14.ショウジRe.004
文字数 2,580文字
罠を内側から食い破ってぶっ壊すとか、罠が罠になってなくて敵さんに同情しますね…。
この人たちが敵でなくて良かったですよ。
墓標という文化は私の故郷には無かったものですが、死者の霊という概念は面白いものですね。
なむなむ……
「さてウアンさん。これでトレグナンは解放されたわけですが……といっても、中枢が壊滅し機能しないであろう点を考えると、あえなく破壊されてしまったと見ることもできますけれども。敵の狙いは何でしょうね。私たちが駆けつける前にパニックを起こしてしまう、という選択をしなかった」
ダメージの修復にはもうちょっとだけ時間がかかるようなので、状況の整理がてらウアン氏と意見交換を始めてみる祥示。
「……先ほども推測した通り、正面きって仕掛けてくる意思は少なくとも現時点では無いのだろう。このもう終わった文明をサルベージできないように妨害し破壊して私達に恥をかかせたいだけであれば、トレグナンの中枢を壊滅させた時点で全船団に布告し、パニックの混乱に乗じて大々的に破壊活動を進める作戦の方がスムーズだ。そうしないのは奴らとしてもそうではまずい理由がある、例えば人員や手段が限られているとか、あるいは──」
「何か隠密裏に事を進めたい何らかの理由がある、という事かもしれませんね。単純に思いつくのはこの次元自体には特段の興味はなく、私達ES職員に危害を加えることが目的である……というケースですか。すべては私達を罠にかけるためのお膳立てだったならパニックを起こす必要はありませんから。あとは……ESへの挑戦以外で何かあるとすれば……奴らはこの次元で得たいものがあって、こちらにちょっかいを出してくるのはそれを邪魔されないための牽制または陽動だ……みたいなケースでしょうか」
「もし私達への敵対意識以外に目的があるのだとすれば、そこに『ロストキングダム』……失われた本来の王、ペレオームが絡んでいると見ている」
かつて16隻の船で構成されていたこのシークス船団は、ある事故により9隻の船を失い7隻まで数を減らしたという。そのとき失われた本来の母船、それがペレオームである。ペレオームが喪失するまではトレグナンは居住区であり、逆に言えばペレオームは居住人口が多いという意味での母船ではなかったが、この船団の、この文明の知識と頭脳が集積されていた。
それをロストしたことで、この文明はこれから先に発展していく可能性も失ったのだという。
今、ウアン氏らシークス支部の面々がサルベージ活動を進めている、そもそもの理由でもあった。
「つまり奴らはペレオームを探している、と?」
「それは無いな。ペレオームはもはやこの次元のどこにも存在していないことが調査済みだ。……次元の外にも無い事までは誰にも保証できないが」
「もし漂流しているペレオームを見つけたいなら、この次元に乗り込んでくる必要すらないという話ですか。ええと……確認しますが、このシークス文明はまだ次元間航行技術の発明までは至っていないはずですよね。だとするとそれって……」
「表向きは──といってもESの上層部内での『秘匿された表向き』であって、シークスの人々や末端の局員にはそれさえ知らされていないのだが──自然現象として発生した次元の歪みに運悪く巻き込まれたという事になっている。この『表向きの見解』は、本来は私ですらそうだと信じていなければならない立場だ。だが次元崩壊などそうポンポンと都合のいい座標で起こってたまるか」
「つまりそれは、人為的に起こされた」
「問題は、誰が起こしたのか、だ。奴らが力任せに外部から次元に穴を開けるなどという大々的な動きに出れば、事前に察知され殲滅されるだろう。そうならないためにはシークス人の協力が必要だったはずだ」
「……奴らが例えば『次元間航行も可能なほどの技術が得られる』みたいなことをエサに、シークス指導層と船団の半分を唆して仲間に引き込んだ……」
「察しがいいな。あくまで憶測だが、そんな所だろうと考えている。この騒動の背景もな」
「ちょっと待ってください、すでにペレオームが敵の手にあるのなら、今回の敵の目的は何です?一定数のシークス文明人が妨礙者の側についた、それは残念な事ですが、もはや彼らは本来あるべき文明の住人とは言えない。叩き潰すしかありません。しかし敵の側に立ってみれば、目的は果たされているのでは?」
「それを戴く民なくして、王とは呼べまい」
「!」
ほとんどのシークス市民はペレオームが失われた後も大部分は居住区であったトレグナンで、少数は残りの6隻で生活を続けてきたのだ。船の数では妨礙者についた方が多いが、人数では残っている方が圧倒的なのだ。すっかり妨礙者に染まってしまった指導層が、置き去りにしてきた民衆を迎えに来たとすれば辻褄は合う……ESによって文明の未来がないと判定されサルベージを受けるという、その文明人自身にとってみれば政治的に微妙なタイミングに乗じて。
「『錦の御旗』という訳ですか……性質が悪い。そういうことなら、あの城は物理的な罠である以前に政治的な罠だ」
惨殺された死体の山、破壊された城下町、そういう状況をプロパガンダに使われれば、ESとかいうやばい連中に従うよりも帰還した王に倣って妨礙者様の配下になろう、という空気が醸成される可能性もあった。そうなればサルベージは断念せざるを得なくなったかもしれない。仮想空間自体をシャットダウンできたお陰で情報統制が敷けたのは不幸中の幸いだった。
「面倒臭いなあ……つまり、民衆がどちらを支持するかを意識しながら戦わないとまずいってことじゃないですか~~」
敵が大々的に仕掛けてこないのもおそらくは同じことなのだろう。大手を振って民衆の不興を買うような暴れ方をすれば「置いていったくせに、今さら戻ってきてなんだ!」となってしまうかもしれない。おそらく、シークス船団全てが自発的に妨礙者の側についたという事実が重要なのだ。
我らの方が正しい、ESは間違いだ、と主張したいがために。
「クソが」
おっと汚い言葉が出てしまった。
聞かなかったことにしてもらおうと弁解の言葉を考えているとき、通信が入った。
「ウアン頭取。オーンです」
サルベージ作業を進めている途中であるはずのオーン局員だった。
その通信の内容を確認するのは、次の職員に任せよう。