Epilogue3 ふたり

文字数 721文字

 おれは目を開ける。
 蒼色が広がっている。波の音が聞こえる。

 首を動かし、辺りを見廻(みまわ)す。

 黄色がかった白い砂浜に、ゆったりと波が押し寄せている。

 両腕に全く力が入らないことに気付く。
 身体を起こそうとするが、勝手が分からず上手くいかない。

「おれは……おれはルキ……」

 枯れたような声が出る。

 自分の名を思い出すが、なぜここにいるのか、前に何をしていたのか覚えていない。
 起き上がれず、諦めて空を見ていると、砂を蹴る足音が近付いてきた。

「どうしたの?」

 声がした方に頭を向ける。
 白いローブを(まと)った女が、おれを見下ろしている。

「腕が動かないんだ」
「それは大変ねぇ、起こしてあげるよ」

 女に支えられて、おれは砂浜に座る。
 おれの横に女が座り、(つぶや)く。

「私はリリシア」
「そうか。ありがとうリリシア」

 ふたりでしばらく海の向こうの、空と海の色を隔てる線を眺める。

「あなたは何て呼べばいい?」
「ルキだ。それしか覚えてないんだ」
「私も。自分の名前しか思い出せないの」

 おれ達は目を合わせて、笑う。
 ゆるい風がリリシアの長い髪を揺らす。

「ねえ、これからどうしようか」

 おれはもう一度、辺りを見渡す。
 砂浜は広く長く続いていて、その先の景色はよく見えない。

「歩こうか」

 足に力を入れて立ち上がる。
 ふらついたおれの身体を、リリシアが受け止める。

「私が支えるわ」

 そう言って、おれの顔を見る。

「何でだろう、とても懐かしい気分なの」

 リリシアが微笑む。
 おれ達はどこに行けばいいかも分からない。
 自分達が何者なのかも分からない。
 それでも、歩いて行かねばならない気がする。
 ずっと、そうしていた気がする。

「リリシア、行こう」

 ゆっくりと、おれ達は歩き出す。

 <了>
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