第13話

文字数 2,322文字


「……じゃあ、亡くなった時に来ていた服がその服だったのですね」

 美亜の恋人だった理人からその話を聞く。

 実は自殺の件を調べるために凛花にお願いして理人と会えるように連絡を付けてもらった。そして、颯希たちは学校が終わって速攻で理人に会いに行き、美亜が亡くなった時の状況を聞く。すると、亡くなった時に着ていた服というのは美亜が歌う時に着ている一番お気に入りの服だったという事が話を聞いて分かった。

「今でもさ、信じられないんだ……。美亜が亡くなったってこと……。ひょっこりと目の前に現れて『久しぶり!』って言いながら会いに来るんじゃないかって……」

 公園のベンチに腰掛けて、風に吹かれている大木を眺めながら理人はどこか遠い目をしながら言葉を綴る。最愛の恋人の死をまだ受け入れられていない様子だった。

「……あの日も、美亜は施設で歌う予定になっていたんだ。なのに……なんで……こんな……」

 理人が苦しそうな顔で言葉を綴る。

「美亜は、本当に歌うことが大好きだったよ……。将来は歌手になりたいって言ってたし……。なんか、憧れのアーティストが裸足で歌っているからって言って美亜も歌う時は裸足で歌っていたんだ……。でも、その方が地に足がついているせいか歌いやすいって言ってた……」

「……そうなんですね」

 理人の言葉に颯希が言葉を発する。

「……あの、不躾な質問になりますが遺書のようなものはあったのですか?」

 颯希が恐る恐る聞く。その言葉に理人が暗い顔を更に暗くしてゆっくりと言葉を綴る。

「……あぁ。美亜が書いていた日記のその日付に『今までの私にさようなら』って書かれてあったって聞いているよ……」

 確かにその言葉だけを読めば、遺書として成り立っているように見える。警察もそれで美亜が自殺したものだと判断した。

「……良かったら美亜さんのお話、聞かせてくれませんか?」

 颯希がそう言うと、理人がポツリポツリと話し出した。

「そうだな……。美亜、歌っている時、歌うのに夢中になって躓くところがあるんだ。どこかおっちょこちょいっていうかさ……。夢中になると、周りが見えなくなるんだろうな……。でも、施設でもバイトもそんなところも可愛いとかで利用者さんには可愛がられていたよ……。美亜も、こういうところでの仕事もなんだか楽しいねって言ってたし……。まぁ、お前みたいな天然で抜けているやつがなかなか務まるわけないだろってからかいがてら言ったりしてた……」

 そこまで話して、理人が更に遠い目をする。

「……もう、そんなことも出来ないんだよな……」

 懐かしむように、悲しそうに、言葉を綴る。その表情から今でも美亜の事を愛しているのが伝わってくる。

「なんで……自殺なんか……」

 理人がそう呟き、一筋の涙を流す。

 颯希たちはこれ以上美亜のことを聞くのは酷だと感じ、お礼を言って理人とさよならをした。

「……ちょっと、凛花ちゃんに電話します」

 理人が去ってから、颯希が先程の会話で何かに気付いたのか、凛花に電話してあることをお願いする。

 電話が終わり、静也が電話で聞いていた内容に声を出す。

「……颯希、どういうことなんだ?」

「もしかしたら、その方面も美亜さんは考えていたのではないのかと思い、凛花ちゃんにそこの当たりを調べてもらうようにお願いしました」

「まぁ、確かにその可能性もあるかもしれないよね……」

 颯希の電話の話に雄太も同意の言葉を発する。

 そして、颯希が強い瞳で言葉を語った。


「明日はお休みです。海に行って自殺した場所で何か手掛かりを見つけてみましょう!」



「手掛かりは無し……か……」

 木津が深い溜息を吐きながら言葉を吐き出す。捜査は難航を極めていた。いろんな方面で犯人を捜していくが、なかなか容疑者が特定できない。捜査員の中でもこの事件はお蔵入りになるのではないかと囁かれ始めていた。

「……まぁ、三人目が殺されて以降、犯行はピタリと止まりましたからね」

 呉野もため息を吐きながら言葉を綴る。

「まぁ、岡本が見つかったのは良かったがな……」

「あの子たちのお手柄ですね……」

「まっ、何か分かったら連絡はくれるってよ」

 実は岡本を引き取った時、颯希が木津に言っていた言葉がある。それが、今回の事件で何か分かったら連絡するという事だった。

「……まぁ、特に期待していないがな……」

 木津がそう呟く。

 そして、重い腰を上げて連続殺人事件の手掛かりを見つけるために呉野と共に捜査室を出た。



 次の日、颯希と静也はパトロールの格好で、雄太は私服姿で海にやってきた。

「……あそこの灯台で靴が発見されたんですよね?行ってみましょう」

 颯希の言葉で三人で灯台に行き、何か手掛かりがないかを探す。灯台の中にも入り、捜索するが特にこれと言ったものは見つからない。

 颯希たちが落胆する。

 そして、灯台の土台に腰掛けて海を眺めながら、どうやってこれから捜査していくかを話す。でも、これと言って良い案が思い浮かばない。

「……警察でもなかなか犯人が捕まえられない理由が分かるな……」

 静也がポツリと呟く。

「そうだね……」

 雄太も小さく言葉を呟く。

 そこへ、釣りに来たであろう小学生くらいの男の子二人組がやってきた。男の子たちは釣竿を海へたらし、楽しそうに喋っている。

「今日は大物を釣り上げるぜ!」

「俺も負けないぜ!」

 男の子たちが競い合っているのか仲良さそうに喋っている。

「そういや、最近、歌聴かなくなったな~」
「そうだな。上手かったのにな」

 男の子たちの会話を聞いて、颯希たちがもしやと思う。颯希たちが立ち上がり、その男の子たちに声を掛けた。

「君たち、ちょっといいかな?」


 颯希がそう言って男の子たちに声を掛けた。

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