サイキックの証明④

文字数 1,638文字


   ☆★☆★☆

「ミルクいれないの?」
「いれない」
「砂糖もいれないの?」
「いれない」
「苦くない?」
「めちゃ苦い」
「……」
「ああ、やっぱ駄目だ。砂糖いれよ。……スプーンとって」
「はい。……ごめんね、イライラしてるみたいね」
「いや、そんなことないけどさ」
「理系の人間は科学で割り切れないことがあるとイライラするんだって、教授が言ってたわ」
「……なんか、理系に対して凄まじい偏見がある感じだけど」
「そうかしら」
「そうだよ。大体、別にこの話は科学で割り切れないとかいう類の話じゃないぜ」
「テレパシーなのに?」
「だーかーらー。予想だって予想。誰だってする、会話の予想。言葉のキャッチボール」
「でも、そんな勘みたいなものじゃないわ」
「うーん……」
「……どうしたの?」
「……」
「……」
「あぴょーん」
「……」
「……」
「……それ、なに」
「いや、あぴょーん」
「……あの、だから、なんなの? あと、その手は何?」
「いや、オレなりに、あぴょーんな感じを表現してみました」
「……とりあえず、馬鹿みたいだから下ろして」
「はい。……今の言葉にちょっとオレ傷ついちゃいました」
「だって馬鹿みたいなんだもの」
「オレもそう思う」
「……で、なんなのよ」
「今、君さ、オレが言うことを予期できた?」
「え?」
「だから、オレが……あぴょーん、って言うのを予期できた? 予期というか、聞いた時に予期していた言葉だと思った?」
「……いいえ」
「予期できなかったんだ」
「だって、あまり突然脈絡なく言うから」
「そうだよ、脈絡なかったよ。ていうか、あぴょーん、なんて言葉が脈絡あって使われるような現場があったら拝んでみたいもんだね」
「きっと楽しいでしょうね……」
「いや、あの……。まあ、ともかく、君はわからなかったわけだ」
「何が言いたいのよ」
「いや、君がわからないのは当然なんだよ。誰も予想できる発言じゃない。てゆーか、あぴょーん、って言われて、ああそうですよね今日はあぴょーんな気分よね、とか、やっぱりあぴょーんには秋刀魚が合うわよねとか、近頃あたしあぴょーんに凝ってるの、とか返す人がいたら、怖い。そんな人いたら、オレなら逃げる。二度と会わないようにする」
「そうね」
「つまり、予想できる発言じゃないんだよ。だから普通の人は、何だコイツ? って顔をするわけさ。でも、もし君のテレパシーとやらが本当にテレパシーなんだったら、予想できるはずじゃないの? オレの言葉を聞いた瞬間に、あ、やっぱりあぴょーん、って言ったわ! とか思うんじゃないの?」
「……」
「な? 考えすぎだよ、テレパシーなんて」
「……あなた、あぴょーん、って思ってた?」
「……へ?」
「あなた、あぴょーん、って言った時、あぴょーん、って思ってたの? あぴょーんな考えに頭の中を占有されてたの?」
「いや、そんなことないけど。つうかオレ、そんな人間になりたくないし」
「そうでしょ、あなたはあぴょーん、って言いながら、あぴょーん、っていう考えは全然頭の中に無かったのよ」
「いや、そうだよ、あったらヤだよオレ。大体、あぴょーんな考えってなんだよ。やたら怪しいぜ」
「つまり、あなたがあぴょーんと言いながら心の中で考えてたことは、あたしをどうやって説得するか、テレパシーなんて間違いだと決めつけるか、ってことじゃない。だからあたしには予想できなかったのよ。あなたはあぴょーん、なんて思ってなかったんだもの」
「いや……でも、そういう単語――だかどうなのか知らないけど――使ったってことは、それを考えてたからじゃないの?」
「そういう思考があっても、きっと砂粒みたいなものよ。他の思考の方がずっと大きかったの。だからあたしは言葉を読めなかったの。だって考えてることと全然違うんだもの」
「……」
「どうしたの?」
「……頭痛くなってきた」
「バファリンいる?」
「たのむ」
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