第27話 砂漠の都

文字数 1,757文字

 渇き切った土がひび割れ、干涸(ひから)びた低木の点在する荒地で、おれ達は4頭の風馬(ペガサス)()せる。
 すぐ背後には多足の魔物の群れが迫って来ている。

「スワビ、一番でかい蜘蛛に地幕(ちまく)の矢を!」
「任せてぇ!」

 スワビは風馬(ペガサス)の上で振り向き、土の魔術のかかった矢を放つ。光を(まと)った矢が魔物の手前の荒地に刺さり、土壁(つちかべ)を生成する。
 速度を上げていた巨大蜘蛛(ビッグスパイダー)はそのまま土壁にぶつかり衝撃で動きを止める。
 残った小さな土蜘蛛(スパイダー)が3体、速度を落とさずに迫ってくる。
 小さいとはいえ人の大きさほどはあるので、追いつかれたら風馬(ペガサス)に噛みついて動きを止められてしまうだろう。

「パナタは左の蜘蛛、モアーニは真ん中の蜘蛛を狙え!」

 2人は(うなず)き、球状の魔道具(まどうぐ)を取り出す。
 おれの指笛を合図に、魔道具を後ろへ放り投げる。魔道具は荒地で跳ねた瞬間、炎を上げて爆発した。

 巻き込まれた2体の魔物が、残った脚をその場でばたつかせる。大きく(えぐ)られたその身から魔導珠(まどうじゅ)がこぼれ落ちる。
 残った無傷の1体は、なおもこちらに向かい進んで来る。

 おれは長剣(ロングソード)を構え、風馬(ペガサス)から後ろへ飛ぶ。身体を回転させながら、土蜘蛛(スパイダー)の口のすぐ右側に剣を突き立てる。そのまま荒地に、受け身をとりながら転がり落ちる。
 剣が突き刺さった土蜘蛛(スパイダー)は、しばらくその場で脚を動かし、黒い砂となり崩れ落ちた。

 遅れて巨大蜘蛛(ビッグスパイダー)がこちらに向かってくるのが見える。

「僕がやるよ!」

 パナタはそう言って、宙に両手で黄土(おうど)色の魔法陣を描く。
 巨大蜘蛛(ビッグスパイダー)の脚元から尖った石がせり出し、魔物を数十本の針石で串刺しにする。
 どれかが魔導珠に当たったのか、巨大蜘蛛(ビッグスパイダー)は生気を失い、表面からひび割れて荒地へぼたぼたと落ちていった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「だんだん魔物が増えてきたな」

 モアーニが肩をすくめて言う。口を開くと砂が入ってくるので、おれは渋い表情で(うなず)く。
 おれ達はまたそれぞれの風馬(ペガサス)(またが)り、砂混じりで乾いた風の吹き荒ぶ荒地を進んで行く。

 幾月か前に王都に戻った時、スワビは怪物に破壊された城下街の修復に携わった功績で、家を与えられていた。
 しばらくスワビの家に泊まっていたが、おれが今度は東へ行くと伝えると、さっさと家を売り旅の資金にしてしまった。

「やっぱり旅だよ。旅ぃ!」

 彼は、ひと所には居られないたちらしい。

 パナタは研究所で薬草の栽培をしていた。旅商人から、東の国に薬草よりも再生の効果の強い鉱物があると聞き、旅の途中だった。王都に寄ったところで、ばったりおれ達と出くわした。傭兵を雇っていたものの、それほど役に立たないのに、お金がめっぽうかかるらしく、おれ達に合流した。傭兵には渋られたらしい。

 モアーニはいつの間にかおれ達の後ろから付いて来ていた。特に何を言うでもなく、天幕を張って焚火に当たっていたところ、どこかの名産という干した魚をおれ達に寄越した。それはとても美味しく、特にスワビがそれを気に入った。もっとくれ、もっとくれと、彼に取り()いていた。

 おれ達4人は王都から東に向かい、数十夜を経て、平原を越え荒地に到達した。

 荒地の手前の大きな街で、人の歩く速さでは魔物の多い荒地を越えられないと聞き、風馬(ペガサス)を買った。風馬(ペガサス)は脚に風の力を(まと)っており、1日で人の何十日分もの距離を進むことができる。翼を持つが、高い所から落ちる時に滑空できるだけで、空を飛ぶことはできないらしい。

 移動の手段と食糧を準備して、おれ達は荒地ヘと踏み出し、何度かの魔物の襲撃を受けながらも進んでいる。

 だが、おれはまだ彼らに、砂漠にあるはずの呪いの話はしていない。
 パナタとは、少し呪いの話をしたことがある。おれ自身の呪いのことは言えなかったし、それは今も変わらない。

 砂漠に着く前には、どこかで話そうと思っていた。
 スワビの明るさに引きずられてなんとなく、ここまで暗い話ができなかった。いや、おれは単に恐れているだけかも知れない。呪いの話をしたら、どんな顔をするのだろうか、皆が離れてしまうのではないだろうか。そう思ってしまう。
 だが北の極地と同じく、呪いとの戦いとなれば命のやり取りになるはずで、それを彼らに伝えないのは騙し討ちの様なものだ。

 風馬(ペガサス)はおれの不安な想いも連れたまま、風を切るように走る。
 そして前方に、砂煙(すなけむ)る都クヌワラートが姿を現した。
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