第30話 弾劾

文字数 1,342文字

 監視塔の1階にて集会が始まった。

 今朝、異形の魔物が砂漠からやって来て、さらに、砂蟲(サンドワーム)も暴れた。全部シイラのせいだが、彼女は言いたいことを言って、すぐに砂漠に戻って行ってしまった。
 番兵が異形の魔物の話を言いふらしたせいで、砂の(みやこ)のお偉いさんが詳しい話を聞きたいと、やって来た様だ。
 白装束を(まと)った老人がおれの方を向いて口を開く。

「ルキと言ったか、あなたの旅の目的を聞こう」
「おれは遥か東のクライモニスに行きます」

 集まった数十人が(ざわ)つく。
 老人も眉を(ひそ)め、続ける。

「魔物に乗って砂蟲(サンドワーム)と戦ったと聞いたが」
「知らない女の戦いに巻き込まれただけです」

 あの時一緒にいた番兵が、おれを指差し、声を上げる。

「異形の魔物に乗っていた者は、この男の名を知っていました。親しげに話している様に見えました」
「ほう、ではもう一度目的を問おう。クライモニスで何をする気だ」

 老人はおれを(にら)みながら問う。

「旅人になぜ旅をするのかを聞いて、何の意味があるのでしょうか」

 おれの答えに、数人が怒り声で騒ぎ始める。
 老人がそれを制止する。

「絞首刑にされたくなければ、すぐに(みやこ)から出て行け」

 おれの弾劾となった集会が終わり、おれは宿へ荷物を取りに戻る。少し距離を置いて、都の警備兵が歩いて来る。

 スワビ達は宿に居なかったので、荷物だけ持って宿を出た。市場を通り過ぎる時、モアーニが建物の影からこちらの様子を見ていることにおれは気付いた。
 都に入ったのと同じ門をくぐり、外に出る。警備兵が声を掛けてくる。

「なあ、本当にクライモニスへ行くのか」
「そうだ。もう迷惑はかけないよ」

 彼は辺りを見廻(みまわ)し、小さな声で(ささや)く。

「本当はな。皆、あそこに何があるのか知りたくてたまらないんだ」

 悪戯(いたずら)な笑顔で続ける。

「もし戻ることができたら酒を(おご)るから、存分に語ってくれ」

 彼は、(みやこ)の南に小さな街があると言い、預けてあった風馬(ペガサス)を連れてきてくれた。
 おれは感謝を伝え、(みやこ)を後にした。

 風馬(ペガサス)を馳せ、街を目指しながら、考えを巡らす。

 シイラはおれの今の名を知っていた。だが、アーメルがおれのことを話したのなら、本当の名を伝えるはずだ。
 なんとなく、シイラは前にリリシアからおれの名を聞いたのではと思う。きっとおれと北へ旅する前に、リリシアはここに来ていたのだろう。
 そして、シイラはなぜ、姉様と呼ぶアーメルが消えることを望むのか。

 風馬(ペガサス)の速さで魔物を避けながら、南へ夜通し(はし)り抜け、高地にある小さな街に辿(たど)り着いた。幸い、(みやこ)での魔物事件の噂は届いていない様子だ。

 宿の近くの食堂でパンを(かじ)っていると、モアーニが椅子にどかっと腰を下ろした。

「勝手なことばかりしやがって」

 彼はにやりと笑い、焼けた干し肉をつまむ。

「巻き込まれただけだよ。それでも、皆を無理矢理連れて行くつもりも無かったさ」
「それが勝手だって言ってんだぁ」

 スワビが後ろからおれの頭を小突いた。

「命をかけて行くんだから、珍しい鉱石があったらいいけど」

 パナタが笑いながらおれの酒を飲み干した。

 おれが彼等になんと答えようか迷っていると、建物の外の景色が突然陽の光を失う。
 悲鳴が聞こえ、おれ達は食堂から飛び出す。
 見上げた空に、人面から黒い翼を生やした巨大な異形の魔物が浮かんでいた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み