第49話

文字数 1,692文字



 三時半になって、見張りを交代した。

「ナイトメアモード、よく乗りきれたね」
「後藤の部屋に逃げたしな。けど、ドアがもうあかんわ。次、ナイトメアんなったらヤバイ」
「後藤くんのとなり誰だっけ?」
「板橋やな。おまえらにも暗証番号教えとく。ヤバくなったら逃げや」
「ありがと」

 ルーカスと蘇芳が無事でよかった。しかし、逃げ場もじょじょに減っていき、追いつめられている感じがする。

 ルーカスたちがアクビをしながら帰っていき、暗闇のなかでホールを見つめる。
 ナイトメアモードもなく、退屈なほど平穏な時間だった。朝方、六時になると、死神は去っていった。それを待ちかねたように、入れ替わりで処刑人が現れる。紀野は結束バンドで手足を縛られ、車椅子に乗せられていた。意識はあるようだが、わめくでもなく、こわばった顔つきで処刑人をながめている。

 紀野は立派だ。春奈なら、これから自分に起こることを予測して、泣きわめいている。

 死神がいなくなったから、もはや危険はない。春奈たちは階段をかけおりた。ホールに入っても攻撃するものはない。

「紀野くんを解放して!」

 鈴が叫ぶものの、処刑人は無反応だ。ロボット二体が助手についていて、紀野を立たせる。結束バンドが処刑人によって切られた。だが、ロボットに押さえられているので逃げだせない。

 紀野は静かな声で告げた。

「おまえらに、おれの鍵を預ける。代理人になってくれ」

 ポケットから鍵を出してなげ渡してきた。床に落ちたソレを、鈴がひろう。

「相手はわかってるの?」
「確信はない。でも、



 それ以上、くわしく聞いている時間はなかった。処刑人が紀野の腕をつかみ、ひっぱる。ホールの中央に磔台が現れた。床の一部が左右にひらき、そこからせりだしてきたのだ。

「紀野くん!」
「頼んだぞ」

 処刑台は鉄骨の棒にすぎなかったが、合体ロボットみたいにガチャガチャと形を変形させ、またたくまに十字架になった。
 処刑人が紀野を十字架に押しあてる。片手にボルトを、片手にハンマーを持ち、それで紀野の腕をつらぬいた。

 紀野の口から恐ろしい咆哮(ほうこう)があがる。
 春奈は見ていられなかった。目を閉じ、顔をそむける。かぼそい悲鳴は美憂のものだろう。しかし、鈴は目をそらさなかったらしい。

「紀野くんが磔刑にされた!」

 鈴が叫ぶと、処刑人が去っていく足音が聞こえた。春奈も目をあけ、そのようすを怖々ながめる。紀野は左手をボルトで十字架に刺されていた。が、右手はフリーだ。参加者が磔刑現場を発見したから、刑が完了したとみなされたのだ。すぐにロボットがボルトを外し、車椅子に乗せると、紀野を運んでいった。

「紀野くん。代行、必ず成功させるから、気をしっかり持ってね!」

 鈴が励ます言葉に、かすかに反応する。が、じきに気を失ったようだ。そのまま、エレベーターに乗せられて去っていった。

「紀野くん。どうなるんだろう?」
 春奈がたずねると、いつものように鈴が答える。
「宇都宮くんは救護室にいたよね。たぶんだけど、止血のための縫合手術をしたら、救護室につれてこられるんじゃないかな。代行はわたしたちが頼まれてるし、期間内はそこでロボットの看護を受ける」
「そっか」

 それなら、とりあえず心配はない。苗花が死んだから、もう誰にも襲われないはずだし……。

「代行、できるのかな?」
「紀野くんの言葉を信じるなら。それに最終日まで、まだ三日ある。今日も入れたら四日。もしかしたら、紀野くんが帰ってくるかも」
「そうだね」

 ボルトを打たれてすぐに救出されたから、出血は少ない。それに片手ですんだ。宇都宮ほどの重傷ではなかっただろう。

 紀野がいなくなったので、春奈たちは部屋に戻った。鈴の部屋はドアが限界なので、今夜からは休む場所をかえなければならない。

 残りは四日。時間はまだある。
 だが、春奈自身は粛清できる気がしない。紀野は見当がついているようだが、いったい、誰なのだろう? 春奈はまったくわからないのだが。

(紫藤くんか、宇都宮くん? でも、確信が持てないと、粛清なんてできないよ)

 不安な気持ちだけがつのる。
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