第45話 今年の色

文字数 1,120文字

◇◇ 今年の色 ◇◇


近年、音がよくなってきたと、普門館は評判である。
しかし、吹コン1か月前の今になっても、今年のサウンドの色がはっきりしない。

たんに音が良いだけでは、自由曲を演奏した時の訴求力に欠ける。「金・代表」にはなれない。
バンド独自のサウンドの色の良さが出た演奏でない限り、説得力に欠け、曲想と照らしたときの不自然さが印象に残ってしまうのだ。

サウンドやハーモニーの大部分は監督が指導する。バランスがきちんととれているか、ユニゾンはあっているかとか、うるさい。
しかし、曲の「表情」は、監督の指導を超えた部分も大きいのではと思われるのだ。



昼休み。

ミオはお弁当箱を広げながら、クラスメートで吹部の学生指揮者のサナに話しかけた。


うちらの長所って、なんやろ?

 そやな。全パート、じっくり聴かせられるだけの力はあると思うんや。やけど、逆に、それが、足引っ張っとるんやないか?

なぜ?

 メロディばかり気をとられ、表現が過剰になって、語りすぎてしまうんやないやろか。そうでなければ、音を抑えめにするだけのコントロール...それがバランスやと思っとる。

語り方?

 うん。たとえば、打楽器の立体的な音、低音楽器の豊かな音の表情、和声へのこだわりとか...。

あ、そうすれば、もっと、立体的なサウンドが生まれてくるんやな。

 うん、課題曲についても、出だしの第一印象のインパクト、普門館らしいインパクトの出し方は、そのあたりにあるように思えるんや。

そっか...。パーン!ちう出だしだけが、インパクトやないんや..。
それにしても、'今年の色'は、どうやって出てくるんやろ?監督の指示通りやってったら、だんだんと到達していくものなんやろか?

 違う、思う。

うちも、そんな気、しとった..。

 よく、とことん突き詰めて練習を繰り返しているうち、あるとき、監督の一言で、パーンと一段、演奏が突然、上手くなる瞬間って、あるやん。

あるある。

 その繰り返しのスピードアップしかないと思うんや。

そっか..。いきなり、ぴょーんってうまくなる方法なんて、無いんか..。

 いや、ある、思う。

えっ、あるんか。

 うん。一流のオケなんかそうやけど、指揮者がボソッと言っただけで、団員は即座に修正が効く―――つまり、指導するほうも、指導されるほうも、両方とも一流同士の場合やな..。
まだ、未熟なうちらの場合は、猫に小判、豚に真珠やな..。弁当に生姜焼きは、うまかったけど..。

はは..。監督も大変やな..うちらみんなで、明るく、がんばろな。

 うん、ひょっとしたら、それが一番大切なことかもしれへんな、きっと..。さっ、行こか。


 二人はお弁当箱をしまうと、急いで昼練習に向かった。











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