第15話 パチンコの裏側 その3

文字数 1,383文字

脳内麻薬(ドーパミン)が大量に放出され諭吉はすっかりいい気分になった。

『僕はついてる、僕はラッキーだ。
 もしかしてギャンブルの才能があるんじゃないか。
 こんなに簡単に勝てるなんて、パチンコってちょろい!』

などと、不覚にも大いなる勘違いをしてしまった。

出つづけた玉は、箱8個分。換金して三万円ほどになった。
当時、2.5円の換金率だったから、一万二千個ほど玉が出た計算になる。
店にとっては、大盤振る舞いといってよい。
換金を済まして店から出ようとすると後ろから声がかかった。

「せんせーい、〇〇先生じゃありませんか」

……せんせい……誰の事だ??
自分は一介のサラリーマン。
先生と呼ばれる覚えはない……。
自分に言われたのではないと思い、ガラス扉をおして店を出た。
すると、声をかけた二人の人物は後を追って店から出てきて、なおも話しかけてくる。
従業員の制服を着ていないので、店員でないことは明らかだった。

一人はでっぷり太った恰幅のいい親父。
もう一人はバーのママかと思うようなけばい化粧をした女性だった。
ふたりとも40代は過ぎているだろうと思われた。

「いやぁね、先生のお姿を監視カメラで見つけたときにはびっくりしましたよ」
はげた親父はひひひっと笑いながらそう言った。

「当店にご来店いただいてありがとうございます」
「いやぁ、そのぅ……」

「楽しんでいただけましたでしょう?」

あきらかに、誰かと間違えている。
人違いであることを説明しようとして、はっと気がついた。
今この親父は監視カメラと言わなかったか?
監視カメラで監視され、だれかと勘違いされている

『楽しんで』と親父は言った。そうだ。楽しかったとも。
いつもなら、銭を失うだけのパチンコが今日は八箱ものドル箱!!!

その意味を悟って顔が青くなるのがわかる。
ラッキーでもなんでもない。これは、これは!
ただの八百長じゃないかーーー(°Д°;≡°Д°;)
いい気になっていた自分が馬鹿みたいに思える。

「先生にはいつも、うちの息子がお世話になってますからね」

『特別にサービスしたのだ』とその顔は語っている。
ひやあせが出てくる。自分は、悪いことはしていない。
見知らぬ街で、ふらりとパチンコ屋に入ってパチンコを打っただけだ。
パチンコ屋の親父が勝手に知り合いと勘違いし出血大サービスをしてくれただけの事だ。

だが、間違えるパチンコ屋の親父も親父だ!
小学校か、中学校か、高校か知らないが、.こんな、こんな、キマヅイ状況に陥るような父兄の店に学校の先生が、遊びに来たりなんかするわけがない!

「息子さんはとても、優秀ですから……」
などと、その場を取り繕い、先生でないことがばれる危険な質問が出てくる前に。
あいまいな笑顔を浮かべながら、急いでその場を後にした諭吉であった。

諭吉様は話し終えると手にしたコーヒーを飲み干した。

「フーン、そんな面白い……じゃなくて恐ろしい体験をしているとは(≧▽≦)……」

経営者がユーザーを監視し、裏でパチンコの出玉操作をしてるとわかったら、そらまあ、パチンコ屋に行きたくなくなるよね。
事実、諭吉様は結婚してから15年、あれ以来、一度もパチンコ屋に行ったことがない。

パチンコにのめり込み、借金地獄に陥る前に真相がわかって、ラッキーだったというべきなんだろう。
そう、ある意味、彼はついていたのだ。
パチンコ依存症になる前に真相がわかったんだから。
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