第28話 高度人材の給与

文字数 2,496文字

(高度人材の適切な給与の決め方を考察します)

1)給与の評価

高度人材の給与は、生産性に比例します。

つまり、生産性を計測することなしに、給与はきまりません。

1990年頃、発展途上国のラオスに初めてテレビ局が設置されて、テレビスターが誕生します。ラオスは社会主義国です。テレビスターの給与が、首相の給与より高くなって、引き下げられたそうです。当時この話をきいて、発展途上国だからやむを得ないといった人がいます。

しかし、現在の日本も、給与がポストで決まる同じような状態にあります。

一方、野球やサッカーチームで一番上のポストは監督です。しかし、監督より給与の高い選手はいくらでもいます。それは、スター選手がいれば、観客動員数が違うからです。スター選手になると年俸が非常に高くなります。そこで、スカウトマンが全国を走り回って有望な新人の発掘をしています。新人はスターになるかもしれませんが、その場合の給与には、割安感があります。

ポストで給与が決まることに違和感を感じない人は、人文的文化の持ち主です。


科学的文化の人は、生産性を反映しない給与には違和感があるはずです。

よく講演会の講師の略歴に、政府の専門委員会の委員の経験者であると書かれていることがあります。

生産性(出来高)で考えれば、日本経済は過去30年伸びていませんので、政府の専委員会のうち生産性の向上に寄与した委員会と生産性の向上に失敗した委員会を比べれば後者の方が多いはずです。

野球の監督の経歴で、優勝チームの監督には、価値がありますが、どん尻チームの監督の経歴には価値がありません。

同様に考えれば、成果を上がられなかったの専門委員会の委員の経歴は書かないで欲しいというが普通です。そうならないのは、成果(エビデンス)を問わない人文的文化に洗脳されているからです。

2)生産性の差

ソフトウェアエンジニアの生産性調査では、1980年代に、IBMが行った調査レポートが広くしられています。その調査では、優秀なプログラマーと初心者のような成績の悪いプログラマーの生産性の差は26倍ありました。

これから、生産性に比例して考えれば、10倍程度の給与差はあって当然と思われます。

この調査は、全てのプログラマーが解ける課題を対象にしています。

数学の難問のように、誰でも解けるわけではない課題に対しては、課題を解けるプログラマーと課題を解けないプログラマーの生産性の比は無限大になってしまいます。

ともかく、課題を解けるプログラマーがいないと、先に進めないのです。

2023年1月27日のDianmondに、野口悠紀雄氏が、Levels.fyiのアップル、グーグル、メタ、マイクロソフトのソフトウェアのエンジニアの給与について記事を書いています。

表1は、この4社をBigtechとして、それ以外のアメリカのサンフランシスコ、英国、日本のソフトウェアエンジニアの給与を1ドル130円として万円単位で整理しています。

—-------------------

表1 2023年1月のソフトウェアエンジニアの給与

区分          最高額     初級者の額
Bigtech         15639     2197
San Francisco Bay Area  3900      2379
UK           1733      718
JPN 1043 645

—-----------------------


表1から、日本が圧倒的に安いことがわかります。

Bigtechの給与は、最高レベルのソフトウェアエンジニアでは、サンフランシスコエリア平均より高いですが、エントリーではさがありません。

アメリカのエントリーレベルの給与は、英国と日本の3倍くらいありますが、生活費が非常に高いので、可処分所得の差は、給与の差に比べれば小さいと思われます。

筆者は、高度人材の獲得に必要な条件は以下と考えます。

(1)高度人材に高い給与を提示できる利益率の高いデジタル社会型企業であること。
(2)高度人材に求めるジョブ(難しいが解ければ、競合企業に対して優位に立てる課題)を設定できること

この課題をクリアできる日本企業は少ないと思います。

給与がLevels.fyi、Glassdoor、Blindなどのサイトに掲載されるようになったのは、最近です。このデータは企業の公式データではないので、精度には問題があります。しかし、従業員はこれらのサイトに殺到し、同僚や他社で働く同様の職種の人たちと自分の報酬を比較して、条件が悪い場合には、転職を考えるか、給与の値上げ交渉をするようです。

3)アートの課題

ソフトウェアエンジニアの仕事は極度に演繹的です。

筆者は、コンピュータが出て来る前にあった職業で、ソフトウェアエンジニアにもっとも近い職種は、作曲家だと思います。

つまり、帰納的に考えるのではなく、演繹的に、プログラムをコーディングする作業は、音楽理論に基づいて作曲する作業に共通しています。

そこには、STEAM教育を行うべき理由があります。

作曲家の生産性を調査した研究はないと思いますが、日本作曲家の芥川也寸志は、モーツアルトの最後の3つの交響曲について、自分が楽譜を書き写す速度より、モーツアルトが作曲する速度の方が速いといっています。



引用文献
GAFA大量人員削減でも高度人材は「年収2億円超」、熾烈な獲得競争に日本は勝てるのか2023/01/27 Dianmond  野口悠紀雄

levels.fyi
https://www.levels.fyi/t/software-engineer/locations/japan

Levels.fyi、Glassdoor…給与サイトに利用者殺到。公開データで会社と交渉、報酬30%アップする技術者も 2022/07/30 LIFE INSIDER
https://www.businessinsider.jp/post-254707
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み