第12話
文字数 2,727文字
颯希の言葉に静也は同意し、家にお邪魔することになった。そして、佳澄から透がいることを聞くと二人で透の部屋に行く。
「……母親が異常に感じる?」
颯希が今までの経緯を話し、茂明のああいう言葉を言われても恵美子が未だに愛していることに疑問を持っている颯希が透にそのことを聞いてみた。
「はい、何となくなのですが……。それに、話をするにしても家ではなくなぜ公園なのかも気になっています。なんだか、やな予感がするのですよ……」
確かに話し合いをするなら、どちらかの家ですればいいのに、なぜわざわざ公園を指定したのか?颯希はその事が疑問だったのだ。
「まぁ、内容的に子供に聞かれたくないのか、その思い出の公園で話をしたいのか……。ってところじゃないかな?でも、そんな事を言われてまで旦那のことを愛しているのは確かに不思議かもしれないが、世の中にはいろんな人間がいるからな。ただ単に恵美子さんって人の愛情が大きいだけじゃないのか?」
「まぁ、それが妥当ですよね。ただ恵美子さんの愛情が深いだけだとは思うんです。それに、娘のことも本当に愛していると思いますよ」
透の言葉に静也が同意する。
「だからこそです。だからこそ、何か嫌な予感がするのです……」
颯希の言葉の意味が透と静也にはよく分からない。でも、颯希の瞳からは何かを恐れているような感じがある。
「明日の夜、哲さんに付き添ってもらって私たちも公園に行きましょう!」
颯希の言葉に静也は「分かった」と言い、透も念のため自分も行くと言い出した。そして、哲司に連絡して明日の夕方に哲司の所に行くことを伝える。
「ママ!机、綺麗にできたよ!」
声がして掃除機をかけていた恵美子は手を止めて小春のところに行くといくと机はピカピカに拭かれていた。
「あら、綺麗に出来たわね。じゃあ次はママと一緒にお風呂場の掃除をしましょうか?」
「うん!」
恵美子が微笑みながら優しく小春の頭を撫でながら言葉を綴る。小春のすごく嬉しそうに一生懸命掃除をしている。
土曜日、恵美子と小春は部屋の掃除をしていた。
きっかけは恵美子が部屋を綺麗にするのに小春を誘い、「一緒にお掃除しましょう」という事が始まりだった。小春はその言葉に嬉しそうに返事をし、こうやって一緒に掃除をすることになった。
窓を雑巾でピカピカにしたりと、季節外れの大掃除のように部屋を綺麗にしていく。小春も最近の恵美子は機嫌が良いため、外に遊びに行くこともなく、ずっと恵美子の傍にいた。
「お部屋、ピカピカにしましょうね」
「うん!小春、頑張る!」
小春の心の中では嬉しさが溢れていた。子供ながらに部屋を綺麗にすることが茂明が戻ってきて三人でまた暮らせると思っている。
(パパが戻ってきたら、部屋が綺麗になっていることに喜んでくれるかな?)
ワクワクしながら頑張って掃除する。
「お掃除が終わったらご飯にしましょうね。今日は小春の大好きなチキンライスよ。後、小春の好きなイチゴミルクも用意したわよ。それと、イチゴババロアも作ったからご飯の後で食べましょうね」
「ホント?!わーい!!ママの作るイチゴババロア大好き!!小春、お掃除頑張るね!!」
ウキウキの気分で小春は一層掃除に身を入れる。小春の様子に恵美子が微笑む。その顔は娘を愛おしく思う母親の顔そのものだった。
夕方になり、颯希、静也、透は哲司の住むアパートに向かった。透と静也の手にはちょっと大きめのトートバッグを持っており、颯希もちょっとした手提げ袋を持っている。そして、颯希と静也はパトロールの格好をしていた。透だけ私服姿で哲司の所に訪れる。
哲司の所に着き、部屋に上がらせてもらい颯希が自分の予感を話す。
「……その可能性がある……か……」
颯希の言葉に哲司は「うーん」と唸っている。今のところ事件性は無いので警察には協力を求めることができない。しかし、颯希の予想が本当だとすれば一刻を争う。
「考えすぎかもしれないが、颯希の言葉は一理あるからな。その予想は全くの的外れとは思えない。母親の性格からしてあり得る話かもしれないし、心理学的にもそういう人間がいることは確かにある。まぁ、そのことが起こるかは可能性の話だけどな」
颯希の予感を透が心理学を用いて説明する。
「公園に待ち合わせは確か夜の八時だったよね?……分かった、行ってみよう!」
哲司の言葉に三人が頷く。
「まぁ、まだ時間まであるしとりあえず腹ごしらえをしよう。『腹が減っては戦は出来ぬ』というからね」
哲司の言葉にまず腹ごしらえをすることになり、颯希と静也がトートバッグからタッパーを取り出す。颯希の方は佳澄が用意してくれて、静也の方も拓哉が作ってくれた。
机にタッパーを並べてみんなでテーブルを囲みながら食事をする。颯希の方が持ってきたのは、卵焼きに野菜と肉が入った炒め物、それに、食後のデザートだろうか?なぜか、佳澄お手製の杏仁豆腐まである。静也の方は唐揚げにミニハンバーグ、それに、色々な野菜が入っているオムレツまで入っている。どちらも、かなりガッツリとしたメニューだ。佳澄も拓哉も育ち盛りだからという事でボリュームも栄養も満点のものを用意したのだろう。それに加え、颯希の方には割りばしと紙の皿まで入っている。哲司が一人暮らしのため、そんなに食器が無いことを予想して佳澄が一緒に持たせてくれたのだった。
「では、そろそろ行きましょう!」
腹ごしらえを済ませて、颯希たちは公園に向かった。
「小春、美味しい?」
小春は夕飯を食べ終えると、大好きなイチゴババロアを口いっぱいに頬張りながら嬉しそうに食べていた。恵美子がその様子に声を掛けると、小春は頷きながら手を止めずに美味しそうに食べている。
しばらく食べていると、お腹いっぱいになったのか、小春がウトウトとし始める。
「あらあら、お腹いっぱいになって眠くなっちゃったのかしら?」
恵美子はそう言うと、小春を抱きかかえてお布団に寝かせた。
「可愛い小春……。独りぼっちにはしないから安心してね……」
そう言いながら小春の頭を優しく撫でる。しばらく撫でた後、キッチンに行き、あるものをポケットに入れると、準備をして、そっと家を出た。
茂明は時計を見ながら時間が来るのをまだかまだかとそわそわしながら部屋の中をうろうろしていた。準備を早々に終えてしまい、時間を持て余す。どこか落ち着かなくてタバコをひたすら吸い続けながら時間が来るのを待つ。
(また、三人で暮らせるといいんだけどな……)
そう心で呟く。
(あっ、そうだ。あれ……)
茂明は何かを思い出したのか、冷蔵庫からあるものを取り出し、それを袋に入れた。
そして、時間が来て茂明は家を出た。