第13話  音楽とカメラと人材

文字数 5,045文字

(音楽とカメラの評価は、人材評価のヒントになります)

1)評価のサンプル

この章は、本書の中では、おまけですので、スキップしてもらっても、論旨に変化はありません。

本書では、ジョブ型雇用を前提とした、人材の評価を論じています。

しかし、人材の評価に関するデータを集めることは容易ではありません。

2)音楽評論

30年くらい前まで、音楽のメディアも非常に高価でした。その後、レンタル店が出てきて、レンタルで視聴が少し可能になりましたが、その対象は、流行しているものに限定されていました。

レンタル店が出て来る前は、メディアを購入する前には、音楽をラジオで聞くか、評論家の批評を見て、購入することが多かったです。

このため音楽評論家の評価は、非常に大きな影響力を持っていました。

現在は、低音質であれば、非常に多くの音に触れることが出来ます。

また、インターネットで、作曲家や演奏家に関する情報も多く収集できます。

1946年に、は小林秀雄は、44歳の時に、「モオツァルト」という評論を書いています。
しかし、1946年ですから、LPレコードはなく、宮沢賢治と同じSPレコードを聞いていたと思われます。そうなると、オペラの全曲をいくつ聞いていたかは、怪しくなります。


吉田秀和は「それを読んだ時のショックは一生忘れられないだろう。」と「モオツァルト」を賞賛しています。

しかし、吉田秀和は別格として、1946年に「モオツァルト」を読んで関心した人が、モーツアルトのオペラをどの程度聞いていたのでしょうか?

「モオツァルト」は、大学の入学試験にもよく使われていたと思います。

「モオツァルト」は、エビデンスに基づく評価(評論ではありません)ではないと思われます。理由は、テクノロジーの遅れで、データが圧倒的に不足していたと思われるからです。

最近では、CDの価格も下がって、CD100以上のモーツアルトの全作品演奏も数万円で購入できます。

また、1956年は、モーツアルトの生誕200年のモーツアルトイヤーで、モーツアルトの演奏史の上では、この前後で、モーツアルトの評価が変化し、演奏も変わったと認識されています。

小林秀雄の生前に「モオツァルト (小林秀雄)」とモーツアルトイヤーの関連も整理されなかったと思われます。

ウィキペディアの「モオツァルト (小林秀雄)」は、日本語版だけで、他言語はありません。

つまり、「モオツァルト (小林秀雄)」は、日本国内でしか通用しません。

吉田秀和は各段の大家でしたが、より小粒の評論家も大勢いました。

中には、無謀な演奏の評価をした評論家もいます。

最近になって、インターネットで演奏家に関する情報が簡単に入手できるようになりました。

そうして情報を見ると、演奏家の中には、評価対象外の人がいることもわかってきています。

「作曲家の前で演奏して、賞賛された。作曲家と一緒に演奏旅行した。作曲家から、楽譜に書いてない点についてアドバイスをうけた」演奏家も多くいます。

こうした直伝演奏家の演奏は、曲を解釈する場合の基準であって、評価はできません。

昔は、情報が少なかったので、無謀にも、直伝の演奏家の演奏に、低い評価をつけた評論家もいます。

最近は、演奏家の音を簡単に確かめられるようになっため、CDなどのメディアのお買い物ガイドとしての音楽評論家という職業はなくなりました。

今から、考えると、お買い物ガイドの音楽評論家は、一般の人より圧倒的に多くのCDやレコードを聞いているという権威で食べていたことがわかります。

お買い物ガイドの音楽評論家は、新譜のCDを1枚1枚聞いて評価して点数を付けます。中には、購買者のことを考えて、大中小の3種類の機械で視聴しているという評論家もいました。

けれど音楽を言葉で表現できる訳はありません。(注1)また、CD1枚は60分位ありますので、それを毎日10枚以上視聴するためには、膨大な時間と集中力が必要です。

現実には、それは不可能なので、頭の部分や終わりの部分だけを聞いて、あたかも、全曲聞き通したように、評論を書く人が増えます。

それでも、CDが1枚3000円していた時代には、手抜きがバレることはありませんでした。

最近は、ボックスセットのCDは1枚が300円程度です。インターネットで聞ける音楽も多くあります。

そうなって、音楽評論家の手抜きがバレてしまっています。

これだけ情報が増えると、何らかのスクリーニングが必要ですが、それが、音楽評論家から、インフルエンサーや、アマゾンのお薦めに替わっています。


3)カメラとレンズ

一方、カメラやレンズに関するデータは、WEB上に沢山あります。

カメラやレンズは高価です。レンタルも出始めていますが、まだ、そんなに普及していません。

筆者は、カメラとレンズの評価を見れば、人材評価の問題点についてのヒントが得られると考えます。

カメラとレンズの評価をみると次の特徴があります。

3-1)エビデンスの不足

カメラとレンズは高価で、昔のCDやLPのように簡単に購入できません。

そこで、お買い物ガイドを必要としている人は大勢います。

アマゾンには、評価投稿がありますが、これは、評価の中立性が疑わしいこと、評価の対象が不明確な問題があります。

評価の対象が不明瞭とは、類似の製品は、同じグループになるので、グループ内の違いが問題になるかわからないことです。

また、カメラの場合、撮影対象(風景、人物、花、鳥など)や、撮影後の利用(印刷、WEBなど)で、要求されるスペックが異なりますが、それらは整理されていません。

整理されていないのか、意図的に整理していないのか、そこは疑問です。

音楽評論家が活躍していた頃のCDの値段は3000円で、廉価盤が1000円でした。価格差がありましたので、3000円の方が推薦が多く、1000円の方が録音が古く、推薦が少なかったです。この1000円の方は録音が古いかマイナーレベルで、日本では知名度の低い演奏家でした。それで、1000円廉価盤の評価を下げた評論家が多かったのですが、1960年頃までは、録音は、大がかりでしたので、録音が残っている演奏家で、聞くに値しない人は少なく、その中には、直伝の演奏家も含まれていました。つまり、価格が高い方が演奏が良いというレコード会社に都合のよい評価をしていました。

カメラの場合にも、カメラメーカーとしては、価格が高い方が性能が良いと評価してもらわないと困ります。ただし、この評価には、無理(難点)があります。

難点の原因は次の点です。

(1)要求されるスペックを満足していれば、それ以上の性能は無駄になります。

インスタグラムは、1080x1080ピクセルが基本です。Google等が、画像認識に使っている画像の解像度も1000x1000程度です。これは、100万画素になります。利用上は、広めに撮影して、トリミングするので、100万画素では不足ですが、800万から1000万画素あれば十分です。

動画の4K画質は縦2160×横3840=8,294,400ピクセルなので、830万画素になります。

一方、ダイナミックレンジは、カラーの紙印刷では7EVです。カラー画像の標準フォーマットであるJpegは8EVです。PCのディスプレイの潜在能力は10EVです。デジタルカメラの能力は12から14EVあります。

つまり、WEBでの利用であれば、今後の展開を考えれば、足りないのはダイナミックレンジで、解像度ではありません。

(2)カメラはコンピュータである。

コンピュータはムーアの法則に従って、同じ性能のものが18か月で半額になります。

カメラやレンズが発売になって、WEBにレビューがのります。

2年も経つと基準が変わります。しかし、それが明らかになると不都合になります。

カメラや、レンズを購入するときに、レビューの時期を勘案しないといけなくなります。

それでは、不都合なので、レビューでは、一番肝心な部分は書かれていません。

コンピュータであれば、4年前の40万円のコンピュータは、最新の10万円のコンピュータにかないません、カメラも実態はそうなのですが、そのスペックは、表に出ないようにしています。

これはフィルム時代のカメラやレンズのイメージを残して、ビジネスをしているためです。

(3)メーカー期待の商品イメージ

以上のように、実態は戦国時代なのですが、カメラメーカーは価格の高い方が性能がよいという秩序が保たれているというイメージで商品を売りたいのです。

これは、カメラは、マウントの制約があるため、市場原理が働きにくいためと思われます。基本的には、カメラとレンズは同じメーカーでないとレンズ交換ができません。

カメラとレンズの性能を比較するには、同じ対象を異なったカメラやレンズで撮影した物を比較すれば良いことになります。

RAW現像の仕方で出来上がりが大きく異なりますので、できれば、RAW画像でデータを提供すべきです。

しかし、カメラメーカーで、RAWのサンプル画像を公開しているところはありません。
また、比較するには、画像の版権が放棄されているコピーレフトである必要がありますが、その条件も、満足されていません。

WEBに、カメラやレンズの評価が載っていますが、それらは、プロのカメラマンや、カメラの販売店のもので、カメラメーカーの利害関係者は書いています。(注2)

その内容は、どんな製品でも悪いところは書かない、高い製品は、安い製品より性能が良い(注3)というものです。中には、こうした答えありきの製品評価しているために、添付のサンプル画像と説明文が反対になっていることもあります。

ともかく、エビデンスは示さず、定型の評価をしています。

このレベルの評価であればChatGPTの方がましでしょう。


3-2)海外の評価


評価のエビデンスは示されないと書きましたが、実は、海外では、評価されています。

評価対象は、日本のカメラメーカーのカメラとレンズです。

その評価にかける情熱は大きいです。

カメラとレンズは工業製品ですが、製品の性能にはバラツキがあります。

アップルは、iPhoneの部品の一部の生産を、中国から、インドに移動したが、インドの向上の歩留まりは50%で、半分が、基準を満たさなかったという話がありました。

工業製品の出来はバラツキます。途中で、チェックして、不良品は除きます。調整が出来る構造であれば、不良品は調整して、再度検査をします。それでも、バラツキはゼロではありません。同じお金を払って、購入しても、性能がよい個体と性能があまりよくない個体があります。

10サンプル以上の製品をつかってバラツキの評価をしている場合もあります。

3-3)まとめ

ノーベル賞を受賞すれば、文化勲章がもらえます。

文化勲章をもらった後で、ノーベル賞を受賞した例はありません。

これは、文化勲章が、形式の評価(ドキュメンタリズム)であって、内容の評価をしていないことを指しています。

評価をするには、膨大なデータを集めて、大変な努力をする必要があります。

カメラやレンズの評価すら、海外任せの日本には、データをとってエビデンスに基づく科学的な評価をする文化(科学的文化)はありません。

海外の科学的評価を権威と考えて引用する経験科学経由の科学、つまり、人文的文化しかないように見えます。

この状態では、ジョブ型雇用の人材評価はできないと思います。

人材の評価は給与に結びつく、難しい問題です。

ここでは、カメラとレンズの例をあげましたが、より難しい点の少ない対象で、まずは、評価のトレーニングから始めることが、科学的評価への近道であると考えます。


注1:
音楽を言葉で表現できるというフェイクは、科学的文化を人文的文化で理解できるフェイクにつながっています。

注2:

日銀の金融政策について、日銀の現総裁と次期総裁が評価をした結果が、マスコミで報道されています。これは、利害(関係)者そのものです。

株式関係者も、金融緩和を支持しますが、利害関係者です。

利害関係のない第3者の評価をほとんど耳にしない、また、そのことが気にならない状態になっています。


注3:
カメラの価格が高ければ性能はよいという判断は権威主義です。

ポストが高ければ、能力が高い、給与が高ければ能力が高いというのは、権威主義で、人文的文化です。これは、科学的文化に基づく、評価を阻害しています。

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