サイキックの証明⑤

文字数 1,384文字


   ☆★☆★☆

「……あぴょーんのことだけどさ」
「こだわるわね。気に入ったの?」
「ちょっと」
「なんか、ちょっとデートを控えたい感じね」
「それは勘弁してよ。……でさ、オレさ、あぴょーん、って言った時さ、君の次の発言がわかったんだよね」
「わかった?」
「うん。それなに? っての。聞いた時、ああ、言うと思った、って思ったぜ」
「ふうん」
「つまり、オレは君の心を読んだわけだ。テレパシーだよ。……変だろ?」
「そうかしら」
「そうだよ。こんなんだったら、誰でもサイキックになっちまう。いいかい? オレはあぴょーん、と言ったんだ。そしたら君は困る。何言ってるんだこいつ、頭狂ったんじゃないか、と思う。だよな?」
「そうよ」
「そんなあっさり肯定しないでよ」
「だってそうだもの」
「わあん。先生、こいつがオレのこといぢめるよお」
「はいはい話そらさなーい」
「まあともかく、そうとしか思いようがないわけだよ。オレの突然のあぴょーん発言に、なんだこいつ? と困惑する以外の感情変化を起こす人がいるとは思えない」
「たまにはいるかもしれないわよ」
「どんな風に思うっての?」
「ああ、なんか素敵……とか」
「あまりそういう人に好かれたくないけれども」
「あたしは違うから安心しなさい」
「そうする。ま、そんなにいない、ってことは認めるだろ? つまりオレはあぴょーん、て言うことで、相手の感情に対して縛りをかけてるわけだ」
「縛り?」
「そう。こちらの発言、態度によって相手の感情の変化をある程度制限するわけだ。つまり、心の変化だよ。だから、あぴょーん、って言って相手が困惑したのを指して、あ、オレ困惑すると予期してた、っていうのは馬鹿らしいだろ? 当然のことなんだから。そうじゃなきゃおかしい」
「うーん……そう、なのかしら」
「そうだよ。君の場合だってそうさ。自分の言葉で相手の感情や次の言葉を制限して限定しつつ、その限定した範囲内のことを予測したと言ってるんだよ。つまり君は、相手の感情ベクトルにr(cos(θ-φ)+isin(θ-φ))を掛けておきながら、(cosθ+isinθ)方向のベクトルだ、なんて当然のことを、予測した、と言ってるわけだ」
「……わけわからないこと言って煙に巻こうとしてない?」
「ちょっと」
「なんであなたは日常会話にベクトルやら複素数やら三角関数やらを持ち出すのよ」
「友達は微積分とかも使うけど」
「……積分するの?」
「うん、今までの話を積分すると……とか。使わない?」
「きっぱりと使わないわ」
「そかな。でも、そいつ東大行っちまったよ」
「なんか……世も末ね」
「まあさすがにマクロ―リン展開とかは使わなかったけど」
「……」
「どうしたの?」
「……あたしにもバファリン頂戴」
「はい」
「あなたと話す時はバファリンを常備するようにしておくわ」
「それはどうも。で、話を戻すと、そういうことさ。単に予想してるだけじゃない、コントロールしてるんだよ。だから相手の発言を読んだ、なんて思えるのさ」
「なるほどね。……コントロール、ね」
「そ。こんなん、みんな無意識のうちにやってることなんじゃねえの? 考えすぎだよ」
「つまり……」
「うん」
「人はみんな、サイキックだということね?」
「……」
「……」
「……は?」
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