第11話 王都への道

文字数 1,388文字

 スワビが王都に出稼ぎに行こうと言う。広場で発起人の男が、王都の復旧作業の働き手を集めている。人数がある程度集まったら、馬車に乗せて出発するということだ。

「ルキも一緒に行こうぜぇ!」

 朝早くから、宿まで押しかけてきて誘ってくる。おれは、まだこの場所を離れるつもりは無い。王都に行くと、そのまま長い旅が始まってしまう予感がしていた。
 一度は断ったものの、しばらくするとまたスワビがやって来て、部屋に居座り、「行くって言うまで動かない」と無茶なことを言い出した。

 おれは腕組みして考える。
 北の極地ゴルンカダルへ行くためには、幾月もの旅に耐える資金が必要だ。今のおれにはそれほどの持ち合わせが無い。確かに王都で働けば旅の資金を稼げそうだ。それに、王都には修練場がある。働きながら剣技を磨くのも良いか。
 スワビにのせられて動くのは(しゃく)だが、いずれは北へ向かわなければならないのだからと、一念発起して動くことに決めた。

 宿の部屋で荷物を整理して、亭主に別れを言う。おそらくこの地を訪れることはもう無いだろうと告げると、亭主は寂しそうにしてくれた。道行く人の中にも多少知っている顔があり、軽く別れの挨拶をする。
 ずっしりと重い荷物を背負い、おれは馬車の待つ広場へ向かった。すでに多くの冒険者が集まり、王都や報酬の話ばかりしている。発起人の男が2台の馬車へ冒険者や大工を割り振るのを待っていると、スワビが慌てた様子で、軽装のまま駆けて来た。

「あぶない、あぶない。寝過ごしちゃったよぉ」

 おれはスワビが来なくても、きっと客車に乗っただろう。

 王都までは、道なりで十夜を超える旅になる。少しの顔見知りはいるものの、道中に盗賊や魔物に襲撃されるかも知れないので、できるだけ気を張り詰めたままにしておく。スワビが無邪気に他の冒険者に話しかけるのを見て、それぞれどんな奴かも確認しておく。

 おれ達は白い馬が引く客車にあてがわれた。馬車はたくさんの冒険者を乗せて、渦中の王都へと土煙を上げガタガタと揺れながら進んで行く。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 陽が高いところにある内に、馬車はひたすら道なりに進む。夜は草地に大きな天幕を張り、見張りに交代で立ち、他は雑魚寝した。雨が降れば、道を外れて森の中、大雨傘(オオアマガサ)と呼ばれる巨木の葉の下へ馬車ごと避難した。
 
 そうして七夜が過ぎ、低い山の登り道を進んでいた時、魔物の大移動と交差した。ちょうど馬車の進行と十字に重なるように、20体ほどの魔物達が進む。おれよりもひと回り大きいくらいの図体の、魔山羊(キマイラ)の群れだ。体は山羊(やぎ)が太ったような形。頭は獅子(しし)の様な、いかつい顔つきをしている。

 魔山羊(キマイラ)巨大蛙(ビッグトード)などと較べれば知性がある方で、みだりに人を襲うようなことはしないはずだ。刺激を与えなければ襲って来ない魔物も多いが、この群れがそうとは限らない。
 魔山羊(キマイラ)が通り過ぎるのを待って、馬車は動き始める。
 
 その瞬間、黒いローブを羽織った男が突如として客車から飛び降り魔物へ向かった。

「おい、やめろよぉ!」

 スワビが目を大きく開けて客車から身を乗り出し男を制しようとするが、そのまま男は鞘から剣を抜き、魔山羊(キマイラ)に斬りかかる。
 魔山羊(キマイラ)咆哮(ほうこう)が響き、異変に気付いた他の魔山羊(キマイラ)が、一斉に男を取り囲み(うな)り声を上げた。

 再び剣を魔物に向けて構えた男が、ちらりとこちらを向き、にやりと笑ったように見えた。
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