葬送

文字数 2,201文字

 夢のようだった。がむしゃらだった。泣いた。怒り狂った。苦しんだ。それは遠い日にあって今に至るまでの事。そこに君は常に居た。傍らでなくとも声を聞けなくても君は常に我と共にあった。だが、遂には終わりがやって来る。皺の手を握り締めて去って行った君。もう一緒には居られない、我が友よ。だからせめて見届けるよ。君と歩いた夢路の果てを。

アーニャ(Anja) オレゴヴナ(Olegovna) ブブノワ(Bubnova)

「飄々として尊大、それでいて人当たりの良い事。これで始末に悪くなければ実に愛らしいのにね」

イオン(Ion) マリカ(Marica)

「宿命に義理堅い事だ」

伝承 大いなる意志

「その存在は幾多の災厄に勝る悲劇

ジャルコ(Zarko) ゲリッチ(Geric)

「婆一人に手間を掛けるか」

傭兵達のぼやき

「希少だろ?」

「物言う廃墟だ」

「惜しくはない」

「実にユーモラスだ。頭がな」

宮本(みやもと) 顕子(あきこ)

滝山(たきやま)同志あれば、ぬしらなんぞに」

「安心しろ。すぐ連れて行ってやる」

延原(のべはら) 新助(しんすけ)

「世代的には肉弾三勇士ってとこか」

「見事に砕けたものな」

アーニャ

「なんで!? なんで酷い事するの!?」

城井(きい) 宇都宮(うつのみや) 宗房(むねふさ)

「してはならんのか?」

持明院(じみょういん) 秀國(ひでくに)

「躾がなっていない。飼い主の、だが」

中浦(なかうら) アガタ(Agatha) 愛美(まなみ)

「犬ころ屠るお仕事ねぇ」

八洲(やしま) 精士郎(せいしろう)

「ガリア人の暇潰しか」

白衣の研究員

我らが戴く存在に穢れなどあってはならぬ。我らを統べる存在の意志が我らと異なってはならぬ。彼女は実に素晴らしい! これ以上の潔白は無く、これほどに染め易きモノも無いのだからな」

不老不死 囚人より科学者達への警句

「結末を先に延ばした所で、時は戻らん」

遠野(とおの) フォイニクス(Phoinix) (まもる)

「あれだけの事をして、未だに懲りないとは」

執行代行者(Mother)

が宿る事が必ず良いとは言えないのよね」

粛清

「お休み、マザー

「はんっ、お笑い草。その程度で抑えきれる腕とでも?」

暗殺者

祝福あれ」

宇都宮宗房

「屈服せぬ敵は嫌いじゃない。圧倒は詰まらんのだ」

恩寵あれ」

「幾つもの結末を見た。驚く事でもない」

菊池(きくち) 武昌(たけまさ)

「ゴールは眼の前だ」

の時に悔いを遺すな。貴様の全てが決まるのだからな」

生月島の噂好き

異端の聖女、とは言い得て妙だね」

「幾らでも掛かって来い。群れを作り、揃って我が鑓のサビと消えるがいい!」

「女がツヴァイハンダー(Zweihander)を使えないっていつ決めた? これは私の得物なのに?」

捕食

「苦しみは僅かに聞こえた。それからは何も聞こえなかった」

「追い詰められれば藁をも掴むよ。だったら当然ね、放り出された私の剣を拾って使うのはさ!」

馬場(ばば) 資房(すけふさ)

「反乱者は生死いずれの結末を以て己が始末を得る覚悟はある。私の父は良く背き、良く死んだ。それが報いだ。喜ばしき最期を得た。しかし、現世はあまりに不快だ。反乱者の一味の(せがれ)共と薄々知りながら取り立てて悦に浸り、かの次第を矮小にした。その甘き事、その偽善・無策断じて見過ごせるものではない。君達は我が父達を愚弄した。その血と行いをも汚した。私は許さない。父の死を、革命の在り方を汚させないために、首相、私は反乱する」

「――覚悟してよね? アナタは、ここで、今宵、死ぬ!」

 その後、戦線は安芸・石州方面で膠着、これを機に停戦協定が結ばれたが、屋代島失陥後に畿内海軍が無差別攻撃を実行したため、東京政府内には「新兵器」を使って畿内を武力制裁せよ、との強硬論もあるという。


だが…吉野首相にとっての真の脅威は、彼女のすぐ近くに迫っていた。

 吉野首相の側近にして相棒でもある蓮池夏希…彼女の正体は、首相の親米左派路線に反発してクーデター光復十五年の九州政変を謀り、そのために戦死した江上(えがみ) 護智斎(ごちさい) 慶也(よしなり)の娘であった。


首相に近侍した本当の目的は言う迄も無く、亡き父の仇を討つ事…復讐にほかならない。


だが、怨敵として憎むにはあまりにも不器用で、アイドル的パフォーマンスの裏で、孤独に喘ぐ首相を前にして、果たして彼女を殺すべきなのか、あるいは共に生きる道があるのか…蓮池大尉の心中は、惰性と葛藤に揺れ動いた。

 しかし、先の戦闘で邂逅した、宇喜多軍のある傭兵の言葉が、最後の決心を促した。


彼は、「ヨルダンの男」は言った。

イブン(Ibn) マスード(Massoud)

「己の生まれ、成り立ちを忘れて生きられようものか!」

 方広院の仰る通り、言の葉には人の心を動かす力がある…良い意味でも、悪い意味でも。


蓮池こと江上夏希は、「己の由来」から逃れたくない自分に気付き、後は「それを為せ」との(めい)に従うのみである。


彼女のような不穏分子を未だ抱える九州軍の中には、東京葉山(はやま)円明(えんめい)次官と連絡を持ち、彼に雲母日女(きらひめ)皇帝の勅命を偽造させて軍を動かしていた者すら居た。


共産主義、軍国主義、そして教会過激派…様々な勢力の思惑が交差する中で、日本列島は夏を迎える事になる。

「我が名は江上、江上夏希
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登場人物紹介

【空界月姫】はすいけ なつき

蓮池 夏希

西海道 筑紫県 筑後郡 八女市


 日本国民軍九州鎮台府、参謀科大尉。北九州蓮池冬弥に養育された後、日本国民軍に志願した。九州を統治する吉野菫西海道政府首相の側近として彼女を良く支えるが、不遜な言動で口論を招く事も少なくない。かつて「吉野五人衆」と呼ばれた九州鎮台総督、江上 護智斎 慶也機甲中佐の娘。


―ただ「愛してくれた」人のために―

【万物流転】なかうら Agatha まなみ

中浦 アガタ 愛美

西海道 肥前郡 島原県 平戸市 生月町


 日本天主教会に出没する、謎に包まれた修道女。「救世旅団」と呼ばれる武装修道会の主人であり、共産主義者らへの白色テロ(赤狩り)を繰り返してきた、中浦家の傭兵組織である。彼女自身も、医学や武芸に強い。瀬戸内海の戦いでは、十三宮聖須崎優和に協力する。幕下に家所花蓮(いえどこ かれん)・沼田忠吉(ぬまた ただよし)らが居り、代理人の指導者も存在するらしい。八洲家の宇都宮宗房(うつのみや むねふさ)と取引し、暗躍させる事もある。


―愛なかりせば堕ちたる者―

【地平天成】じみょういん ひでくに

持明院 秀國

関西州 河内府 摂津郡 大坂市 中央東区


 方広院和泉の弟で、近畿(関西)地方を統治する畿内軍閥の皇帝。京都の名門である藤原近衛(ふじわら このえ)の末裔で、出自相応の優れた人格と実力を以て東京政府と対峙する。


「我が誉は平らかなる世の為に」

【令月風和】うきた Amir きよざね

宇喜多 アミール 清真

関西州 播磨県 摂津郡 神戸市 兵庫区


 中國地方を治める山陽軍閥の指導者で、アラビアの一神教(回教)に帰依している。浮田郷家(うきた さといえ)の兄。


「個は全のため、全は個のため。願わくは我らを導いて、正しき道を辿らしめ給え」

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