20.Erre.002
文字数 2,441文字
身体機能が切り替わり深淵色の円形の蛹から再々誕したのはモノクロ柄の女性体の様な何かだった
少女とも言える顔をしているが、およそ180cm程の高身長と世紀時代の囚人柄の白黒の貴族形式のドレス
彼女が被っているトップハットからは触手としか形容するしかない、大きさは1m以上はあるだろう
帽子の鍔の様な部分からは赤黒い液体が絶え間なく垂れ流されているが、床にたまり場を作る事はない
彼ら…敵側からすれば電脳空間ですら存在が希少だろう、正に気が狂った者が出てきたと感じている
そしてそれは正しい、明確な敵対者達である外文明交信局の所属者の中では彼女、あるいは彼
かなり性能と生まれがおかしい事になっている、無論アクロイドというイレギュラーを除けばだが。
「さて二度目となる顕現となる訳だがこれまた相手がおかしい連中だ、ムカデに蜘蛛にエビだと?
なんともまぁ食物連鎖ピラミッドにも例えられない様なヴぁらヴぁらな奴らだ!」
何が愉快なのかけらけらと笑いながら歩きだすが一歩を踏み出す前に彼の生命は消失する事になる
敵は最大規模の警戒をしていたのだ
それこそ彼らにしてみれば何が起きようとも反応していただろう
エリザは一瞬の内にサーベルで切り刻まれ、ピオスの六本腕による竜巻の様な回転攻撃により
当たりにばら撒かれると最後には本型コンソール操作によるエリアハッキングにより、
欠片が着地した地点が全て爆発する
これぞオーバーキルというものだろう、爆発地点には何も残っておらず、これで生きていたら奇跡だ
彼らにしてみれば女王をダンジョンごと極太の光線で叩き切った者
最初の一撃で奴を消さねばどうなるかは外文明交信局の者でさえ理解が及ばないのは確かだろう。
「…あっけなさすぎる、もしや先ほどの派手な登場は囮…その間に迷彩システムを…」
「ハッハッハ!残念ながら散らばったのも今お前の後ろで抱き着いている俺も本物だ」
エビの様な頭にエリザの手が獲物を前にした下卑た笑みを向ける蛇の様に這い言葉を掛ける
その蠱惑的な笑顔は本来の攻撃的な物でありブランシェの生命は既に握られているのだ
故にピオスとハビィは一秒ほどの時を無意味に過ごした、悩み迷うは生命の常だがここでは間違いだ
ハビィはこの時死んだ、彼女が重力に従い足を下ろしていた床が突然地割れの様にアギトを開くと
彼女はガーデンシュレッダーに投入された端材に巻き込まれた昆虫の様に似た未来へと落下した。
耳障りな解体音はまるで彼らに向けられた鎮魂歌の様を醸し出している
奏でた楽器は彼らの一人だがエリザは大した問題ではないだろうと考えた、どうせ私が殺すのだと。
そんな考えと行為をエビ頭の後ろ方向から抱き着き、行動に移しているのだから性格が悪すぎる
「さて蜘蛛腕女!そこの足元は危険だぞ?」
瞬間的に判断したピオスは、フランジェを救助するためにエリザの後ろ側へコンマ一秒程の速度で
現れるが彼女の足元に突如として巨大な爆発が起こり煙に包まれると、そこにはただ何も無かった
エリザの手には先ほどまでハビィが持っていた筈の局地的管理コンソールを手に握りしめており
ただ仲間のうちの一人の攻撃を真似しただけだ
「…馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?何故ハビィしか操作できない暗号化コンソールを使えている!?」
「ハッハッハ、ちなみに管理コンソールから既に暗号データも女王の連絡先も既に抜いてるぞ?
起動に対しての質問はもうあと圧縮年数前にするんだったな、早いのは剣先だけか?」
「御影鴉装備ですらハッキングに一年もかかるのを約コンマ一秒のみで…一体貴様は何も」
「あ、時間稼ぎに付き合うつもりはないぞ?」
ぐさり、と鈍く水がかき混ぜられるような音を発しながらブランシェの胸からエリザの腕が現れる
その手には黒いルービックキューブ状の正方形が握りしめられており、そこから伸びる管は既に
エリザによって引きちぎられている様だ、未だ火花散るそれを追従する肉片ごと引き抜く。
「汚染源はこれか、女王様も中々えぐい事をする、無意識下の者に寄生して周辺に汚染をばら撒く
ナノマシンなぞ古すぎて誰も使わん手だぞ」
握りしめる手には引き千切られた管が発する火花、それと共に敵対者を侵食せんと激しい熱量が
エリザに対して殺意をむき出しで襲い掛かるが古すぎるソレは最新鋭のハックツール相手では
ただの熱された鉄の球という価値しか彼女には強請れないだろう。
「さて、これで更に女王を怒らせて冷静な判断が出来なくするかね!」
見事なスローイングにより上空数百mまで吹き飛んだ、汚染源は驚くことに機能を停止せず尚の事
空を侵食し瞬時に衛星兵器へと変貌し、敵対者エリザベートを滅せんと瞬時にミサイルを連射撃!
「その態度二重丸だ!貴様に自己意思があれば恋人にする事もやぶさかではないが死ねェッ!!!」
【救世主プログラム最大幸福効率で進行中!神を崇めよ!悪魔は失墜し全てを救世主が侵食する!】
ズルリとあらゆる色の液体がエリザの体から垂れ流されると圧縮空間と停滞収縮時間が同時に発生
そこにはあらゆる物が存在せず白黒の単細胞が次々と発生と合体を繰り替えし続ける
白黒の液体がおよそ50m以上の巨大な上半身だけの女性体へと変貌するが蛹の変態は止まらない
彼女の頭上に歯車の光輪が何重にも現れると顔であろう部分を光輪と共に汚染源へと向ける
【最終最強最後の審判!バベルの救世主意思レベル十億五千九百十六万千七百五十三起動!】
何十にも偏在する力場増殖製造歯車に彼女が息を吹きかけると空を全て飲み込む程に極大な救いが
何ら彼女の製造理由とは関係のない汚染源を焼き尽くした
瞬間的な救世の後、そこには何もなかったかのようにただ静寂が世界を包みこむのみであった
【あ、最後にこの三人蘇生しておこ、材料は俺の体でええやろ】
救世主の性格としては適当で最悪な部類だろう、ただ彼女は時代の被害者という文字が大嫌い故に
いい加減な態度をしながら生命を救うのだ、めちゃくちゃな道筋をたどりながら。