16.Ackroyd:001

文字数 1,853文字

退屈だった日常からおさらばっす!憂さ晴らしするっすよ―!

そして適当にぶん投げる!

 久しぶりの現実感覚にふと新鮮な感覚を覚えながらも、わたしは覚醒した。

「うーん、久しぶりに出てきたなあ。見てた感じ、今回は戦闘オッケーらしいし、いっちょ派手に暴れるっす!」
「君が次の…」
 ウアンがため息を付きながら見ていた。
「お、貴方がウアン支部長っすね。……なんすか、その目は」
 まるでわたしがアホで馬鹿で役に立たないようではないか。
「いや……外見で判断するのも申し訳ないのだが、少女のような体で暴れると言ったのでな……。何が起きるやら……」
「長というものなのに、見かけで判断するのもあれっすよ! ……いやこの台詞ずっと前に誰かに言われたな」
「それで、君は腕に自身があるのか?」
 もちろん! とばかりに胸を張る。
「……はあ。」
 深くため息をつくと、コツコツと踵を返した。

 ウアンと別れたわたしは、影からにゅるっとベーカリー先輩が出ることを知っていたので、とりあえず呼んでおいた。ハッキングはわたしの出番ではない。
 にゅるっと出てきたベーカリー先輩を、ノームのパスコード装置に押し付けた。
「ベーカリー先輩、これでいいっていってたけど、大丈夫っすかねえ……」
 暫くもしないうちに、アクセス許可のコードが出た。
「おー。ベーカリー先輩すごいっす! 今度甘いもの買ってきてあげようっと」
 ベーカリー先輩を影の中にしまうと、鼻歌混じりで歩き始めた。

「そういえば……銀先輩はでかいのをうつって話でしたねえ……。わたしがやってあげようっと!」
 いつもの銀先輩への苦労を少しでも軽減しようと、とてつもなくでかい花火を打ち上げることにした。


 ―――――一言で言おう。秒で見つかった。
 やはり敵の中枢部。援軍の手が早い。ルートから逆算するに、ノームはすでに「軍艦」へと姿を変えていたのだろう。そうと考えなければ早すぎる。
 殺せ! 殺せ! と声が響く中、わたしはヘッドフォンをゆるく外すと、取るに足らない縮地法で動き出し、一番奥の、新しい援軍の奴らの一人の顎を掌底で突き上げた。
 血しぶきがまう。しかし相手もプロだった。少しの動揺を見せたものは少なく、すぐに挟撃の形となった。
「引っかかったっすねえ……! 暴れられる……!」
 そういったわたしは、六大開拳の型を取り、一気に慣らし程度に加速した。

 一秒もたっただろうか? わたしが最初に首をとった妨礙者がやっと一人だけ原型を保っているほどの、陰惨な殺戮となった。ほぼ全員が塵と化していた。
「まあだ音速ちょっと超えたぐらいなのに、つまらないなー」
 もうちょっと本気を出させてもいいのに、とぶつくさ言いながら次の部屋の扉を開けた。

 居た。本気を出せそうな相手。
 巨大な猫のような、ドラゴンのような、犬のような、とりあえずキメラと呼ばれる感じの外見をしている鉤爪を持った人型たちが、無数。本当に大量に居た。
「……なるほど。先程のは斥候でもなくただの警備、ここから本気っすね……?」
 と呟いた独り言に、返答があった。
『ああ、ここから先は通すわけにはいかない。何があってもだ』
「へえ、そんな口が聞けるなら、相当強いんでしょうね!」
『もちろ―』
 刹那、わたしの掌底はキメラじみた人語を話す人型の『核』を捉えていた。更に加速する。亜光速、光速。超光速。停止。世界は止まった。わたしだけが動いている。
「一発じゃ死ねないでしょうから、楽に数億発は入れてあげるっすよ」
 この能力、『風精よ、消え失せよ』には謎が多い。自分では永劫の時の中で何発も撃ってる認識なのに、一度だけゆっくりと手を伸ばして相手に添えている様に見える。
 加速を急激に止めた。時間が戻ってくる。時が加速していく。いつやっても、慣れないが楽しい感覚だ。昔の相棒は、こんなことをしていたんだろうなと考えさせられる。
 司令官と思われる肉片が飛び散り始めるのには、体感一時間ぐらいかかった。だが加速していけば加速するほど、どんどん飛散していく。
 とてもとても手持ち無沙汰だったので、ついでに周辺の戦闘員、全てを塵と化しておいた。

「…………正直、拍子抜けっすよ」
 先輩たちから聞いている。これが本隊などでは、おそらくないのだと。
 ただし手先でももうちょっとこう……せめて抵抗ぐらいはしてくれないと困る。

 館内の掃除は終わった。軍艦? 呆れ果てている。これじゃただのボートだ。

「……でかい花火、どうやって打ち上げよ」

 とだけ残して、次の人へバトンを渡すこととした。
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登場人物紹介

【頭取外交官ユキ】Twitter

高次元精神生命体文明ESから派遣された外交官。



出身地であるESはあるゆる資源を必要とせず自由な生命活動を営むことができる完成された理想郷。

しかしながら、さらなる上位概念への探究は未だ継続されており、観測し得る全ての叡智を収集している。



自分たちとは別の出自を持つ外文明には強い関心を持っており、中枢機構の一つである外文明交信局を通して交流、保全、統合を行っている。

種の多様性を担保するため、外文明に対しては上位存在に依拠しない独自の発展を求めている。そのため進化を推奨しながらもテクノロジーを提供しないという回りくどい活動を行っている。




基底現実完全降下航行のライセンス所持者であり、その技術を用いて地球へ現界。外文明交信局地球支部を立ち上げ現在に至る。

電脳世界及び基底現実で使用している身体は自身が個人的に契約している千亥重工によって造られている。

地球では上位者として知られているが、出身地であるESにおいては平均的な一般住民に過ぎない。

【情報屋 銀翁玉-ギンオウギョク-】Twitter

エルフの森 静岡支部から出向しているエルフの情報屋。


外分明交信局の外交官ユキと契約を交わしており、現地情報、民衆の状態、外貨変動、予測される災害等を調査、伝達をする代わりにESに存在する叡智を借り受けている雇われ現地員。

【電脳交換手 祥示-ショウジ-】Twitter

地球人の女性と変わらない姿の少女と、その背後に控える御影鴉、そして御影鴉の下部球体内に収まった人形という姿。
一見、少女が主人で、御影鴉が従者であるような連想をしがちだが、実際にはそのどちらも主従で言えば従の立場のものである。


御影鴉の下部に収まっている機械人形のような物体が本体で、通常はスリープ状態にあり精神と知能のみが情報処理と演算に特化した状態にある。

少女──『アーミリィ』はコミュニケーションデバイスであり、必要に応じて外見通りの快活な『ロールプレイ』を出力する。

御影鴉は戦闘用義体として機能する。

状況によってはアーミリィのみを場に出し、御影鴉は本体ともども異相空間内に隠蔽することも可能。
逆に対話で処理できる状況になしとなればアーミリィを引っ込めて御影鴉のみとなることもできるが、この場合は本体は隠れない。


アーミリィのコミュニケーションは『快活』『軽薄』『能天気』『無責任』といった属性のものだが、本来の性格は内向的で慎重。

【エリザベートベーカリー】Twitter



生誕場所不明、年齢不明、身長体重不明、無機物か有機物かも不明という
種族から生誕に至るまでの経緯が全て不明の生きたブラックボックスという異端の生物。基本的な姿は人型だが彼女の本体は彼を形成している大量の四方体のキューブである。



本人が語る自称とも言うべき人生は全てが偉人や奇人の伝記の一部を移植され作られており、
およそ9割9分9厘が悪い意味の適当と嘘で作り上げられた偽の記憶を発言しているに過ぎない

帽子から生える触手に絶えず流れる赤い流動体は彼女、あるいは彼の周りを絶えず浮かび上がり続けているが
「接触しても特に危害はないよ?単なる私の血液さ」
と彼か彼女は語るが、外交官ユキに接触した際には彼女に数億回のハッキングが行われたという記録が残っており、
あの不明生命体の正体は特秘された情報を明らかにするという目的で作られた情報生命体ではないかと予測されている


『ありとあらゆる情報は全ての人間が知るべきである、隠す情報とはつまりそれだけで悪なのだ』


彼女が語る1厘の正しい記録情報より抜粋

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