23.Neopolteria Nidus:re006
文字数 4,979文字
これで空間ごと消されない限り2人は安全だ。
さて、そろそろ義体が私を形作るのが完了する筈だ。状況開始といこう。
「全戦闘術式起動。システムはDeus Ex Machina、Mode:Executioner。次元潜行開始」
電子空間から現実空間へのダイブを行う。
間に合ってくれよ。
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「……ふぅ!ふぅ…!」
八つ当たりの如く地団駄を踏み感情を落ち着かせるブランシェ。
そうだ、『奴等』が次の局員に入れ替わり再びこの空間まで戻ってくるには少し時間がかかる。そのほんの少しの間に迅速かつ的確に行動しこの状況を打開しなければならないのだ。
無力化し床に転がっている2人を処理しこのノームから撤退、上に連絡をとらなけばならない。
素早くピオスに近づきスリヴァー・ブレードを構える。このまま腕を伸ばして突けばピオスは絶命が確定しそのまま体を捻り薙げばハビィも殺せる位置だ。
「では、さらばだ」
腕を伸ばしスリヴァー・ブレードがピオスに刺さる刹那、剣先に何かが顕れ弾かれる。
「何!?ならば!」
弾かれた勢いを利用しそのまま体を回転、勢いを乗せハビィに斬りかかるも同様に何かが顕れ弾かれた。
殺害は無理と判断し、ノームを脱出しようと空間転移を試みる。が、転移ができない。
バックステップを行い2人から距離をとる。
「出てきたらどうだ!いるのは分かっているぞ!」
「安い挑発だねぇ。まぁ、元からここに出る予定なんだけどね?」
ブランシェが先ほどまで居た空間が歪曲し銀翁玉が現れる。
その姿はまるで古の時代の魔術師や暗殺者のような姿をしておりフードで顔全体は見えないが口元は嘲笑うかのように歪んでいる。
「よりにもよって貴公とは……」
忌々しげにブランシェは言う。
便宜上妨礙者と言うが彼等が調べた地球支部のデータ、及びトレグナンで起きた戦闘で得たデータ。その中で最も乖離があるのがこの局員だ。
資料によればただの物理的な姿しか持たず地球の現地協力者という立場からお情けで装備を与えられていると思われるただの一般局員であり取るに足らない存在……その筈だった。
だが今目の前にいる奴はなんだ?クレリックと呼ばれるランクに与えられる服を着用し他局の統括AIに接続、専用とも言える改造を施しているとまできた。
それにあの情報観測装置、あれが1番厄介だ。
何処まで"視えて"いるかは知らないが自分とは相性が悪い、いや最悪とも言えるものだと判断できる。
ならば、とブランシェはこの空間を脱出するべく異層へ体を潜航し離脱しようとするが。
「次元位相ができない!?」
「エリーに変わる前に言っただろう?次元移行封鎖、空間固定、時間凍結と。残念だったな、騎士様?このノーム限定ではあるが私が許可しない限り次元転移、潜航も空間跳躍も出来ないし時間軸も全て閉じさせてもらったよ」
「禁術だぞ!分かっているのか貴公!」
「禁術?………禁術ねぇ…それは君等からしたらだろう?残念だが、私は職務上この術式の使用権限を有しているんだ。あぁそういや、まだ名乗ってなかったな。」
禁術の使用に対し激怒するブランシェに対し何言ってんだお前とばかりに嗤う。
そして改めて名乗ろうじゃあないか、私の『正式』な役職を。
「では改めまして。私……いや『我等』と言おうか。外文明交信局……正確には精神生命体高度文明ES中央機構所属、特異点・並行時間軸・世界線調査剪定及び世界線確定員及びEsランク"クレリック"の●○◉□■◆◇……おっと、銀翁玉だ」
そう言い慇懃に会釈を行う。
会釈をしたまま顔を上げブランシェ君の様子を伺うがおやおや?いないぞ?逃げた訳ではなさそうだし奇襲狙いで隠れたかな?
そう判断し体制を戻し戦闘態勢を取るとブランシェの声が響いた。
「だとしても!我が騎士道を、シータス繁栄の道を邪魔するのならば切り捨てる!見切れるものなら見切って見せろ!」
その声とともに至る所、逃げ場なんて存在しないとも思えるくらいの密度で斬撃が飛んでくる。
その斬撃に追従するように同数のブランシェも分身し襲ってくるが………だけど、だけどね。まだ"甘い"
飛来した飛ぶ斬撃は目の前で全てが消え失せ追従してきたブランシェは剣が銀翁玉に触れる後数cmの所で止まっている。
「押されている……だと!?」
苦悶の声を上げながら必死に剣で切ろうと押すが何か巨大なものに掴まれたようなようにでびくともしない。
「なんだ、君が"観測"しているのは己の行動から起きる分岐の初めしかないのか。残念だよ、本当に。一応種明かしをしておこうか?」
「結構!」
剣を引きそのまま距離をとる。
ブランシェのその行動に銀翁玉は未だに一歩も動かずただ呆れたように肩を竦めた。
「あぁそうそう。義体の術式時間切れを狙おうなんて事はやめた方がいいぞ?私は今この義体に登録されている中で一番燃費が良くてね?それに、だ。君が見たシータスの未来がなかったという事が少し気になってね?」
「何…?」
何がおかしいんだと訝しむブランシェ。
確かに自分が"視た"未来はシータスが滅んでいた。……いや待て、その未来には地球支部の連中がいたか?
いやいなかった筈だ。……なら私は何故あの『未来』をみていた?
「まぁどちらにせよ君は逃げられないんだ。小話くらいに付き合っても損はないだろう?」
ブランシェは戦闘を崩さないがまぁいいだろう、話を続けよう。
「『おかしい』んだよ。このシータスに起きている事全てが。まず一つ、私達が勘付かなかった」
「それはこのシータスが貴公等から遠く離れていたからだろう」
「あぁすまない私達と言ったのが悪かった。【私達】"観測者"がだよ」
起きている事象がおかしいと言い、それは有り得ない。そちらが感知できなかっただけではないか?という反論に対し言い方が悪かったと訂正し続きを話す。
そう、おかしいのだ。
このシータスという船団が辿る歴史、その結末をこちらに来た時一度観測を行った。
だが結果は問題なし。この世界線は"確率上"起こる可能性があり多少の分岐こそあれど剪定と呼ばれるものではなかった。
だが今この状態はどうだ?
この滅びは本来辿りつく筈の終焉より早すぎるのだ。確かに妨礙者が関与し崩壊し文明が潰えていくという分岐点はあった。船団が"ナニカ"に呑まれ半崩壊になりそのまま発展もなく文明が潰える未来もあった。別にそれひとつひとつは問題ではない。
そう、分岐する位置、原因、時間軸がおかしいのだ。
大前提としてこのシータスという文明は、まずどのような事があっても"終わる"事は確定しておりもし文明がそのまま存続するという事が発覚した時点でそれは剪定事象になる。
故に今現在起こっている文明の崩壊が観測でき、それ故に行われているサルベージ作業については問題はない。
平行時間軸からみてもそうだ。収束地点こそ違えど文明が消えるという地点で1本の線になっている。そこも問題はない。
妨礙者の関与も数多ある平行時間軸の中に存在しそれ自体は直接の問題にはなってすらいない。
だが奴等が関与しこのサルベージが行われている最中襲撃がありそれが原因となりシータス文明が崩壊する。ここが問題だ。
そう、本来引かれている未来への線はここでおかしくなっているのだ。
確かに人員不足として地球支部がシータスに赴きサルベージ作業を手伝うという線は存在した。だがその世界線はサルベージ後ゆっくりと崩壊が進み約1300年後に崩壊するという非常に緩慢としたものなのだ。
その事をブランシェに話すと剣を下げ思案するかのように腕を組み手を下あごを持った。
「確かに貴公が観測した事象、そして私が観測した事象と齟齬があるようだ。……だがそれが証明とはならないのではないか?」
訝しむブランシェ。それは最もだ。観測した事に対する証明が出来ないのであればそれは空論である事に変わりがない。
だが悪魔の証明になるが故に話は平行線を辿る事は明らかであるが為に仕方がないが話を変えるしかないだろう。
「話が180度程変わるが君が今からでもこのシータスの未来を守りたいと思うのであれば、私の下に付かないか?」
「変わりすぎだろう貴公……何を言っているんだ?」
「何、簡単な事だよ?限定的ではあるが未来が観測できる故に君はまだ戻れる範疇の所に踏みとどまっているだろう?私の下に付けばその諸々が全て帳消しにできるからだよ」
「………は?」
「それに純粋に未来をある程度観測できる人員を増やしたいというのもある。……あぁ安心したまえ。罪だなんだのというのはハカセとかに比べれば塵以下だからね?」
「………そのハカセと言うのはナニをしたんだ」
「次元を一つ程滅ぼしてる」
「…………は?」
ハカセのしでかした事に呆れて果て少し放心するブランシェ。
いやそうだろう。犯した罪自体なくなる事に疑問が浮かび何故と思案を巡らせる前に銀翁玉の下にいる局員のやらかしの規模を聞いたのだ。放心しないほうがおかしい。
………いや本当にあの時は本当に苦労した。
「で、どうだね?YesかNoか。嘘偽りは何一つ言ってないという保証はできるがそちらでは判断はつかんだろう?だから妨礙者に組み入った時と同じように分体を作って起き給え。」
「もし、Yesと言ったならば?」
「諸手を振って歓迎しようじゃあないか!君専用の装備、術式も提供しよう。週休は3日、給料もあたり有給もある。ボーナスもあるぞ」
「これはまた好待遇だな貴公?」
「それはそうだろう?私の仕事内容が内容だけにそうもなる。で、答えは?」
「『一応』Yesと言っておこう。このシータスの繁栄こそ我が騎士道の根幹なれば」
「一応と言っている時点で肯定だよ貴公?……さて、そろそろウアン頭取が来るな…保険でもかけておくかね」
一応とは言え銀翁玉の下に付くことにしたブランシェ。
顔こそ甲冑で見えないが声の質が少し丸くなっており気を張る必要がなくなったのだ取れる。
そしてそろそろウアン頭取がノームに来るという事を観測し保険をかけておく事にした。
「分体召喚、セフィロトシリーズModel:ケセド」
【Model:ケセド召喚開始】
銀翁玉の目の前に似たような身長、装備をした人物が召喚される。
------ケセド
アバター、セフィロトシリーズに存在する一体の人物でその姿は少女のような、成人した女性のような姿をしており本来の服装で言うならば魔女のような恰好をしているアバターだ。
セフィロトシリーズには他に根幹でありセフィロトシリーズ原初のアバターであるエルフのセフィから始まりアンドロイド型のティファレト、バウンティハンター型のコクマー、魔女型のケセド、ハーピー型のマルクト、獣人型のゲブラー等が存在するのだが……閑話休題。
「意識転写実行」
【意識転写、実行します……完了】
ケセドに銀翁玉の意識を転写し分体が完成する。
「さて、私?いつもの通りにな」
「言われなくても分かってるよ私?同じ意識だろうに。インビジブル(透明化)実行」
手に持っている現亙と世亙を銀翁玉(ケセド)に渡しケセドは透明化を実行する。
すぐに姿が消えたのを確認し銀翁玉は瞼楽で観測を行いどれにも存在していないと認識させている事を確認する。
「あぁ……後、もしもに備えて君にも守りを付与しておくか。ビット起動、Mode:fireWall」
ピオスとハビィに付けたように現亙と世渡をブランシェに指定しシールドを付与する。二人との違いがあるとするならば現亙と世渡がブランシェの周りをを回った後両機の姿が消えた事だ。
「……感謝する」
「何、未来の部下を守るくらいしとかないとね?……さて、そろそろウアン頭取がこの空間にくるな。家の頭取に後は任そうかね」
そう言い銀翁玉は強制的に時間切れを行わせ次の局員にバトンを回す。