サイキックの証明③

文字数 1,397文字


   ☆★☆★☆

「……信じてくれないんだ」
「信じるもなにも、なあ。結局、なんの話なのさ。わけわかんねえよ」
「まじめに聞いてよ。信じたくないのはわかるけど」
「いや、信じたくないも何も、テレパシーだなんて、な」
「科学的じゃない、って?」
「まあ、そうかな」
「世界中に話があるじゃない。双子のテレパシーとかも研究されてる、って聞いたことがあるわ」
「オレもあるけどさ、なんも証拠がないじゃない。……なんだよ? その哀れんだような顔は」
「科学で解明できないことは何もないと思ってるのね。典型的理系タイプだものね。しょうがないわよね、ああ可哀想な人」
「いや、あの、頭かかえていやいやしないでくれる?」
「だって、あなた、頭堅いんだもの」
「堅いとか柔らかいとかの問題じゃないと思うんだけども。第一、君の言ってること、テレパシーでもなんでもないじゃないか」
「どうしてよ」
「人の言うことを聞いて、それを予期してたと気づく、って言ったよね?」
「そうよ。無意識に人の考えを読み取ってるの」
「いや……それってさ、ただの予想と違うの?」
「予想?」
「つまりさ……喋る時って、自分の発言に対する相手の発言を、無意識に考えてるじゃない? オレがおはようございます、って言えば、相手もおはようございます、って言うだろう、みたいな」
「おはー、って言うかもしれないわよ」
「いや、そうかもしれないけど。でも、予想してる発言は一つじゃなくて、おはようございます、おはー、おひさしぶりです、今日も冷えますね、ゴミの回収車はもう行ってしまいましたか? とか、そんなんを色々と、考えているんじゃない?」
「最後のはレアだと思うけど」
「よく出し忘れるんだよ」
「実家にいた方が良かったんじゃない?」
「そしたら君がこうやって泊まりにこれないだろ?」
「オオカミ」
「ひでえな。……えっと、なんだったっけ」
「ゴミ回収車」
「そうそう。だから、そんな風にたくさんの予想を持っているわけじゃない? んで、相手の発言がその中の一つと同じだったりしたら、あ、言うと思った、みたいな、そんな感じになるんじゃないの?」
「つまり?」
「つまり、だから、君のテレパシーとかいうのもそういうことなんじゃないの?」
「違うわよ」
「なんでさ」
「だって、そんな予想で当たるようなのと違うの。そんな賭けみたいのと違うのよ」
「確実にわかる?」
「絶対確実、とまでは言わないけど、結構ね」
「絶対確実には、心を読めないわけだ」
「それは能力が弱いせいなの。それかもしかしたら、読みすぎで頭がパンクしないように、無意識に自己制御してるのかもしれないわ」
「いや……」
「それに、心を読むのって、いいことばかりじゃないじゃない? あたし、本で読んだことあるわよ。えっと、なんだっけ、宮部みゆきの……」
「『龍は眠る』?」
「そうそう」
「あれは小説のお話だよ」
「実体験に基づいた話かもしれない」
「……君は宮部みゆきがサイキックだとでも言うつもりなのかい?」
「そういうわけじゃないわよ。ともかく、他人の心を読みすぎることであたしの心が傷つかないよう、自己防衛してるのよ、きっと」
「いや、あのさ……ああ、もう。疲れるなあ、なんなんだよ」
「ごめんね」
「……いや」
「あ、コーヒー沸いたみたい。あたし淹れるわね」
「……」
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