第7話
文字数 2,039文字
お菓子を食べて気持ちが落ちついたあと、あらためて、二人の作戦会議が始まった。
「まず、ルールをまとめるね」と、鈴が言う。
春奈は黙ってうなずいた。鈴に任せておけば間違いない。
「特別科の生徒十八人はそれぞれ、恨む者、恨まれる者の二つのグループにわけられ、それぞれにペアとなる一人が定められている」
「うん」
「期限の一週間以内にペアを殺さないと、自分が死ぬ」
これにも首をたてにふる。
「自分のペアが誰なのかは、過去のしがらみで決まってる。わたしの相手は、たぶん、お父さんを罠にハメた大学病院教授の子ども。ちょくせつの相手じゃないけど、年齢から考えて、そうじゃないとおかしいから」
「わたしの相手も、たぶん、そう。犯人に子どもが一人いたんだよ」
「つまり、わたしたちは恨む者だよね。で、わたしたちのペアは両方とも恨まれる者」
「うん」
ポテチをつまみつつ、鈴は続ける。
「スイッチを作動させるためには、食堂のキーボックスから、相手の錠前に鍵をさしこまないといけない。それを粛清という。ペア以外の錠前を選ぶと自分のスイッチが入ってしまう」
これにも、うなずく。
「ただ、誰がペアなのか、生徒側からはわからない。わかってる人もいるんだろうけど」
「そうだね。だから、小町はたぶん、恨む者」
「それはどうかな」
鈴が反論したので、春奈はおどろいた。
「えっ? どうして? だって、ボックスに入ろうとしてたよね?」
「恨む相手がハッキリしてるなら、恨まれる側にも自分がその人の恨みを買ってると理解できてるよ」
うーんと春奈はうなる。それは考えてもみなかった。でも、そうなのだ。春奈や鈴のような事情があれば、自分のペアの名前も顔もわからない。でも、ちょくせつ自分の身に起きたことで恨んでいるなら、たがいに相手がわかっていて当然なのだ。
「そっか。となると、小町は自分を恨んでる人がわかってるって可能性もあるんだね?」
「だから、小町は保留。でも、たぶんだけど、紀野くんは恨む者なんじゃないかな」
食堂で「アイツに復讐できる」と言ったときの紀野のようすは真に迫っていた。あれが演技だとは思えない。それに、恨む相手が誰かわかっていないのだから、自分の関係で恨んでるわけじゃない。
「紀野くんも家族に不幸があって、誰かを恨んでるんだね?」
「たぶんね。小学校を聞いてきたから、そのころに事件があったんじゃないかな」
「そっか」
「話それちゃったけど、ルールの残り。粛清ができるのは一日三人まで。ボックスに入ったあと八分以内に粛清しないと自分が処刑される」
そう言ってから、鈴はつかのま考えこんだ。
「どうしたの?」
「さっき、井伏くんはなんで、毒ガスで殺されたのかなって」
「えっ? どうして?」
「だって、わたしたちには、みんな電極が埋められてるんだよね? しかも、死後すみやかに移植用の臓器として解体される」
わかってはいたが、あらためて解体と言われると寒気がした。まるで家畜になった気分だ。それも食用で育てられている牛や豚。自分たちはそのために三年間、たっぷりお金をかけて育成されていた。内臓のなかまで誰かにじっと見られてるみたいな薄気味悪さを感じる。
「脳に電極が埋められてるのは、そのためだよ。脳が死んでも、しばらく心臓は動いてるんだ。移植するなら、鮮度が大切だからね。脳みそだけ殺して、体は新鮮なまま使いたいんだよ。なのに、毒ガスで殺したら、心臓がとまるかもしれない。だったら、最初から電極で死なせたほうが、学校側からしてみれば、一番いい方法じゃない?」
「そう言われてみれば」
「もしかしたら、電極のスイッチを入れられる人がそばにいないのかな。それか、ほんとにスイッチはあのキーボックスの錠前しかないのか」
春奈には校長の考えなんてわからない。鈴がなんて言うのか待っていると、彼女は安心させるように微笑した。
「とにかく、ボックスに入るのは、ほんとに相手が誰なのか確証が持てたときだよ。じゃないとムダに殺されるだけ」
「そうだね」
「どうにかして、ペアの相手を見つけよう」
「どうやって?」
「情報を集めるしかないよ。どの人がそうなのか、話を聞いて」
じつは、春奈には一人、怪しいと思う相手がいる。強盗は日本人ではなかった。妻だという女は日本人だが、犯人は黒人系の外国人だったのだ。
「羽田くんが怪しい」
「そうだね」
羽田・ルーカス・
「でも、待って。春奈。いきなり『あなたの親は強盗殺人犯ですか?』つて聞いても、答えてくれるわけないよ」
「だよね」
「ここはまず、容疑者を半分にしぼるべきだと思う」
「どうやって?」
「恨む者か、恨まれる者か。それだけでもわかれば、ターゲットが減るよね?」
「そうだね」
特別科は十九人。でも、そのうち後藤だけは端数という理由でサンプルとして殺された。残りは十八人。つまり、九組みのペアがいる。