第47話 ワールドエンド

文字数 1,134文字

 畑の向こうから笑顔を見せて、村娘が駆けて来る。
 (かご)いっぱいに積んだ中から、鮮やかな橙色(だいだいいろ)の果実を選び、彼の手に乗せる。
 彼は果実をひとくち(かじ)る。

「おいしいな」
「そうでしょ、皆が喜ぶわ」

 そう言って村娘は楽しそうに踊る。
 夕陽に照らされた畑の中で、彼はその娘を優しく抱きしめた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

──3

 おれの意識は王都の防壁の上に戻った。

 立ち上がろうと膝を立てて、脚に力を入れていることに気付く。
 目の前にパナタとリリシアが立っているが、ふたりとも森を眺めている。

 右手の側に長剣(ロングソード)が置かれている。
 おそらく、おれのすぐ後ろにウォトリスが迫っている。

──2

 おれは知りたい。まだ分からないことがたくさんある。このまま消えたくない。
 長剣(ロングソード)に手を伸ばそうとするが、腕が痺れて動かない。

 いったん刃を避けたとしても、追撃されれば逃げようがない。
 おれに何ができる。
 どうやって腕を……。

──1

「パナタ聞け!」

 叫びながら、おれは横に転がる。

 おれの上にウォトリスが舌打ちしながら覆い(かぶ)さる。
 右手のダガーが、陽の光を鋭く反射する。

──0

 ウォトリスが右腕を振り下ろす。
 おれは続けて叫ぶ。

「おれ達は永遠の命の中にいる!」

 おれの両腕に、破裂するような痛み。そして、力が戻る。
 ウォトリスの刃を左肩で受ける。刺された所から、黒い胞子が噴き出す。
 おれは右手で、落ちている長剣(ロングソード)の柄を握る。

 刺されていないはずのおれの胸から、鮮血が流れ出す。もう終わりか。
 だが、まだ身体は動く。

 右手に力を込め、身体を左へ(ひね)りながら右腕に全ての力を込めて振り抜く。
 おれは力を使い果たし、長剣を手放す。

 ……静かだ。まだおれは死んでない。
 硬い音と、何かが潰れる様な音が同時に聞こえた。

 頭を失ったウォトリスの身体が、おれの上に崩れ落ちる。
 ウォトリスだったものは、ゆっくりと黒い(ちり)となり、風に乗って空へ溶けていった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「ルキ!」

 パナタがおれの左肩からダガーを引き抜こうとする。

「だめよ、血止めの準備をしないと!」

 リリシアの声でパナタは手を止める。

 おれは胸の鼓動を確かめる。
 どくん、どくんと同じ間隔で胸が動くたび、左肩に鈍い痛みが走る。
 胸の流血は止まった様だ。

 おれは死ななかった。
 ダルドの号令で戦士達が、動けないおれの身体を分厚い布で包み、運ぶ。
 パナタが並行して歩きながら言う。

「さっきの話は、ルキが回復してから続きを聞くよ」
「そうしてくれると……ありがたい」

 おれは出来るだけの笑顔を作る。

 リリシアは調べたい事があると言って、またどこかへ行ってしまったらしい。
 (いにしえ)の約束を果たすためには、彼女を倒さなければならない。

 ひどく疲れてしまった。
 今は眠ろう。
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