21.Ykre.006
文字数 3,430文字
IDは身体に埋め込まれているため、例え死しても寸分たがわぬ組成の身体を創ればIDの一致により魂が呼び出され復活できるとか。
その場合、クローンなど複数の同じIDの身体が存在している場合はどうなるんでしょう。
並列処理がなされるのでしょうか。それとも認証エラーを引き起こすのでしょうか。
あるいはこの説自体やはり瞞しかもしれません...
~♪
ユキの周りにはエリザベートによって再構築されたピオス、ハビィ、ブランシェの3人がいた。
「お三方、ほら起きた起きた。起きないとその不思議な体組成を隅から隅まで調べちゃいますよー」
浮遊ビットでそれぞれの頬を呑気にツンツンとつつきながら3人を起こそうとするユキ。
ピクッ..
「お、生きてる生きてる。大丈夫ですかー?身体を作り替えられた気分はいかがですか~?」
最初に眼を開き始めたのはピオスだ。
大きな四ツ目が少しずつ開いていく。そのまま緩やかな覚醒を迎えると思った矢先、突如大きく見開かれた眼はユキを捉えた!
「!?」
「!?」
束の間、ピオスが六本の腕で掴みかかってくる。
「待て!」
と言われて待つ者はいない。
咄嗟に飛びのいて距離を取るユキの後ろで金属の擦れる音が鳴る。
白き涅槃の一閃
いつの間にかブランシェも起きていたようだ。
後ろに飛びのいた勢いを利用して流れるようにムーンサルトで剣撃をかわしてブランシェの背後を取るユキ。
「気持ちは分かるけど、少し大人しくしてもらおうか!」
そう言い放って術式を起動しようとしたものの身体が動かない。
「これはっ!!」
ES文字が連なった鎖のようなものがユキの身体を拘束していた。
構えているピオスとブランシェの奥で異様な剣幕のハビィが本を開いている。
刹那、六本の剛腕と光矢のごとき一刀が迫る。
「そこまで!」
剛声が鳴り響き全員の動きが止まった。
ブランシェの剣先はユキの胸にあるリアクターに真っすぐ向かい、ピオスの腕はユキの四肢と首を掴みねじ切ろうとしていた。
「お前達の目の前にいるのは我々の同胞だ。地球支部から遥々応援に来てもらった私と同じ支部頭取のユキだ。」
「そういうことだから、離してもらえるかな。」
「スマン!スマン!スマン!スマン!スマン!スマン!スマン!sm..」
「私としたことが...此度の無礼どうかお許しを...」
「うぅ...ごめんなざぃ...グスッ」
慌てて謝ったり膝を突いたり半べそをかいたり三種三様のリアクションである。
「ここに派遣されてすぐ何かに襲われて気を失って、目覚ましたら目の前に金ピカのすげぇのがいたからつぃ襲い掛かっちゃって...いやぁ申し訳ねぇっス。」
ばつが悪そうに事情を説明し始めたのはピオスだ。
「良かったら当時の状況を詳しく聞かせてもらえないかな?」
「はい、私たち3名はノームのサルベージ作業を開始するために派遣されました。これが...」
「げっ!うちら1ヵ月も気ぃ失ってたんスか。」
説明を始めたハビィに驚きを隠せないピオスが思わず割り込む。
「ほんとだ、もうそんなに... ノームに降り立ってすぐ、レーダーに敵性反応があったんです。船外からものすごい勢いで進行してきてて。」
「我々はそれを迎え撃とうとしていたのですが、突然背後から何者かに襲われて、そこからは何も記憶が...」
「なるほど、調査開始後すぐね。そしてウアンさんの方には異常なしという旨の報告が上がっていたということでいいですね?」
「うむ。そして初期調査を終えた段階でブランシェには"局の拠点に一度戻ってもらった。"」
「なるほど。一度局に。」
「あぁ、そういうことだ。この後少し出がけの用事が入ってる。悪いが後はまかせたぞユキ。」
「承知です。」
ウアンが通信を閉じるとハビィが首をかしげていた。
「あの、そういうことってどういうことです?」
「すぐに分かりますよ。こういうことだか、らッ!!」
バシュッ!!
突如ユキのビットから伸びたエネルギーブレードがブランシェを貫いた。
ように見えたが、ブランシェはサーベルで軌道をズラし攻撃を防いでいた。
「お、速いね君!」
驚いたユキを余所目にブランシェはそのまま刺突を受け流すように体を一回転させながら一気に懐に踏み込んでくる。
「はっ!!」
凄まじいスピードの刺突連撃を放つブランシェに対してユキは左手の義手から防御方陣を展開する。
バキバキンッ!!
防ぎはしたものの何発かは方陣を突き破り長い爪が砕ける音が響く。
さらに追い打ちを掛けようとするブランシェだが、ユキがブレードを出した2つのビットを身体の周辺で高速回転させると、たまらず後ろへ距離をおく。
「いい反応だけど、今のはさらに一歩踏み込んでかわすのが正解!」
2つのビットが射撃モードに切り替わりエネルギー段の波状攻撃がブランシェを襲う。こうなると圧倒的リーチの差でブランシェは近づくことができない。
「やめてください!!」
「お、おいっ、二人とも急にどうしたんスか!?」
急な展開にハビィとピオスが声を荒げる。
「二人が寝てる間ことを説明しようか。敵の襲撃を受けた君たちは身体にナノマシンを打ち込まれて傀儡と化した。傀儡の君たちはノームに敵を受け入れ、ウアン頭取には異常なしと虚偽の報告をしていた。ちなみに侵入した敵はうちの部下が片づけてくれたから安心してほしい。」
「そんなっ」
「まじスか...」
「で、一度交信局の拠点に戻ったブランシェはというと、局内のデータや情報を妨礙者に流す工作活動をしていた。オーン君の偽物やこっちの動きが筒抜けだったのはそのせい。でもおかしいことがある。」
波状攻撃をやめるユキ。その対岸でブランシェはただ静かに立っていた。
「君たちと同じように彼にもナノマシンが注入されてたなら拠点のセキュリティチェックを抜けられないはず。にも関わらず拠点内部から工作活動を続けていたということは...」
「てことは、どうなんスか!?」
「まさか...」
ブランシェが剣をゆっうりと構え直す。
「そう、我はシークス文明に生きる者でありながら、そなた達が妨礙者と呼ぶ存在に忠誠を誓った騎士(ナイト)。白き涅槃の騎士ブランシェ・フリードとは私のことだ!」
そう言い放つと全身の甲殻が変形し出し、海老のようなシルエットから白く神々しい甲冑を纏った騎士の姿に変貌を遂げた。
「それが真の姿ということですか。エリザが破壊したのは偽の義体か。」
「そなたらが意識を入れ替えながら活動していることはすでに把握済み。そして入れ替える際一時的に隙が生じることも。僅かではあるが、すり替わるには十分な時間だ。」
「術式の盲点を突くとはなかなか。でもそのやり口じゃ騎士はやめて忍者に転向することをお勧めしますよ!」
再びビットからブレードを出して戦闘態勢を取るユキ。
「おや、そろそろ時間切れでは?」
「!?」
一瞬の隙をついてブランシェが飛び掛かる。
真っすぐ縦に振り下ろされる剣をブレードをクロスさせて正面から受け止めるユキ
ズバァ!!
「んッぅ!!!」
受け止めていたはずのエネルギーブレードはあっさりと霧散しブランシェの剣はユキの肩を深く抉る。
「制限式転移術式。そなたはその維持に多くの力を使い続けている。他の者が行動している時は問題ないようだが、自身が行動している時は力を僅かしか使えない。いかがかな?」
それは誰一人として伝えていないはずの秘密だった。
「最初にバレるのはウアンさんだと思ってたんですが、いやはやまさか敵に言い抜かれるとは...いや、あの人なら知ってて黙ってそうですね。」
「シークスに来てからの動きをずっと見ていたが、そなたは目立った戦闘時には姿を見せないように活動していた。そして先の手合わせで明らかに力を使い過ぎないように戦っていることが伝わってきて確信した。もう転身はさせぬ。覚悟!」
ブランシェの剣がユキの胸に真っすぐ向かってくる。
ジィィィ!!
「むっ!?」
ハビィが拘束術式でブランシェの腕を止める。
「無駄なことよ。」
ブランシェは指先の動きだけで剣を器用に回転させ術式の鎖を断ち切る。
「まだまだぁ!!」
ガキィィィン!!!!!
船体の床をめくり上げ防御するピオス。
ユキをかばうように二人が立ちはだかる。
「急ぐっス!!!」
「今のうちに!!」
「すまない、二人とも!...」
彼らが無事持ちこたえてくれることを祈りながらユキは意識を手放した。