サイキックの証明⑥

文字数 1,496文字


   ☆★☆★☆

「あのー」
「なに?」
「わけわかんないんですが」
「あなたが言ったんじゃない」
「なにを」
「人は相手の思考をコントロールしてるんだって」
「はあ」
「つまり、相手の心をコントロールする能力者、ってことよね」
「能力者」
「なるほどね、それは考えなかったわ」
「能力者」
「あなたが言いたいのはこういうことでしょ? 人はみんな無意識のうちに相手の心をコントロールする能力を持つ能力者で、その結果として相手の心を読み取れるんだ、って」
「いや、なんか、オレが言いたかったことと、欠片もマッチしてないような」
「そう? でも、きっとそういうことなのよ。人はみんな無意識のうちに相手をコントロールしてるんだけど、それに違和感がないのよ。あたしはたまたまそれを意識してしまっただけなんだわ」
「いや、あのさ」
「でも、テレパシーそのものも、あるんじゃないかしら。言葉――つまり呪文を使って相手の心をコントロールしなくても」
「呪文」
「だって、呪文を使わなくても、相手の心が読めることだってあるじゃない? 話したりしなくても。それ、よく考えると、テレパシーなんじゃない?」
「いや……単に、予想……」
「あなた、今、こんな話早くやめにして、早くベッドにいきたい、って思ってるでしょ?」
「いや、思ってないよ」
「……ほんとに?」
「……うん」
「……ほんとにほんと?」
「うー。そう思う気持ちもある気がするけどさ、卑怯だよ。そういう考えもある、ってだけさ。考えなんてたくさんあるんだから、そのうちの一つを当てたってだけじゃない」
「つまり、たくさんの思考のうちから一つを読み取った、ってことね?」
「……」
「なるほどね」
「あのさ」
「なに?」
「もし君がさ、あなたは今、鯖の味噌煮が食べたいと思ってる、とか言うとするよね?」
「言わないけどね」
「そしたらオレは、鯖の味噌煮が食べたい、って思ってることになるの? オレの無数の思考の中に鯖の味噌煮があった、って、君は言うわけ? つまりさ、そんなたくさんの思考の中から一つを読み取った、って言ってテレパシーにしてたら、なんでもかんでもテレパシーになっちゃうんだぜ。おまえは眠りたがっている、おまえは阿波踊りをしたがっている、おまえはマックよりモスが好みだ。オレがどんなに目が冴えててアンチ阿波踊りで毎日百円のバーガーを食ってても、いや、無数の思考の中には、眠りたがっている因子や、反発しながらも密かに阿波踊りに心惹かれる気持ちや、実はモスのトマトに誘惑される気持ちがあるって、そういうのかい?」
「ちょっと落ち着いてよ」
「ぜーはーぜーはー」
「よくそんな意味不明な例えを瞬時に思いつくわね」
「……とにかく、これがテレパシーだっていうのかよ?」
「うーん」
「違うだろ? そう言われると、そういう気持ちもあるのかな? って思っちまうってだけのことさ。オレは別にベッドに行きたいと意識してはなかったけどさ、そう言われると、ああそういう気持ちもあるのかな、って思っちまうだけ。それでテレパシーだなんて変なんだよ。言葉で操るとかいう以前に、なんとかと思ったでしょ? って本人に確認する時、否が応でもその人にそういう感情を付与することになるだろ? それを言い当てても、そんなん心を読んだことにはならないだろ?」
「うーん。感情を付与、ね」
「……うん」
「つまり、これも、コントロールする能力だっていうこと?」
「……」
「なるほどね」
「……オレ、なんか墓穴、掘った?」
「さあ」
「……」
「だいじょぶ?」
「……もういい」
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