第44話 約束

文字数 1,321文字

 おれの言葉に呼応して、知らせの糸が輝き始める。
 パナタが声を弾ませる。

「この光が、ルキの言葉を大陸中に届けてくれるんだよ」

 糸を伝い、光が拡散していく。
 見届けていると、風の総帥がおれの横に立ち、(つぶや)く。

「呪いのひとつが王都にある。戦士が約束を果たす時ではないかな」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 おれとパナタは行商人を捕まえ、荷馬車に揺られて王都へ向かう。

「まだ呪いの話はできないのか」
「おれの腕がもげてもいいなら、いくらでも話すんだけどな。今も両腕が少し痺れてるよ」

 おれの軽口に、パナタが少し驚いた顔をする。

「じゃあルキ、(いにしえ)の約束とか宿命とか、そんな話はできるのか?」
「それも無理だな。どれも全部、同じところに繋がっているから」

 パナタは残念そうに沈黙し、流れる風景を見ながら(つぶや)く。

「なら、全部を終わらせようよ」

 王都に近づくほどに、腕の痺れが強くなっていくのを感じる。
 呪いは間違いなく王都にある。

 王都に着いてすぐに、おれ達は修練場の戦士ダルドを頼った。彼は相変わらず剣技を極めようと鍛錬を続けていた。
 彼に連れられ、王都の(はず)れにある魔術の研究所へと歩きながら、ダルドは笑って話す。

「ちょっとした騒ぎになってたぞ。大陸中の風の精霊の力を使って、魔物と共闘するようにって伝えてたのはルキだったんだな」

 魔導師(アークメイジ)達の中でも、真剣に受け止める者、何かの策謀だと疑う者、冗談だと言って信じない者など、反応は様々らしい。

「いいさ。魔物の方だって、皆が同じ意志とも限らないしな」

 おれの言葉に、ダルドはにやりとして言う。

「ところがそうじゃないんだ」

 研究所に入ると、壁中にたくさんの幻像が映っていた。幻像の中には、他の国の風景があった。
 パナタが驚き声を上げる。

「すごい、大陸中を見渡してるみたいだ」

 おれは幻像のひとつに目を留める。
 黒い獣の輪郭に向かって、巨大蛙(ビッグトード)の群れが飛びついていく。それを引き剥がそうとしても、次から次へと押し寄せる群勢に獣は身動きが取れなくなる。
 やがて諦めたのか、黒い輪郭は風景に溶けるように何処かへと消えていった。
 ダルドが強い口調で言う。

「魔物達は本気だ」

 シイラが魔物を統べているとは思えない。魔物の意志を変えたのはアーメルだろう。
 やはりクライモニスでおれが見たのは、本物のアーメルだったのだろうか。
 そして、今のアーメルは、大陸中の魔物を動かすほどの力を持っているということか。

 幻像を眺め考えていると、監視している魔道士(メイジ)のひとりが大きな声を出した。

「王都の近くの森で、黒い獣と妙な生き物が戦っています!」

 おれ達は彼が指差す幻像を見る。
 確かに、黒い獣に絡みつく大きな生き物がいる。
 それはまるで、長く伸びる透明な水袋に水を満たしてぐるぐる巻いた様な、蛇とも(むち)とも見える形状だ。
 ダルドはおれの肩をつかんで言う。

「この辺には神獣も魔物もいないはず。どうして黒いやつが現れる」

 おれに聞かれても困るが、おれもパナタも傍観者でいるつもりはない。研究所から飛び出し、王都の防壁の扉を開け、森へと走った。
 森の中、黒い輪郭の足元へと近付いて行く。
 人影が見える。

 そこには、目を閉じて魔術の詠唱を続けるリリシアの姿があった。
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