第3話 変わらない原因

文字数 2,976文字

(変わらない原因を見つけて、取り除く必要があります)

1)変わらない日本

30年間、日本は変わらないと言われ続けてきました。

「逆戻り病」は変わらない原因にあたります。

原因を見つけることは簡単ではなさそうですが、ヒントはあります。

変わるためには、必要な手順があります。

直進している自動車が交差点で左折する場合を参考にします。

その場合の操作は、ハンドルを左に切ることですが、それに伴って、必要となる条件があります。

(1)変換量の計測

ハンドルを切る量は、交差点の曲がりの角度に合わせる必要があります。

それには、自動車のむきを計測して、変化量を調べ、ハンドルを切る量をそれに合わせる必要があります。

(2)前方のモニタリング

ハンドルを切った後に見える風景は、直進しているときに見える風景ではありません。

つまり、変化した後に何が待っているかを予測することはできません。

(3)まとめ

以上を勘案すると、変化をモニタリングしてチェックすること、変化後の風景は事前にはみえませんので、何がおこるか分らないといって、変化の目をつぶさないことが必要です。

しかし、現在の日本には、この2つは、見られませんし、ハンドルを切る(産業構造を変える、企業を改廃する)話も、効きません。

2)変化の速度の課題

日本は、デジタル社会へのレジームシフトに乗り遅れかかっています。

アルゼンチンは、農業先進国でしたが、工業社会へのレジームシフトに失敗して、先進国ではなくなりました。

日本も、ほぼ、同じ状況にあります。

問題は、変化の速度です。

企業を例に説明します。

ある企業が、ソフトウェアを開発するケースを考えます。

このソフトウェアは、B級人材のチームでは開発に1年かかりますが、A級人材(高度人材)のチームであれば、半年で開発できます。

この場合、労働生産性で単純に考えれば、A級人材の給与は、B級人材の2倍になります。

しかし、先発のソフトウェアが普及してしまうと、後発のソフトウェアが市場参入しても、シェアを取ることは困難です。つまり、製品が完成する半年の時間差には、時間価値があります。この時間価値を考えれば、2倍以上の給与を支払うべきです。

デジタル社会の企業では、先行する企業が圧倒的に有利にビジネスを進められます。

A級人材の数は少ないので、エンジニアの数は問題になりません。

DXにともなって、IT技術者を何人採用するという人事計画を発表している企業が多くありますが、これは、DXを、B級人材で進める計画を示しています。言い換えれば、生産性を10倍に伸ばしてデジタル社会の企業になる計画ではありません。

こうした企業の給与は上がらないはずです。

多くの日本企業は、ハンドルを切らずに、現在の延長線で、DXが進められると考えています。

年功型雇用を維持して、その中にジョブ型雇用をブレンドして、年功型雇用の年中行事の春闘を続けるつもりです。

そこには、早急にビッグテック並みにDXを進めて、レジームシフトするという意気込みは感じられません。

レジームシフトは、一般国道から、高速道路のレーン変更するようなものです。今までどおり、一般国道を走り続けることはできますが、レーンを高速道路に変更した自動車に比べて、圧倒的なスピード(生産性)の差がついてしまい、永久に追いつくことができなくなります。給与格差も拡大し続けます。

3)三菱スペースジェットの教訓

2023年2月7日、三菱重工業は、ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発中止を決めました。

経緯は以下です。

2008年09月 初号機納入予定を2013年と発表
2009年09月 初号機納入予定を2014年第1四半期に延期(1回目)
2012年04月 初号機納入予定を2015年後半に延期(2回目)
2013年08月 初号機納入予定を2017年第2四半期に延期(3回目)
2015年11月 実機初飛行に成功
2016年08月 初号機納入予定を2018年に延期(4回目)
2017年01月 初号機納入予定を2020年半ばに延期(5回目)
2020年01月 初号機納入予定を2021年以降へ延期(6回目)
2020年10月 開発凍結
2023年03月 開発中止

開発凍結後は、1600人の開発人員が100人まで減っていました。

これは、開発速度の不足が撤退につながった例です。

筆者は、最大の課題は、人材の確保にあったと推測しています。

人材の確保には、優秀な人材を高い給与を払って獲得することと、優秀な人材が活躍できる企業組織運営ができることの2つの意味があります。

ジョブ型雇用で高い給与を払っても、開発中止の経済的ダメージに比べれば、元が取れたはずです。

三菱スペースジェットの事例は、特異な例外ではありません。

三菱スペースジェットを日本国に置き換えれば、状況はほぼ同じ変遷を経ています。
日本国は、「ジェット旅客機」の開発の代りに、「経済成長」、「新産業の創出」、「科学技術立国」、「少子化対策」、「年金問題」、「温暖化対策」などの諸問題を抱えています。

過去、20年の間、政府は、政権が替わるごとに問題解決をすると言い続けて、何一つ解決していません。

三菱重工業は、納期を6回延長しましたが、日本政府も、政権交代する度に、納期を延長しています。

三菱重工業は、ジェット旅客機の開発から撤退しましたが、日本国は、諸問題の解決から撤退するわけにはいきません。

三菱重工業は、ジェット旅客機の開発が経営として成り立たないと判断して撤退しています。

日本国は、撤退できませんが、毎年財政赤字が積みあがっています。これは、「経営として成り立たない」状況と言えます。

筆者は、三菱スペースジェットには開発速度を上げられるように、組織や人材の組み換えをして、方向転換ができるチャンスはあったと思います。

その変わるチャンスを活用できなったことが、開発中止につながっています。

同様に考えれば、過去に成果をあげていない有識者会議のシステムを活用する政府の政策マネジメントも破綻しています。

政府は、国産IC開発企業に、凝りもせず、補助金をつぎ込むようです。必要なのは、補助金ではなく、高度人材と高度人材が能力を発揮できるビジネス環境です。補助金頼みの企業には、先がありませんので、高度人材は、寄り付きません。

2023年2月に発表されたソフトバンクの業績は、ファンドが振るわず、巨額の赤字になりましたが、アーム社は大きな利益をあげています。アーム社は、ファブレスです。高度人材の働き口に、工場は必須ではありません。

技術系人材を確保するために、一律に初任給を上げる企業が増えています。この方法では、B級人材しか確保できません。A級人材を確保するには、その人の実力を評価して、給与に反省させることと、能力を発揮できるジョブを提示できていることが必要です。

高度人材を評価するには、評価者も高度人材である必要があります。
日本の企業には、人材が評価できる人材がいなくなっていることがわかります。

「日本はどうして変われないか」、「日本企業は、どうして、デジタル社会の企業に向けて、大きくハンドルを切れないのか」という疑問に対する解答の一つがここにあります。

日本企業は、ハンドルを切ることのできる人材を淘汰してしまったのです。
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