12.Neopolteria Nidus:re.003.5 EXEC…
文字数 4,408文字
そうボヤキながら世渡を地面に刺し後ろのバックポケットからシガレットケースとライターを取り出す。
シガレットケースから愛飲している煙草を現亙を持っている右手で器用に一本摘まみ口に咥えまた右手で器用にライターを持ち火をつけて最初の一口を吸う。
……ふぅー生き返るー……
煙草を咥えて吸いながらシガレットケースとライターを元の場所に戻し再び世亙を左手に持ち地面から抜く。
どうやら煙草を吸うまで時間は待ってくれたのだろうか?いやこれは違うな。面食らって少し固まっているだけか。
ならばこのまま行ってとりあえずぶん殴ってみるとしよう。
「パワーセル良好、出力安定確認。では行きますか」
右足で地面を蹴りそのまま高さを変えず、滑るように水平に移動していく。
両手両足に付いているユニットはパワーアシストユニットで使用者の筋力を何倍にも上昇させる。
それを起動して筋力を上げている為、一部の武闘家達が行う歩方を真似して女王に近づき現亙で右から左に振り抜く。
「ちっ…!複合分離装甲か……!」
思わず毒づく。
現亙が当たったのに砕けたのは殴った部分だけであり全体が崩壊していない。
ここで皆さんは思うだろう。現亙が振るわれたなら空間が削れている筈では?と。
本来の現亙ならその通りなのだが銀翁玉用に調整された現亙の今の状態……便宜上『朔望』と呼んでいるこの状態だと現亙の攻撃能力は『当たった物質を共振させその崩壊振動数に合わせる事で物理崩壊を起こす』程度しかないのだ。
故に分離できたりユニット付けされているものに対しては一部分しか効力を発揮できずににいるのだが、今回はそうだったようで一部しか破壊できなかったのである。
攻撃に対する反応なのか防衛機構なのかは分からないが女王のスカート部分から複数の球体型エネルギー弾が発射される。
「…!シールド展開!」
飛びあがり現亙を目の前に掲げ球体状にシールドを張る。直後エネルギー弾が一斉に爆発し銀翁玉を吹き飛ばす。
「危ない危ない……AoE見えてなかったらモロに当たってたな」
AoE……Area-of-Effectの略称でこの範囲に攻撃が行われるよ!という表示なのだがこれはsystem:DAEMONを起動時に碑喰知に接続されている事、観測ユニットを展開している事が前提条件であり、これを満たしている限りはあらゆる次元、過去、世界線からの攻撃を事前に範囲として通知が可能であり、この通知はHMDに3Dとして表示される。
「ふん!大した事はないではないか。本体が貧弱とは笑えるのう」
調子を取り戻したのか女王が言い放つ。
全くその通りである。どれだけ技術を集め使用しようが本体はただのエルフだ。しかも魔法?そんな事より科学だ!蒸気だ!を推し進め蒸気化学文明を築いた産業エルフの一人だ。戦闘力なんてこれっぽちもないのである。
「どうするね?あの女王の言う通りだがこのままだとじり貧だぞ?」
「まぁそうなんですが……ちょっと違和感というかおかしな所がありましてね?それを探ってます」
ウアンが大丈夫なのか?と気遣う。
じり貧なのはわかっている。だがこの違和感はなんだろうか?AoEの表示が少し遅く感じるのだ。
本来なら攻撃がくる数秒前に表示され確実に回避を行える筈だがそれがさっきは攻撃がくる1秒前くらいに表示された。
探れ……何か違った事がある筈だ。
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女王の攻撃を紙一重でかわしながら違和感を探る。
相変わらず攻撃の1秒前からしかAoEは出ず、基本的に張っている防御機構は役に立たずシールドを一々張らねばならない。
……そういや祥示とエリザベートは城がどう見えていた?確か両者とも違って見えていたはずだ。
「……ウアン頭取、この城の残骸はどう"視えて"いますか」
「何を言っているんだ?」
「いいから答えて下さい。違和感の正体かもしれません」
「……シータスにあったとされる城に見えるがそれがどうかしたのか」
……!
答えにたどり着いた感覚がする。
4人全員が違う答え……遅れるAoEの表示、スカートなのに複合装甲と同じ反応……これを一つにまとめると……
「視覚に妨害術式が入っていると思われますね」
「…成程そうか。……銀翁玉、君は術式破壊は可能かね?」
「残念ながら無理ですね。お願いしても?」
「任せたまえ」
ウアン頭取がパチンと指を鳴らすと見える全てが硝子のように砕けて落ちる。
———死体が折り重なっている。
————腕が有りえない方向に曲がった死体がある。
——————延々とありとあらゆる拷問をされた死体たちが折り重なり城になっている。
崩れた残骸、地面。ありとあらゆるものがシータスの住民であったのだろうモノで埋め尽くされた世界が広がる。
絢爛だった女王の姿は金属質の肌、複合装甲の内側に銃座を隠した殺戮機械に代わっておりその胴体には四肢を切断され達磨になった姿のモノが埋め込まれている。
あぁ成程……エリザベートが"視ていた"状態が正常な状態でありこの電子空間に入った瞬間からエリザベート以外は妨害術式をかけられていたのか。
「悪趣味だな」
「……反吐が出そうだ」
二人とも妨害術式で妨げられていた本来の状態を見て難色を示す。
その光景はあまりにも酷くスプラッタな光景であった。
「ほう?仕掛けていた術式を壊したか。どうじゃ?美しいであろう?」
愉悦に浸っているような声で女王が言う。
悪趣味を通り越して清々しいまでに下衆な感性にもはや言う事すらないとはこのことだろうか。
「解析結果がきました。……この電子領域はあの女王が殆ど掌握していますね」
「だろうな」
「ただコアだけはまだなんとか無事みたいですね。どうします?」
「……破壊を許可する。もはやこれはどうしようもない」
観測ユニットからの情報を纏めた碑喰知からの通知をウアン頭取に告げると忌々しそうな声で破壊命令を下す。
シータス支部のウアン頭取は破壊許可を出し、碑喰知への接続は既にされているので問題はない。後は他の局に申請し了承を得るだけだ。
「【千亥通及び覩鐘(トガネ)に接続……確認。電子空間破壊申請……承認を確認】」
千亥通と覩鐘に申請を行う。様々な機能を取り入れた世渡と現亙だが能力の都合上一々管理AIに接続、了承を得なければ使用を許可されないというのは中々に面倒だ。
だが申請さえ通ってしまえば能力は使いたい放題なので仕方がないとも言えるだろう。
「System Change」
白く発光し明滅を繰り返し観測情報を纏めていた世渡と現亙の発光色が赤黒く変わる。
その色はまるで血が固まったような、あるいは鉄錆が酷くなった色の様にも見える。
「System:Deus Ex Machina起動。Mode:Executioner」
———Deus Ex Machina———Executioner———
Deus Ex Machina……日本語で機械仕掛けの神。Executioner……処刑人と言うあまりに物騒な名前。
System:DAEMONが仲介者のそれならばこれは神、つまりはESが定めた処刑人を差し、これをまとめると「お前は死刑確定だから処断するね?拒否権はない」という状態だ。
世亙と現亙のスペックも名の通り変更……いや、定めたリミッターを限界まで引き上げているので世亙は本来の層と層を繋げるという能力があらゆる時空、事象、平行軸。次元を強制的に接続するものに。現亙は空間を削るというものから総ての空間、事象、次元、平行軸、可能性を消去するというものに引き上げられている。
「ふん!今更何をしようというのだ!」
そう言い放ち女王は弾幕を張る。
爆発する球体型エネルギー弾やエース達……本来の姿を映し出されたそれはこの電子空間の防衛機構であろう者達の死体に制御ユニットを刺しビットとして使われている死体から当たれば即消去されるレーザーが放たれる。
避ける事が不可能とも言える隙間すらない弾幕が四方から殺到する。最早この状況に置いては苦し紛れ……いや、最後の足掻きにしか見えないのだが。
「現亙召喚」
12機の現亙が円形に召喚され、3機ずつが三角形に陣形を組み回転し弾幕を空間ごと削り取る事で防ぐ。
システム変更でDAEMONによる先読みが出来ない状態だが関係ない。空間を削るという絶対防御による守りで弾幕を防ぎ左手の世渡で女王に向けて差し右手の現亙を左肩まで振りかぶり攻撃の構えを取る。
「残念だが当てたければ7次元と因果と可能性軸を超えてこい……『汝、黒鉄の杖をもて。彼らを打ち破り、陶工の器物のごとくに打ち砕かんと。されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ教えを受けよ。』……次元斬!」
聖書の一部をトリガーにして次元を断絶する斬撃を現亙を左から右に振り抜きを繰り出す。
それは必定の一撃でありあらゆる因果、平行軸、次元、空間すら関係なく両断する一撃。
空中にいた死体ビット4体が消滅する。
右に振り抜いた現亙をそのまま下から上に振り上げ女王の両手を肩から消滅させる。
世亙起動。空間を強制的に接続し女王の胴体目前までの空間を繋ぎ跳躍。右から左に現亙を振るい上半身と下半身を切断、泣き別れをさせる。
「では審判の時だ」
世亙を女王の胸部に突き刺し鞄に挿してある試験管を取り出して液体を女王に全てかける。
液体がかかった瞬間に悶え苦しむ女王。それもその筈だ。この液体はエリザベート・ベーカリーの体液を製錬して作り出した液体であり効果は液体をかけられたものが持っている情報を総て洗われた挙句に吐き出すという厄介極まりないものだからだ。
世亙を突き刺したのはその吐き出された情報を世渡に移しそのまま碑喰知に流すためである。
「消えたまえ。死者を弄ぶ愚かな女王」
情報の抜き取り終えたので世亙を引き抜き現亙を一閃し女王を消滅させる。
後はこの浸食された空間を破壊すれば終わりだ。
「トモゾウ君には苦労をかけてしまうがまぁ……お詫びの品持っていけばいいか」
そう若干申し訳なさそうに苦笑いをし右手の現亙を眼前に移動させ術式の起動準備をする。
「世亙召喚。Code『EXEC_Singular point_Event_Erasing』」
12機の世亙が召喚され上に6機、下に6機配置され三角錐を描き砂時計の形を作るように回転する。
周囲を回転していた12機の現亙もその三角錐の中心、丁度頂点が重なる所を中心として回転する。
直に臨界点が訪れその後この電子空間は総て消去されるだろう。
その前にこの場所から移動しないと巻き込まれて消えてしまうので移動しないといけないが……まぁ、問題はない。
「空間接続、次元潜航、空間跳躍開始」
世亙を使い電子空間から基底現実の次元へ体を移行させウアン頭取がいる空間に跳躍する。
……あぁ疲れた。時間も来たようだし次の者にこの後を任せるとしよう。