17.Ykre.005
文字数 1,552文字
~♪
墓を建てたと思ったらまた死臭漂う場所に来てしましましたね。
死臭というものは身体だけでなく魂に刻まれるものです。
妙なものを引き寄せたくなければ、可能な限り避けて通るのが賢明でしょう。
最も、引き寄せたいというなら話は別ですが...
~♪
バラバラの死体が転がっているわけではない。
先のアクロイドの攻撃は凄まじく、肉片すら残らないほどだ。
代わり、船内中に文字通り塵と化したボウゲシャ達の粒子レベルに分解された断片データが漂っている。
姿形こそ見えないが、死屍累々である。
深い極まりないものだが幸いここは電子空間だ。別の区域に転移すれば話は済む。
空間のクリーンアップをしてもいいが、敵による改竄と侵入の証拠にもなるためこの空間は敢えてそのまま残しておく。
「ウアンさん、データを送ります。」
適当に場を移したユキは通信回路を開いた。
「受け取った。先の戦闘映像か。最も、100億分の1倍速にしなければ何が起こってるかさっぱりだがな。」
「この義体のログは1000垓fpsで記録されてるので、それぐらいならヌルヌル画質です。」
少し自慢げなユキを余所にウアンは続ける。
「で、この映像データをどうしろと?」
「トレグナンにいた政府を含めた中枢管理機関はほぼ壊滅。でも他の船ならまだ残っているはずです。当てはありませんか?」
「なるほど。軍事防衛艦ヴェイラーチェなら防衛機関が残っている。管理機関ではないが、マンパワーの面からも今はそこが適任だろう。データを送ればいいんだな?」
「えぇ。それとトレグナンの中枢壊滅の状況も一緒に伝えてください。我々からいきなり市民へ公表するより、シークス文明の然るべき機関を通して発表した方が市民の信頼も得やすいはずです。
ただ、汚染されていたとは言えトレグナンの電子空間を吹っ飛ばしたことは伏せておくべきでしょう。 そうですね...敵対勢力撃滅時の自壊現象を当局員が見事に制御し、居住区域への損害をせき止めた! というのはどうでしょう?」
はぁーーと深いため息が聴こえてくる。
「いいだろう。オーンにやらせる。だが、我々はまだシークス文明と表立った外交は行っていない。肩書きはシークス政府外務省特務機関とする。外文明の調査をする組織で此度の敵性勢力の調査を秘密裏に行ってきた、ということにすれば大方辻褄はあうだろう。」
「おぉ~っ!お主も悪よの~♪」
「また背中に一発もらいたいか?」
「ご遠慮いたします...」
(全く、冗談の通じない人だ...)
「で、ウアンさん。本題はここからです。」
二人の間に流れる空気が変わる。
「そろそろ、こちらの問題もケリをつける時か。」
ウアン頭取も既に話の筋を理解しているようだ。
アクロイドがボウゲシャを一掃した船ノームはシークス船団の演算処理を担っている。市民が暮らす電子空間もこのノームの演算がなければ成り立たない。
だからこそボウゲシャたちはこの船を侵入経路として最初に目を付けた。
そしてついさっきまでほぼ占領状態にあった。
シークスはともかく、外文明交信局がこれに気づけないのはおかしい。
最初にシークスに来たときもオーン局員の姿をした偽物から襲撃を受けた。
そう、外文明交信局シークス支部に潜む内通者。おそらく、その内通者が情報を偽装している。これを片付けない限りこちらは終始後手に回る動きを強いられることになるだろう。
「とりあえず、ノームは取り返したのでこれでメインの侵入経路は塞がりました。オーン局員がヴェイラーチェの防衛機関にデータを開示すれば、ある程度の抑止力にもなるでしょう。しばらくは時間が稼げます。」
「では、」
通信越しに微かな笑みを浮かべる二人。
「お片付けの時間だな。」
「お片付けの時間です。」