第6話:東京佐川問題と総理大臣のパフォーマンス

文字数 2,017文字

 金丸の5億円献金も「全く知らない」と答えた。竹下登・小沢一郎の証人喚問は、いずれも不発だった。自由民主党は、社会党の筒井信隆・吉田和子、安恒良一ら11名の野党議員を証人喚問を要求して対抗。だが、泥仕合を続けただけで終わった。1993年3月、安恒良一は、離党と国会議員の辞職勧告を拒否し続けたため、社会党規律委員会により日本社会党を除名処分となった。

 1993年4月、安恒良一の1億円以上の所得隠しが発覚した。東京佐川急便からのヤミ献金と疑われたが、真実は不明のままとなった。この事件は、1988年のリクルート事件と共に政界に多大な影響を与えた。自由民主党・社会党に対して、疑惑が持たれた重大事件だったが、真相が明らかにならなかった。この事から既成政党への批判の声が高まり、政治不信が深まった。

 金丸の失脚により梶山静六が自由民主党幹事長に就任した。小沢一郎は、非主流派になり羽田孜・渡部恒三と共に経世会を離脱し「羽田グループ」を旗揚げした。この結果を書留で、山野が、赤城に送った。1993年6月18日、宮沢内閣は、社会党・公明党・民社党・社会民主連合から不信任案を提出された。

 羽田派を中心とする小沢一郎・羽田孜・渡部恒三、奥田敬和、石井一、藤井裕久、熊谷弘ら自由民主党議員39名が賛成し不信任案が255対220で可決された。宮沢内閣は、日本国憲法第7条第3号により衆議院を解散した。そして第40回衆議院議員総選挙が行われることになった。1993年6月21日、ユートピア政治研究会に参加していた武村正義、鳩山由紀夫、田中秀征が、自由民主党を離党した。

 政治改革などを掲げ、新党さきがけを結党した。1993年6月23日、羽田孜と小沢一郎は、「政界再編」「政治改革」を呼号し、新生党を結成し小沢一郎が、代表幹事に就任した。この動きに対し、官房長官の河野洋平は、夕方の定例記者会見で「政治不信を招いたのは離党した人達ではないのか」と厳しく批判した。また、清和会の幹部からも、批判する声が上がった。

 しかし、ジャーナリストのT氏は、小沢一郎が「政治改革」を掲げ、新生党を結成したことを1993年6月24日付の『朝日新聞』朝刊で「ちゃんちゃらおかしい」と酷評した。日本新党の細川護熙は候補者を擁立した。新生党の小沢一郎、新党さきがけの武村正義に同調した。これにより日本新党を中心とした新党ブームが起こる。

 この中で自由民主党が悪い政権交代をしたという雰囲気が作られたとされる。この時、自由民主党は過半数を獲得できず野党に移行。社会党は支援団体の連合の方針転換や上野建一の辞職により55年体制成立以来、最低の70議席と惨敗。それに対し日本新党・新生党・新党さきがけが、躍進し、宮澤喜一内閣は、総辞職した。

 1955年の鳩山一郎内閣から38年渡り続いた55年体制は、幕を閉じた。東京佐川急便事件を契機とし55年体制は、崩壊し政界再編が、実現した。そして、8政党・会派連立による細川内閣が成立した。細川内閣の発足で東京佐川急便事件は事実上蓋をされた。総選挙後、新生党の羽田孜、藤井裕久ら5名が外務大臣・大蔵大臣・通商産業大臣・農林水産大臣・防衛庁長官として入閣した。

 さきがけの武村正義は、内閣官房長官、鳩山由紀夫は、内閣官房副長官に就任した。日本社会党も与党となり6名の閣僚を送り出した。1994年2月の「国民福祉税構想」の発表、撤回の前後から小沢一郎と武村正義の対立が、表面化した。武村が、辞任することで、事態の収拾を図ろうとした。だが、それまで高い支持率を維持していた細川政権が動揺した。

 1994年3月に政権基盤が揺らぐ中、細川護熙に東京佐川急便からの献金疑惑が、浮上し、野党自由民主党から連日追及された。細川護煕は「既に返済している」と釈明したが、自由民主党からの糾弾は、止まず国会が空転し内閣支持率が急落した。1994年4月に細川護熙は、総理大臣を突如辞職した。細川連立政権は、9か月の短命政権に終わった。

 国会の予算審議に入る前に総理大臣が辞任するという極めて異例の事態となった。細川が、辞職したため追及は、停止された。1998年に細川護熙は、衆議院議員を任期途中で辞職し、以降は、文化人、永青文庫理事長としての活動に専念した。細川護熙を当時追及した村上正邦元自由民主党参議院議員会長に拠れば、佐川急便からの借り入れ問題は、デッチ上げだったという。

 自由民主党は、細川が借入金を佐川にしっかり返済していたことを知っていた。しかし、倒閣できると考えたため参議院の予算委筆頭理事という立場を用いて細川護熙を国会で追及した。また無実を証明する貸し付け記録も出てきていた。しかし佐川急便に借りっぱなしになっている自由民主党の大物たちの名前が、貸し付け記録に連なっていたため出せなかったとある。以上、信じられないような政治の駆け引きが行われた。
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