぜて殺害しようとしたことを自供した。


 こうして、『無差別殺人未遂事件』と『毒物混入事件』の二つの事件が幕を閉じた。


 理恵の供述を誠から聞いた颯希は署長である父親にあるお願いをした。


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