目覚まし時計の証明⑤

文字数 1,109文字


   ☆★☆★☆

「なあ、なんかオレら、滅茶苦茶馬鹿みたいじゃないか?」
「そう?」
「そうだよ。あー、寒っ!」
「ええい離れろオオカミ」
「いいじゃん、あったかいだろ?」
「……ともかく、漏れてなかったでしょ?」
「ああ、まあな。このクソ寒い中、外で頑張った甲斐はあった……わけだ」
「自信なさげね」
「そりゃあ」
「でも、隣の部屋の人、不審そうな顔してたね」
「そりゃそうだろ。いきなり訪ねてって、朝、目覚ましの音聞こえません? だもの。不審がるに決まってんじゃん」
「まあ、あまりお付き合い無いからいいけど」
「いいんですか」
「とにかく、漏れてなかったでしょ?」
「うーむ」
「これで納得してもらえた?」
「隣室には漏れてなかった。窓から外へも漏れてなかった」
「部屋の中だけだわ」
「寝室とリビング、ね」
「リビングにも植物は無いわよ」
「冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、ストーブ、テーブル、椅子……」
「音は聞けないわね」
「このバスケットは? 林檎に、蜜柑に」
「木から切り離したら死んじゃってるんじゃない? 養分も何も供給してないんだし」
「でも、熟れたりするのって、生きてるってことじゃない?」
「熟れるのは生体活動とは違うわ。死後硬直、っていうか、死後軟化?」
「……蜜柑が熟れてくるのは、人間が死後硬直するみたいなもんだって言うの?」
「似たようなもんじゃない?」
「……なんか、しばらく果物を食べたくない感じだよ」
「他には?」
「冷蔵庫、開けていい?」
「頑張るわねー」
「負けず嫌いなんだよ」
「ま、いいけどね」
「んじゃ、お言葉に甘えて。お宅の冷蔵庫はいけーん」
「……何かある?」
「……タマゴ」
「暖めても雛は孵らないわよ」
「牛肉細切れ」
「細切れに耳は無いわ」
「豚腿肉四百グラム。二百五十円」
「特売品に耳は無いわ」
「セロリ。白菜。人参。椎茸。レタス」
「お亡くなりになっております」
「蒟蒻ゼリー! アロエヨーグルト! ねるねるねるね!」
「ほほほほほ」
「くそお、何かないか何かないか」
「諦めなさい」
「何かないか何か――あ」
「……何よ。そのボウルは……えっと」
「アサリ」
「ああ、アサリを水に浸して入れといたんだったわ。でも残念。とっくに――」
「――生きてる」
「……え?」
「生きてる! 動いてる!」
「馬鹿なっ」
「これいつ買ったやつ?」
「……一週間くらい前。貰い物なんだけど」
「長生きするもんだなあ。ま、一週間だったら、十分目覚ましの音を聞いてるはずですな」
「……アサリに聴覚ってあるの?」
「……」
「それが問題でしょ?」
「……調べてみよう」

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