第43話
文字数 2,076文字
デスクのひきだし、壁ぎわの棚、ロッカーのなか。あらゆる場所をあさる。が、なかなか、それらしいものが出てこない。
鈴がつぶやく。
「机のなか、妙にキレイ。ムダなものが何も入ってないよ。やっぱり、わたしたちが調べるって想定されてる」
だとしたら、何か仕掛けがあるのだろうか?
「なあ、この金庫。あやしないか?」
ルーカスが指さすのは、教頭の机のうしろに置かれた金庫だ。棚のなかに隠されていて、いかにも大事なものをしまってありますという感じ。
「それ、あくのか?」
蘇芳にたずねられ、ルーカスが手をかけた。ダイヤル式ではなく、デジタルで暗証番号を入力するタイプだ。
「暗証番号言うてもな」
ルーカスはなにげなく、四桁の数字を入れた。どうやら、自室の暗証番号らしい。信じられないことに、ひらいた。
「あいたで。嘘やろ」
「たぶん、生徒が試しそうな番号がいくつか登録されてるんだろ」
「とにかく、なか見ろよ」と、紀野。
ルーカスが金庫の扉をひらく。なかは単純な構造だ。ひきだしなどの仕切りはいっさいない。
紙片が入っている。もとはA4判の茶封筒におさまっていたのだろう。が、すでに封は切られている。封筒の上に数枚の書類がちょくせつ置かれていた。
「あった!」
ルーカスがとりだし、書類に目を通す。が、そのとき、サイレンが鳴り響いた。ピコピコという警告音ではない。もっと激しい。いつもの波のうねりのような。
紀野が口早に告げる。
「ナイトメアモードだ。逃げろ!」
書類を読んでいるヒマはない。ルーカスがにぎりしめたまま、外へ走りだす。春奈たちも追った。が、廊下に出たとたん、細い廊下から処刑人がむかってきた。このままだと鉢合わせだ。職員室のむこうからは死神が近づいてきている。このままでは、全員がつかまるか、切り刻まれる。
と見て、紀野がとびだした。自ら、処刑人にしがみついていく。
「行けよ!」
自分が盾になっているあいだに、仲間を逃がそうというのだ。
「でも……」
ためらう春奈の手を鈴がつかんだ。
「行こう。処刑人につかまっても、殺されるわけじゃない」
たしかにそうだが、ゲームはリタイアだ。いや、それも、誰かが代行すればいいのか?
迷いつつも、手をひかれるままに走った。ルーカスや蘇芳も追ってくる。むしろ、彼らが追いぬいて、さきに穴のなかへあがると、上から手を伸ばしてきた。鈴と春奈を一人ずつ、ひっぱりあげる。
「紀野くんが……」
「いいから、行こう。全員つかまったら、おしまいだ」
蘇芳は無情にも丸いハッチを閉める。それも後続の死神を遮断するためにはしかたない。じっさい、すぐそこにまで迫っていた。
真っ暗闇だ。この場所に死神がいたら、さけようがない。急いで懐中電灯をつけた。それらしい姿はない。だが、むこうがわのドアをあけたとたん、待ちぶせしている可能性はある。
ナイトメアモードが何分続くのだろうか? 前は十分だった。
「紀野くん、つかまったよね?」
「死神に攻撃されるよりマシだよ。処刑人に捕捉されると、死神の攻撃対象外になるみたいだし。あとでホールに行ってみよう」
言いつつ、蘇芳が肩を押してくる。
一人ずつ欠けていく。追いつめられる感覚。
闇のなかを泣きながら這った。
ありがたいことに、地下の連絡通路を進んでいるうちに、ナイトメアモードは終わったらしい。寮側のドアをあけても、がらんとした廊下があるだけだ。死神も処刑人もいない。
「処刑人は人間だったな」と、蘇芳が言った。
たしかに、ロボットではなかった。とても大柄だった。黒ずくめで、レフリーのようにフルフェイスのヘルメットをかぶっていた。
「学校の教師かも」
鈴もそんなふうに言う。
「なんとなく、見おぼえがあったよ」
春奈にはそこまで見ている余裕はなかったが、そう言われてみると、誰か知った人だったようにも思う。
「それにしても、なんで急にナイトメアモードになったんやろな。やっぱ、おれが書類とったからか?」
「それだったら、前に誰かがあけたときにも、ナイトメアモードになってるはずだけど」
「廉太、無事やといいけどなぁ」
「まだホールには運ばれてこないね。ここだと、またナイトメアモードになったとき、ふせぎようがないよ。とりあえず、どっかの部屋に行こう」
ルーカスと鈴が会話しながら歩いていく。エントランスホールには、まだ死神はいなかった。寮内は電気もついたままだ。消灯時間をすぎないと、死神は現れないらしい。なおさらに、さっきのナイトメアモードの発動がわからない。ルーカスの言うとおり、金庫のなかみに手を出したからという理由ならいいのだが。
近いこともあり、いったん、後藤の部屋に四人で逃げこんだ。そこであらためて、ルーカスのにぎりしめていた書類をのぞきこむ。生徒の写真つき入学願書。それに、このゲームにおいて、もっとも大切なもの。なぜ、誰を、どんな理由で恨むようになったのか、記されている。
「これや。おれらの欲しかったもん」
まさに、
ソレ
だ。しかし、春奈はすぐに気づいた。
「全員ぶん、ないよ?」
枚数があきらかにたりない。